ソローキンにインタビュー――「ロシア人は国家に数百年仕えてる」

海外でも有名な現代ロシア作家ウラジミール・ソローキン氏は、8月7日に60歳の誕生日を迎えた。モスクワ・コンセプチュアリズム界から抜けだした人物、「青い脂」、「愛」、「ロマン」の著者、国内外の栄えある文学賞の受賞者、現代文学の古典作家であるソローキン氏は最近、絵画の制作にも取り組んでいる。今年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展では、芸術家エヴゲニー・シェフ氏と共同で、存在していない国家のパビリオンとも言える「テルリヤ」展を開催した。

 

 

――今日の世界をどれほど快適だと思いますか。現在は連ドラと交流サイト(SNS)という2つの特徴があります。興味はありませんか。

 

どちらにもハマっていません。妻の「フェイスブック」のページからログインすることもできますが、特に必要もないので、めったにそれはやらないです。連ドラについては、「ローマ」(アメリカ、イギリス)と「ゲーム・オブ・スローンズ」(アメリカ)、あとは忘れてしまいましたが、何かを見ました。でも、ある時点からマンネリに陥ってしまったようです。興行収入を得なければならない脚本家や監督を理解することはできますが、やはりクラシック映画の方が好きです。

 

 

――現在のもう一つの特徴としては、作家が積極的な市民的立場をとることがあります。これは作家にとって良い経験になりますか。

 

文学を破壁機として使ったことで、いつも文学を傷つけてきました。1960年代の作家を思い出してみましょう。何が残ったでしょうか。私には私なりの市民的立場がありますが、集団行動は好きではないので、デモに参加することはありません。どのような集団であれ、加わりたいとは思わないのです。積極的に立場を表明している作家というのは、何かを書き足りないのではないでしょうか。それとも、もう書けないのか。ナボコフ、ジョイス、カフカだったら、デモには参加しないでしょう。

 

 

――作家は状況がピークになっている時に、すべてを自分の目で観察しています。別の側面から見ることができるわけです。革命作家や前線作家などを例にあげることができます。

 

それらの作家の中で偉大な作家はいませんでした。トルストイがボロジノについて書いたのは50年後のことです。アーネスト・ヘミングウェイ、ノーマン・メイラー、カート・ヴォネガット、レマルクなどをとっても、偉大な文学ではありません。戦争や流刑を経験した作家が、これによって優れた作家になるというのは信じていません。ファンタジーは経験よりも先にくるように思います。これは私の個人的なユートピアかもしれませんが。

 

 

――それならば、相当の距離をおくべきかもしれませんね。ロシア人作家は国外で活動した方が良いとか。

 

戦争に参加してそれについて書くことと、イタリアに行って「死せる魂」を書くことは別物です。後者では対象物を目にしないため、ちょうど良いのです。チェスの愛好家とプロの違いは何でしょうか。プロはボードを見る必要はないのです。映画「愛のエチュード」では、いつでも木製のコマが主人公をいら立たせていました。プロが見ているのはコマではなく、それぞれのコマの何らかのエネルギーと力です。プロにとってチェスの一ゲームとは、エネルギー現象の衝突なのです。静物ではなく、プロセスとして見ています。ゴーゴリ、ドストエフスキー、ツルゲーネフを例にあげるならば、彼らを取り囲んでいるロシアがしばしば集中を妨げ、いら立たせました(笑)。これが普通です。私は「氷」を、日本で、非常に熱い月に、考案しました。「吹雪」は、ベルリンで、じめじめした季節の変わり目に書き始めました。

 

 

――「親衛隊士の日」を出版された時、自分の中で積極的な市民が目覚めたとおっしゃってました。その市民は現在どうしていますか。

 

彼が活動的だとは言えません。まじめな話、私は20歳の時から確信的な反ソ連主義者で、ソ連政府を嫌っていました。当時すでに、正常な人間の世界とは、ヨーロッパの民主主義だと理解していました。いまだにその確信は揺らいでいません。「親衛隊士の日」は、ジャンルの性格から、その点がより強調されています。国が転げ落ちている時、市民でいることは難しいでしょう(笑)。市民が自分の中から逃げていくのです。矛盾しているように聞こえるかもしれません。おそらくこれは弱気の現れでしょう…。野党指導者のナバリヌイ氏に批判されそうです。ただ、国民の気質をすぐに変えることなどできないと、かなり前に悟ったのです。政権交代すればいいというわけではなく、ヨーロッパ人はずっと前からすでに、国が国民に仕える世界に暮らしているのです。ロシアでは国民が数百年にもわたり、国に仕えています。これが主な存在論的違いです。【次ページにつづく】

 

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