社説:政府・沖縄協議 5回ではとても足りぬ

毎日新聞 2015年08月13日 02時32分

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設をめぐる政府と沖縄県の集中協議が始まった。両者の溝は深く、協議が成果を生むかどうかは楽観できないが、せっかくの機会を形だけのものに終わらせてはならない。政府は、沖縄側が抱く根本的な疑問に誠意をもって答え、議論を深めてほしい。

 政府は9月9日までの1カ月間、移設工事を中断し、事務レベルを含めて5回程度、県と集中的に協議する。その初回として、菅義偉官房長官が沖縄を訪れて翁長雄志(おなが・たけし)知事と会談した。

 会談後、菅氏は「互いに大きな距離感があった。協議を進めて理解が深まるよう努力したい」と語った。

 ぜひ議論してほしいのは、海兵隊の抑止力や国際情勢との関係だ。

 中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発に対して、沖縄に駐留する海兵隊が抑止力になるのか、それがなぜ辺野古移設しかないという結論につながるのか。これは、沖縄がずっと抱いてきた根本的な疑問だ。

 政府は、そういう疑問に正面から向き合ってこなかった。菅氏は「日米同盟の抑止力の維持と危険除去を考えたときに辺野古移設は唯一の解決策」と言うばかりだ。

 もうひとつの重要なテーマは、沖縄の歴史への理解である。

 1996年の日米の普天間返還合意を受けて、当時の橋本龍太郎首相と大田昌秀知事は十数回、会談を重ねたという。結局、政府と沖縄の話し合いは不調に終わったが、政府が沖縄の歴史を学び、この問題に真剣に取り組んだことは、沖縄と本土の多くの人の胸に残っている。

 だが、安倍政権には、沖縄の歴史や心情を理解しようという姿勢が欠けていると言わざるを得ない。

 翁長氏は、協議前夜に菅氏と会食した際、沖縄の歴史に触れ「県民の気持ちには魂の飢餓感がある。その飢餓感を理解できなければ個別の問題は難しいかもしれない」と語ったという。沖縄だけがなぜ他県と異なる扱いを受け続けるのか、という県民の思いを受け止めることが、出発点になるという意味だろう。

 菅氏は、辺野古の工事中断期間について「あくまでも1カ月」と述べ、延長の可能性を否定している。だが、これだけ複雑で経緯のある問題を解きほぐすのに、たった1カ月間に5回協議するだけでは、とても足りないのではないか。

 今回の協議では、安倍政権の強硬イメージを和らげ支持率低落に歯止めをかけようという、政権側の思惑が働いているとも指摘されている。

 政治的なパフォーマンスだったと言われることのないよう、互いに納得がいくまで議論してほしい。

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