南北朝鮮を隔てる軍事境界線付近は、朝鮮戦争が休戦になって以降、軍事行動が禁じられた非武装地帯とされている。

 ところがその韓国側の域内で今月、地雷が爆発し、韓国軍兵士2人が大けがをした。

 地雷は北朝鮮が敷設したとみられる。明らかな休戦協定違反である。南北間の緊張を高めようとする挑発行為が、国際的に非難されるのは当然だ。

 潘基文(パンギムン)国連事務総長は、事件について憂慮の意を表明したうえで、北朝鮮に事件究明の協議の席に着くよう求めた。

 北朝鮮指導部は、これ以上孤立する愚かさを悟り、真剣に南北対話に臨むべきだ。

 北朝鮮は、10月10日の朝鮮労働党創建70年に向け、軍事パレードを含む多くの行事を準備している。だが、国内に誇れるような外交成果のない金正恩(キムジョンウン)政権は、逆に南北関係を悪化させることで内部の結束を高める方策に切り替えた可能性がある。

 米国などの衛星に撮影されることを承知で長距離弾道ミサイル用の発射台の改修工事をしたことも、強硬路線への転換を示すとみられる。

 危機感を極限まで高めて譲歩を引き出す、祖父や父親譲りの瀬戸際政策だが、それで国家を苦境から救い出せないことは実証済みだ。正恩氏は、不毛な対外政策から決別するべきだ。

 北朝鮮による武力行為によって韓国兵に負傷者が出るのは、2010年の大延坪島(テヨンピョンド)への砲撃事件以来である。韓国側が動揺するのは理解できるが、ここは過剰な対抗措置に走らないよう自制を促したい。

 韓国軍は事件のあと、境界線付近で北朝鮮の体制を批判する大音量の軍事放送を始めた。北朝鮮が極端に嫌う措置であり、かつての激しい非難合戦を思わせる緊張の高まりである。

 00年に実現した初の南北首脳会談を契機にした折衝を経て、こうした放送は04年から止められていた。今回の事件で、11年間続いた最前線の静寂はついに破られてしまった。

 韓国軍はさらに放送を拡大させる姿勢も示すが、そうすれば情勢は一層悪化するだろう。北朝鮮指導部の戦術に乗せられることにもなりかねない。

 朴槿恵(パククネ)政権は熟慮を欠くような行動は控え、対立がエスカレートしないよう冷静に対処してもらいたい。

 韓国政府には、北朝鮮側の責任を追及する権利が当然ある。それと並行して、多様な外交チャンネルを駆使して北朝鮮を対話に導き出す工夫をしてほしい。