MKSAPアップします。
さあ、来週はようやく夏休み。
のんびりしますよー。
原発不明癌での治療 Treat cancer of unknown primary site
❶症例
69歳女性が、自分で触診した結果明らかになった腋窩のしこりを主訴に外来を受診された。彼女は健康で、随伴症状なし。既往歴・家族歴でも特記事項無く、内服薬も飲んでいない。
身体所見では、T 37.4℃、BP 110/70mmHg、Pulse 72bpm、RR 14/min。右腋窩に硬い、可動性の乏しい、2cm大の腫瘤を触知。乳房診察も含めて他の身体所見では異常所見を認めなかった。
血液検査所見では、血算・血清Cr値・T-Bil値・ALPは正常だった。
右腋窩腫瘤の穿刺吸引細胞診でAdenocarcinomaが検出された。両側のマンモグラフィー・乳房MRIは正常。胸腹骨盤CTでは腋窩リンパ節腫脹を認める以外には異常所見を認めない。
この患者で最も適切な初期治療はどれか?
A. 乳癌の化学療法レジメン
B. 腋窩リンパ節切除
C. 乳房切除+腋窩リンパ節郭清
D. 右腋窩部への放射線治療
❷原発不明癌
本患者で行うべきは、乳房切除+腋窩リンパ節郭清で、本患者は乳癌として治療を行うべきである。一つ以上の転移巣が同定されたが、通常の評価では原発巣の同定が出来なかった場合には、原発不明癌(Cancer of unknown primary:CUP)と考えるべきである。CUP患者での初期評価には時間をかけ過ぎるべきではなく、最も考え易い原発巣の評価に焦点を当てるべきである。腋窩リンパ節腫脹以外に他の異常所見を認めない女性は、Stage Ⅱの乳癌として治療すべきである。身体所見やマンモグラフィーが正常でも、乳房切除後に50-60%に原発腫瘍が明らかになる。胸部MRIではマンモグラフィー正常でも原発巣を同定できる可能性があり、評価方法として推奨される。実際に、腋窩リンパ節腫脹のみの原発不明癌とStage Ⅱの乳癌の生存率は同等であることが分かっている。
❸治療選択肢
乳癌は基本的には治癒可能な疾患であり、放射線療法単独や化学療法単独は推奨されない。リンパ節切除のみも原発巣として乳癌が疑われる場合には、治療としては不十分である。
Hainsworth JD, Fizazi K. Treatment for patients with unknown primary cancer and favorable prognostic factors. Semin Oncol. 2009;36(1):44-51. PMID: 19179187
肺高血圧症の診断 Diagnose pulmonary arterial hypertension
❶症例
33歳女性が、2年前からの進行性の労作時呼吸困難と筋力低下、倦怠感を主訴に外来を受診した。季節による症状変化はなく、睡眠障害は訴えているが、夜間覚醒やいびき、日中の眠気は認めない。めまいや失神は無く、既往歴も異常なく内服薬もなし。
身体所見では、T 37.0℃、BP 115/75mmHg、Pulse 108bpm 整、RR 18/min、BMI 23。頚静脈怒張あり、胸部診察所見では、洞性頻脈でS2の肺動脈成分の亢進を認めた。両側下腿浮腫あり。皮疹無く、関節所見は正常で、ばち指なし。
検査所見では、血算・生花・甲状腺機能・凝固機能は正常だった。HIV陰性、ANA・RF・ANCAは陰性。胸部X線では肺動脈影増強、肺野異常なし、心臓サイズ正常だった。肺機能では、軽度のDLCO低下があるが、閉塞性障害や肺活量低下なし。心電図では右軸偏位。経胸壁心臓超音波検査では、左室腔正常、左室収縮能正常、推定右室収縮期圧 40mmHg。V/Qシンチは正常だった。
この患者の診断で最も適切な次に行うべき検査はどれか?
A. HRCT
B. 肺動脈造影
C. 右心カテーテル
D. 睡眠検査
E. 経食道心臓超音波検査
❷肺動脈性肺高血圧症
最も適切な診断検査は右心カテーテルである。肺高血圧症患者の多くは診断までに時間がかかる。若い患者ではこの遅れによる影響が出やすい。本患者の肺高血圧症と臨床症状では、睡眠時無呼吸の合併を示唆する病歴はなく、特発性の肺動脈性肺高血圧症を示唆する。診断は、右心カテーテルのみで為される。更にカテーテル中に血管拡張薬への反応性を評価することで、治療選択肢について検討することが可能である。
❸他の検査は?
HRCT:本患者では肺機能正常で胸部X線で肺野異常も無く、間質性肺疾患などが症状の原因となっているとは考えにくい。HRCTで得られる情報は限られている。
肺動脈造影:慢性血栓塞栓性による肺高血圧症は、本患者の病歴や診察所見で矛盾しないが、V/Qシンチは典型的には換気血流ミスマッチを来すはずである。肺動脈造影はこの場合は適応にならない。
睡眠検査:本患者では、いびきや日中の眠気は無く、BMIも正常であり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が肺高血圧症の原因になるとは考えにくい。検査前確率が低いため、睡眠検査を行う価値は少ない。
経食道心臓超音波検査:現在の経食道心臓超音波よりも情報が追加されることは考えにくいため適応にはならない。
Key Point
✓ 右心カテーテルは、直接的に肺動脈圧測定を行う事で、肺高血圧の診断確定に必須である。
Brown LM, Chen H, Halpern S, et al. Delay in recognition of pulmonary arterial hypertension: factors identified from the REVEAL Registry. Chest. 2011;140(1):19-26. PMID: 21393391
高カリウム血症の原因検索 Identify the cause of hyperkalemia
❶症例
83歳女性が、変形性膝関節症に対する人工膝関節置換術のために入院した。高血圧とStage3のCKDがあり、内服薬は術後に、アムロジピン・フォンダンパリヌクス・セレコキシブを内服している。オピオイドにアレルギーがあり、過去にせん妄を起こしたことがある。
身体所見では、体温 36.0℃、BP 142/65mmHg、Pulse 80bpm、RR 15/min、BMI 28だった。術後3日目に、血清K値が4.2mEq/Lから6.2mEq/Lまで上昇した。便潜血は陰性。
血液検査所見は以下。
(本文より引用)
心電図は、対称性のT波増高を認める。
この患者で最も適切な初期治療はどれか?
A. 副腎出血
B. セレコキシブ中毒
C. 高カリウム含有食
D. 偽性高カリウム血症
❷高カリウム血症
本患者では、セレコキシブ中毒が最も疑われる。腎臓でのカリウム排泄の調節はレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系で制御されている。セレコキシブの様なNSAIDsは、レニン合成を阻害し、結果として高レニン・高アルドステロン血症を来たす。結果として、カリウム分泌を減らすことで高カリウム血症を来す。高カリウム血症患者の腎臓のカリウム分泌能を評価するには、Transtubular potassium gradient(TTKG)が用いられ、乏尿細管毛細血管と皮質集合管中のカリウムの割合を比として算出している。TTKGは以下の式で計算される。
TTKG = [Urine Potassium ÷ (Urine Osmolality/Plasma Osmolality)] ÷ Serum Potassium
一般的には、通常の食事を摂取している患者では、TTKGは8-9であり、過剰なカリウム排泄がある場合には10以上になるべきである。本患者のTTKGは2.5であり、腎臓からのカリウム排泄減少と高カリウム血症に矛盾しない。術後のセレコキシブ開始と腎臓からのカリウム排泄低下は、本患者の高カリウム血症の原因としてセレコキシブ中毒を強く示唆する。
❸鑑別診断
副腎出血:両側の副腎出血患者では、副腎不全を来たし、糖質・鉱質コルチコイド活性が低下することで、典型的には、低血圧・側腹部痛・発熱・嘔気などの臨床症状を来す。
高カリウム含有食:腎機能およびレニン・アンギオテンシン・アルドステロン系が正常な患者では、高カリウム含有食は稀な高カリウム血症の原因である。食事摂取が高カリウム血症の原因となる場合には、TTKGは10以上になることが予測される。
偽性高カリウム血症:血小板増多は高カリウム血症の原因になる。典型的には血小板値が400,000/μL(400 × 109/L)以上で起こるが、本患者では、心電図で真の高カリウム血症に矛盾しない所見が見られており否定的である。
Key Point
✓ セレコキシブなどのNSAIDsはレニン合成を阻害し、高レニン高アルドステロン血症を来す事で、カリウム分泌が減少して高カリウム血症となる。
Nyirenda MJ, Tang JI, Padfield PL, Seckl JR. Hyperkalaemia. BMJ. 2009;339:b4114. PMID: 19854840
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