2015-08-12

カルピス

 あれはまだわたしがおぼこだった頃。おざなりな愛撫も、ちんぽの味も知らなかった頃。

 あの年頃の女の子には必ずひとり以上は好きな人がいた。それは話をしたこともないひとつ上の学年の綺麗な顔立ちをした少年だったり、汗ひとつかかないようないやみったらしい数学教師青年だったり。対象はなんだってよかった。好きな人がいることが大切だった。

 わたしだって例外ではなかった。わたしにも好きな人がいた。彼は同じクラスコンピューター部の男の子だった。彼はわたしにとっては好きな人の条件をしっかりと満たしていた。

 他の女の子たちは口を揃えて、ありえないだの、根暗男だの、乳臭い男だの、とにかく彼のことを罵った。「あなたに彼は不釣り合いだから。」って。わたしはあの不細工じゃがいも達より容姿に優れていたから、到底彼女達の手には届かないような、学年イチ顔が整っているサッカー部のあつしクンだとか、インターハイで2位になった水泳部のたつやクンだとか、そういう人を好きになって欲しかったんだと思う。本当に勝手。わたしはじゃがいものために描き下ろされた少女漫画ではないのに。

 根暗で乳臭い彼は好きな人に最適だった。彼は人に興味を示さなかった。顔は整っているし、気さくに話をするのに自ら人に踏み込むような会話をしているところを聞いたことがなかった。わたしはそこが好きになった。都合が良かった。話を避ける手間が省けた。おせっかいなブスがくっつけようとしても彼には取り付くシマがなかった。私にとってこんなに素晴らしい好きな人はいなかった。

 あの年頃の子どもたちは男女間で関わりを持たない。男と女の真似事をし始めてついには本当の男と女になる。お互いを強く意識して排他的になる。体が変わると考えも変わるのだろうか。

 わたしはその排他的空気だんだんと耐えられなくなって行った。彼もまた排他的空気に閉塞感を感じる一人だった。

 彼は射精を知らなそうな透き通った肌をしていた。ソプラノの声は永遠に失われないのではないかとさえ思えた。彼は周りの第二次性徴よりも遅れていたように見えた。彼は性に置いてけぼりを食らっていたはずだった。

 閉塞感に耐えられなくなっていたわたし達が歩み寄っていったのはごく自然な成り行きだった。これといったきっかけも無かった。

 ある日、わたしは彼の家で遊んだ大乱闘スマッシュブラザーズをしていた。Nintendo64いびつな形のコントローラーを握りしめて、ジョイスティックを壊れんばかりに倒して遊んだ。わたしはその日に初めてちんぽの味を知った。どうということはなかった。何の知識もない彼はコンドームも付けずに挿入した。わたしもわたしで何の知識もないものから、それを拒むことをしなかった。ただ、彼が精通を迎えていたらしいと、今になって気がついた。

 彼の家で飲んだカルピスが薄かったことを、今飲んだカルピスで思い出した。そうして彼の射精に思いを馳せた。

 品のない女。それにしても本当に、どうしてあの容姿射精などできたのだろうか。

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