8月12日、日本マクドナルドホールディングスはサラ・カサノバ社長の記者会見の中で、上期予想とほぼ同じ上期売上高1720億円、当期純損失は262億円と発表しました。4月16日に発表した日本マクドナルドの『ビジネスリカバリープラン』から4ヶ月が経ち、新たなマクドナルドがブランド力強化や顧客満足度の回復のためにどのような施策を打ってくるのかが焦点となっています。
昨年7月に使用期限切れ鶏肉問題が発覚してからというもの、失墜した顧客からの信頼を回復することがなかなかできず18カ月連続減収に喘いでいる状態で、減益幅こそ徐々に縮小しつつあるとはいえ日本市場ではダウントレンドから抜け出せていません。
何しろ、全店客数が前年比マイナス19%、全店売上高で前年比マイナス27%ですから、どれだけ厳しい数字であるかは想像に難くありません。私事ながら、今年のマックのハッピーセットはポケモン各種遊具であり、私の家の子供たちは見事にまったく食いつきません。以前、ハッピーセットにブーブという車のおもちゃが起用されたときは、この子達は一生マックを食べて生きていくのではないかと不安になるほどのリピートをしていたんですけれども。
個人的な事情と合致するように、外食系の調査会社ではかねてからマクドナルドが強いとされてきたファミリー客の足が遠のき、一回の購買あたりの訪問客数平均も減少。それに被さるように、一時はマックコーヒーで盛り返したはずの顧客が今度はコンビニのコーヒーに取られ、結局はもっとも客単価の低いティーン層に店舗スペースを長時間占領される、という悪循環に見舞われております。つまり、落ち着いた雰囲気でコーヒーを飲みたい層も、ファミリーで手軽な食事を楽しみたい層も失い、よりジェネラルには新鮮な野菜の入ったハンバーガーやサンドイッチを百円高くても食べたいニーズをすべて落として、学生と近所のサラリーマンやOLのランチ需要だけで成り立っているような状態です。
昨今では新たに進出した中国市場での苦戦も伝えられるなど、グローバルに展開する優良企業であったはずのマクドナルドの暗雲が晴れません。一方、堅調な欧州市場や一部のアジアでは顧客とのエンゲージメントにある程度成功しており、そういううまくいった事例をロールモデルに日本でどのような展開をするのか関心を持たれてきました。
が、今回の発表の中には、マクドナルドが顧客への信頼回復策や、変化するニーズに対応するための抜本的な改革を打ち出すのではないかと予測される向きもありましたが、蓋を開けてみるとこれといった内容はなく、むしろマクドナルドとして何に取り組むのが良いのかいまなお思案中であるかのような印象を受けました。
日本では、むしろマクドナルドだけでなく、ワタミグループやゼンショーホールディングスの各チェーン系業態の伸び悩みを埋める形で新たな需要を創造する店舗が拡大し、マクドナルドの凋落した「朝食市場」での争いや、居酒屋業態での脱低価格居酒屋といった別の次元の競争が始まっているのが現実です。
一連の問題の根幹には、マクドナルドが本来持っていた強みがマイナスに転嫁してしまう社会変化があります。というのも、マクドナルドに代表される外食チェーンにおいては一般的にコストを低減させるための大きな方法として本社機能の強化による集中購買がまずメインにあります。そこから、手間のかかる一次加工から場合によっては店舗で簡単な調理だけで済ませられるよう「半製品化」を行うセントラルキッチン方式や、経験の乏しい店員でも一定の味付けにできるようなマニュアル化や、すべての店舗で同じサービスが提供できるような均一化されたデザインといった、安く、一定の品質のものをどこでも同じサービスで提供できるようにする、というのがマクドナルドのビジネスの勝ちパターンであったわけです。
おそらく、マクドナルドの不調は、きっかけこそ鶏肉の使用期限問題だったものの、根本の原因はマクドナルドをマクドナルドたらしめているメソッド、ビジネスモデルそのものが、日本の外食を楽しみたいメイン層のニーズから離れてしまった、というかなり危機的なものであることは言うまでもありません。つまり、ブランド力の低迷や商品企画力という表向きの話よりも、もっと根底にある「安いものよりも新鮮でおいしいものを食べたい」という日本国内市場の環境変化をもろに被ったということです。
7月に投入したレギュラーメニューにたっぷり野菜を加えた新商品がありましたが、客足の早期の回復には結びつかず不発に終わりました。マクドナルドが取り組むべき改革の方向性としてはおそらく間違っていないもののマクドナルドが本来持つ強みとは異なった施策であるため、効果が出てくるまで時間がかなりかかるのでしょう。やはり、マックで飯といえば、しょっぱいポテトと紙コップに入った冷たい炭酸飲料というセットメニューがベースにある限り、上に野菜が載ったところで食指が伸びるのか、というところだろうと思います。
おそらくは、やるべきことは現状の顧客ニーズに合う商品企画を打ち出してブランドの修正を徐々に行いつつ、次の消費者のトレンドがマクドナルドに有利になるまで地道に清掃や業務見直しをして準備することでしょう。当面の「ひとり負け」の現状から脱するために、どの客層にフォーカスした事業に仕上げていこうとするのか、マクドナルドの挑戦を見守っていきたいと思います。