社説:新幹線部品脱落 小さなミスも見逃すな
毎日新聞 2015年08月13日 02時30分
高速で走る新幹線は小さなミスも大事故につながる。こうした危険性を改めて認識させたのが、JR山陽新幹線で発生した防音用カバーの脱落事故である。
小倉−博多間のトンネル内を走行していた「さくら561号」で、床下を覆う重さ6.5キロのアルミ製カバーが脱落した。カバーは強い風圧を受けて、トンネルの内壁と車両の側面に交互にぶつかりながら舞い上がり架線に接触した。車体の39カ所が損傷し、車体への衝撃を手や肘に受けた乗客1人が負傷した。カバー脱落が駅通過時などに起きていれば大惨事になった可能性もある。
国土交通省は新幹線を運行するJR各社に対し、同様の部材が適切に取り付けられているか点検し報告するよう指示した。速やかな全車両の点検とともに、徹底した原因の究明が求められる。
JR西日本によると、カバーは2本のボルトと2カ所のフックで固定されていた。ボルトが2本ともなくなっており、隣の別のカバーもボルトが1本外れ、1本が緩んでいた。
脱落したカバーは走行試験のため、7月24日に付け直された60枚のうちの1枚で、付け直した後に事故が起きるまで点検を2回受けていたが、ボルトの緩みは発見されなかった。ボルトの締め付けが不十分で、点検でも異常を見逃した二重のミスが事故を招いた可能性が高い。点検方法の見直しが必要だ。
ボルトの取り付け不備が原因とみられるトラブルはこれまでにも起きている。2010年には東海道新幹線でパンタグラフの交換の際にボルト4本を付け忘れた作業ミスが原因で、部品が脱落して架線を切断する事故があった。03年には300系車両の床下の底ぶた取り付けボルト31本のうち5本が脱落し、13本が緩んだまま営業運転していた。
JRはトラブルのたびに再発防止策を取っているが、事故が繰り返される。これでは高速鉄道の安全管理に緊張感を欠いていると批判されても仕方ない。
山陽新幹線は最高時速300キロで営業運転している。トンネルに進入した時には特に強い風圧を受けるため、小さな部品が脱落しても大事故につながりかねない。
新幹線は海外でも「安全な高速鉄道」との評価が高く、政府が進めるインフラ輸出の中で力を入れている分野だ。アジアで関心を寄せる国も多いが、こうした事故が続けば良いイメージが損なわれる。
旧国鉄の技師長で新幹線生みの親といわれた島秀雄さんは生前、「怖いのはスピードへの畏敬(いけい)の念を忘れてしまうことだ」と繰り返していた。安全の原点に立ち返るべきだ。