2015-08-12
戦後裏面史〜元陸軍参謀・辻政信の参院全国区3位当選を描く「1959年の辻政信」を読んでみたい。【敗将列伝】
(※【敗将列伝】は準タグです。これで日記を検索すると、そのシリーズが出てきます)
この時期になると、どのメディアも当然ながら戦争の記録、記憶一色となる。そしてこれまた当然ながら、1945年の太平洋戦争敗戦の年を中心に、あるいは同戦争の開戦の記録や、遡っての大陸事変について報道される。
ただ、それはそれで重要だけれども……ちょっとだけ視点をずらして、こういうところも描けないかなあ、と思うのである。
政治家として
追放解除後の1952年に旧石川1区から衆議院議員に初当選。自由党を経て自由民主党鳩山一郎派、石橋派に所属。石橋内閣時代に外遊をし、エジプトのガマール・アブドゥン=ナーセル、ユーゴスラビアのヨシップ・ブロズ・チトー、中国の周恩来、インドのジャワハルラール・ネルーと会談している。
政治家になった辻は1955年(昭和30年)にソ連に視察旅行に出かける。このとき辻はソ連のさまざまな人と会話をして、ソ連の実情を看破した。また、ノモンハン事件で対決したジューコフと辻は極秘に会談し「アメリカが日本に小笠原列島と沖縄を返還したら、ソ連は千島と樺太を返すだろう」などの内容を話し合った。辻は次のソ連の政権はジューコフとフルシチョフで争われるだろうと予想したが、実際にそうなり、フルシチョフが政権を握った[16]。
衆議院議員4期目の途中だった1959年に岸信介攻撃で自民党を除名されて議員を辞職。参議院議員(全国区)に鞍替えして第3位で当選した。
この、1959年の参院選挙全国区で、辻はなんと堂々の3位当選であったことよ。
辻は戦時中、フィリピンでもさまざまなことをやらかしたが、そのフィリピン戦線で生死の境をさまよった山本七平がこう書き残している。
…追及するその人が、自分が戦争中何を信じ、何をいい、何を行ったかを忘れかつ棄却するための他者への追究は、追及という名の打ち切りにすぎない。
いまそれを批判することは、戦時中を批判すると同様にたやすい。だが私はいつも、その批判の横から、奇妙な”戦時中の顔”がこちらをのぞいていることに、気づかないわけにはいかなかった。
最初にこれを強く感じたのは、辻政信の華々しい復活であった。確か60年安保の少し前と思うが、参院選における彼の街頭演説の現場を偶然目にし、その痛烈な岸首相批判演説と実にみごとな演技と、それに対してやんやの喝采を送り、次々と握手を求めている聴衆の姿を見たときであった。なぜこれが可能なのか、なぜこれが常に通用するのか。なぜ彼が常に一つの「権威」として存続しうるのか。彼よりもむしろ、興奮し喝采し声援を送っている人々の姿に、私は、あの敗戦も克服し得なかった”何か”を感じた。
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衆院出馬と当選は1952年、参院選は1959年、いずれも主権を回復した日本国民が、完全な自由意志と自由投票により一票を投じた、民主選挙である。
その結果、食人参謀・辻は国民の代表者として議員バッジを着け、全国的な人気でも「銅メダル」を得たという…
ま、ウィキペディアにもあるけど「贅沢は一切しない」「危険な戦場でも勇敢だった」「部下を身を挺して助けた」「上官にも直言する」といった、ミクロのレベルで下士官や下級兵士に慕われるような美徳(の演技?)…銀英伝だったらむしろ善玉に付加される属性も発揮されたことがあるみたいで、それが議員当選の後押しになったことも認めざるを得ないだろう。
その政治家・辻の、あまりにも不思議な末路も面白いが、山本七平がおそらく絶望や困惑で見つめた「辻政信に喝采する有権者」と合わせて、参謀時代の話なども踏まえつつ、この選挙と、むしろ「辻支持者」に焦点を合わせた「1959年の辻政信」…これを描けたら、戦争以上に「ある種の教訓」になるんじゃないかと思うのです。
小日本主義のリベラリストで、息子が戦死した石橋湛山が、辻を懐刀とした皮肉
以前、辻については一度書いたことがあった。
【敗将列伝】原爆忌、終戦記念日を控え・・・”食人参謀”辻政信の著書が復刊! -http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20120805/p3
なんて本まで復刊されている、という驚きの報告にくわえて、こんなことも書いた。
辻の戦後政治家としてのスタンスが、”反共反米”的な色合いを濃厚に持っていたこと、そこから「反岸」だったことによる・・・「敵の敵は味方」「それが政治だ」と言ってしまえばそれで理屈は通り、納得するしかないのだけど・・・
石橋湛山も、日本国の総理の地位を得るまでは、「政治のデーモン」にその身も心も任せた時代もあったのだろうか
(石橋の識見は、総理辞職後の長い余生(議員ではあるけど)に発揮されたという人も多い)
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