2015年 08月 11日
なぜこうも出版業界では次から次へと無視できない事案が発生するのでしょう。今回は「アマゾンが消費税を日本に納税しているのかどうか」についての話題です。備忘録のようなもので、私自身勉強中といったところです。お見苦しい点もあるかと思いますので、あらかじめお詫びします。 ◆8月11日18時現在。 Amazonマーケットプレイスへの出品者に対してAmazonテクニカルサポートから先週Eメールで届き始めたお知らせ「2015年の税制改正による、販売手数料などサービス料の消費税の扱いについて」が大きな反響を呼びつつあるようです。アマゾンのセラーフォーラムのスレッド「2015年の税法改正による、販売手数料などサービス料の消費税の扱いについて」や、ソーシャルブックマークサイト「reddit」の「Amazon 日本への納税を開始」などをご参照ください。 ある方がブログで明かしておられるメール詳細からポイントを抜き出してみます。「2015年の税制改正により、国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直しが行われました。従来は、消費税法施行令第6条第2項第7号により、サービス提供者の本店所在地が米国であることから、国外取引として不課税取引としていました。/今回の税制改正に伴い、2015年10月1日以降のご利用分よりamazon.co.jpの出品サービスにおける販売手数料等について出品者様へ消費税をご請求させていただきます。/課税対象となる販売手数料は、月間登録料、販売手数料、カテゴリー成約料、基本成約料、その他返金手数料、大量販売手数料などの、Amazon出品サービスに関してAmazonが請求するサービス料が該当します。〔中略〕出品サービスを提供している米国法人Amazon Services International, Inc.では現在、国税庁へ登録国外事業者の登録申請手続きを行っています。これにより、本年10月以降の手数料明細書には、Amazon Services International, Inc.の登録国外事業者番号が記載されます。/上記は、日本の居住者である出品者様へのご案内です。日本国外の居住者である出品者様には適用されません」。 ブログ主さんはこう理解されています。「ということで要約すると、日本で消費税を払わなきゃいけなくなったから君たち負担してね!m9(^Д^) ということですね(笑)」。この理解はこの方に限ったものではなく、別の方々もこう書いておられます。ある方曰く「要約すると、Amazonさん今まで消費税を日本に払っていなかったけど、法律が変わったので、消費税の支払いしなくちゃならないので、セーラーの皆さんからも消費税分お金頂くからね(・∀・)つ って事らしいデス・・・手数料金が今までより8%上がるって事ですね・・・〔中略〕てか本当にAmazonさん日本で消費税を支払っていなかったのか。法人税は支払っていないのは知っていたけど、消費税は日本で支払っていると思ってました。びっくりだね(; ̄Д ̄)」。また別の方曰く「簡単に言うと10/1から私たちの提供するサービスに消費税が掛かっちゃうから払ってね。よろしく!ってことですね」。 アマゾンは出品者に対してQ&A方式でも本件を説明しており、その中にはこんなくだりがあることを別のブログ主さんが明かしてくださっています。曰く「Q: 2015年の税制改正で何が変わりますか? 〔A: 〕Amazonより日本の居住者である出品者様へ請求する販売手数料等のサービス料が課税になります。それ以外については、現時点では課税対象ではありません。また、フルフィルメントby Amazonは、従来より日本法人アマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社が提供しており、国内取引として手数料に対して消費税をすでに請求しています。そのため、2015年税制改正による変更はありません」。「Q: Amazonはなぜ販売手数料を課税扱いに変更したのですか? 〔A: 〕Amazon出品サービスは、米国法人Amazon Services International, Inc.が提供するものです。従来は、消費税法施行令第6条第2項第7号により、サービス提供者の本店所在地が米国であることから、国外取引として不課税取引としていました。2015年の税制改正により、サービスの提供を受ける者が日本国内の居住者であれば課税取引となることから、2015年10月1日以降は消費税が請求されます」。 アマゾンはさらっと書いていますが、再度引用しますと「従来は、〔中略〕サービス提供者の本店所在地が米国であることから、国外取引として不課税取引としていました」と。ここで出版人にとってどうしても気になってくるのが、紙媒体の和書の消費税が消費者から徴収された後にアマゾンがそれをどう処理していたのか、ということです。アマゾンが消費税を日本に納めていないのではないか、という話はつとにささやかれ続けていたことですし、それに対する第三者の反論もネットで読むことができます。 まずAmazon.co.jpの「特定商取引法に基づく表示」を確認すると、販売業者は「アマゾン・ドット・コム インターナショナル セールス インク(Amazon.com Int'l Sales, Inc. 410 Terry Avenue North, Seattle, WA 98109-5210 USA)」となっています。米国に拠点を置く法人だということです。この会社の名前はamazon.co.jpより購入した場合の領収書に「販売: Amazon.com Int'l Sales, Inc. 」として記載されているものですし、納品書にも同名が記載されています。「J-CASTニュース」2013年9月23日付記事「消費税を支払っていないアマゾン 出版業界など「不公平だ」と怒る」での記述を借りると、「国内には、販売を手掛ける「アマゾンジャパン」と物流業務を行う「アマゾンジャパン・ロジスティクス」がある。この2社に米本社の関連会社「アマゾン・ドットコム・インターナショナル・セールス」が委託して手数料を払い、販売代金を受け取って米国で納税している仕組みだ」と。 Amazon.co.jpの「特定商取引法に基づく表示」に記載されている「日本でのお問い合わせ先」は「アマゾン ジャパン株式会社(〒153-0064東京都目黒区下目黒1-8-1 電話: 0120-999-373 電話番号のかけ間違いにご注意ください)」で、「販売価格」欄は「国内再販制度対象商品については定価販売です」と始まり、消費税についての説明――「消費税は、お届け先が日本国内の場合のみ課税されます。Amazon.co.jp ではお客様にご注文いただいた各商品、サービスに対し、8%の消費税を課税しております。ただし、Amazon.co.jp が販売するAmazonギフト券、Kindle(電子書籍)、デジタルミュージック商品、アプリストア商品(アプリ、アプリ内課金およびAmazonコイン)ならびに一部のゲーム&PCソフトダウンロード商品の購入には、消費税は課税されません。詳細については、当サイト上の消費税についてをお読みください」――で終わります。 サイトでの価格表示は税込ですし、納品書にも税込価格として記載されています。アマゾン・ジャパン(Amazon.com Int'l Sales, Inc.)から買おうと、マーケットプレイス(Amazon Services International, Inc.)の「フルフィルメントby Amazon」(FBA)扱いから買おうと、いずれも「税込」と表示されています。ちなみに今ここで書いているのはマーケットプレイスのFBA扱いの「出荷明細書」の話で、個人の出品者が発行しているものではありません。アマゾンが出品者の発送の手間を省いて商品管理や発送を代行するのがFBAであり、この扱いの商品を購入した際に添付される書類です。個人出品者が発送した商品に付いたり付いてなかったりする「注文番号」等を記した書類ではだいたい「価格」となっているだけで消費税は記載されていません。 なお、最初に引用したある方のブログ記事の続きにはこんなことが書かれています。「詳しく書くと長く書くのでアレですが、実は今までは消費税を徴収されていなかった関係で、Amazonの利用料って、税申告のときに利益から相殺できなかったんですよ。/でも、今回消費税がしっかりと反映されることになりましたのでこれからの利用料はちゃんと利益から相殺できるはずなんですよね」。他方、出品者へのアマゾンのお知らせメールには「また、フルフィルメントby Amazonの手数料はすでに課税対象になっていますので、2015年の税制改正による変更はありません」とあります(ただし問題なのはこの「すでに」が正確にはいつからなのか、ということです。先に引用したブログ主さんも「少し、謎が残りますし、Amazonの職員さんもよくわかっていないようなので、追跡調査が必要ですね」とお書きになっています)。 以上を総合すると、FBAを利用する出品者の手数料は(いつからだったかはともかくとして)「課税」されており、FBAを利用しない出品者の手数料は9月30日までは「非課税」であるということなのかと思われます。だからFBA扱いの出品明細書は税込表示で、出品者発行の注文番号書類ではただ「価格」と記載されていた、と。【ここまでのFBAへの言及部分は当初、グルグルと無駄に堂々巡りをしている感じを残していたのですが、かえって混乱するばかりなので書き直しました。】 閑話休題。マーケットプレイス(Amazon Services International, Inc.)が「国外取引として不課税取引」としていたなら、やはりこの解釈はアマゾンとしては同様に海外法人であるAmazon.com Int'l Sales, Inc.での取引にも適用させているのだろうと考えるのが妥当です。そうなるとアマゾン・ジャパンでの新本の販売も「国外取引として不課税取引」であったはずなのですが、実際には購入者から消費税分を徴収している。ではその消費税はその後、日本に収められたのかどうか。 アマゾンが消費税を収めていないのでは、という疑義は先述した通り、巷で数多く聞かれる声です。先に引用した「J-CASTニュース」2013年9月23日付記事「消費税を支払っていないアマゾン 出版業界など「不公平だ」と怒る」だけでなく、複数のマスメディアにも取り上げられてきました。なお、電子書籍は今回の議論の前景ではないので、あくまでも国内の紙媒体の書籍販売に関することを書いているつもりです。周知の通り「アマゾン 消費税」とグーグルなどで検索すると上位に「アマゾンの日本での消費税の納税について」というtwitthalさんによる2014年5月4日付記事がヒットします。「アマゾン社の日本での消費税の納税について、多くの誤解がネット上で散見されます。誤解に基づいた議論は生産性が無いと思うので、実際はどうなのかをまとめてみました」と書き出され、長文の考察を展開されているのですけれども、結論としては「現行の法令で、アマゾンは日本の消費税の納税義務者ですし、国内通販分についての申告納税を適切に行っているものと思われます」と書くのみに留めておられます。 この方はこの投稿のあとに、2014年9月15日付で「「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」ではありません。」という記事も公開されており、そこでは出版協ブログの2014年5月2日付エントリー「アマゾンで買った書籍の消費税は払い損?!」や、奥村税務会計事務所代表者ブログの2013年12月29日付エントリー「消費税回避の達人、アマゾンのしたたかさ」への「反論」が書かれているのですが、ここでも長文を費やしているにもかかわらず、一番大事な部分では、「主に「アマゾンは書籍の国内通販で消費税を払っていない」という意見の根拠として引用されることが多いのですが、これは全くの誤解であり、アマゾンは国内での書籍販売を含む通常の通販事業については消費税の納税義務者であるので、法令に従った消費税の納税義務を果たしているはずです」とお書きになるのみでした。 納税している「はず」だ、というだけでなぜ「全くの誤解だ」と強弁できるのか不思議です。ところどころ鋭いツッコミを展開しえているのに、これでは「反論」としては充分機能しません。なぜアマゾンにそもそも裏取りをしないのか。それは裏取りが不可能だからでしょう。アマゾン自体が「ちゃんと納税しています」とは一度も明言したことがなかったと記憶しています。これは国会で自民党の三原じゅん子さんや民主党の有田芳生さんによって追求されていますが、実態は明かされないままでした。三原さんの質問は「「Amazon税金払え!」自民の三原じゅん子議員が国会質問 [政治]」(2014年3月22日)でまとめられています。有田さんの質問は出版協の前出のブログ記事で言及されています。 twitthalさんはこう書いています、「私の竹内氏に対する反論は以上ですが、こんな匿名の記事で反論を受けても、竹内氏は納得しないかもしれません。/竹内氏及び関係者の方々にお勧めしたいのはそれぞれ出版社だったり書店だったりの経営者さんなのでしょうから、自社の顧問税理士、あるいは自社の経理担当者に「自分の記事は間違っていないか」ということを確認してもらうことです」と。なぜこの方がここまで前のめりになって匿名で長文考察を投稿したのか、なぜマスコミ報道に対してではなく、特定の団体や特定の会社に対して「反論」を試みたのか。出版協がアマゾンと鋭い対立を繰り返してきたことをよく知っている上でのこの行為なのか。この方の立場、立ち位置にとても興味が沸きます。 さて結局のところアマゾン(アマゾンのどの組織か、という問いが重要ではあります)はいったい消費税を払っているのでしょうか。払っていなかったのでしょうか。「共同通信」2009年7月5日付記事「国税がアマゾンに140億円追徴 日本事業は課税対象」というニュースをご記憶の方も多いかと推察します。曰く「日米租税条約では、国内に支店などの「恒久的施設」を持たない米国企業は、日本に申告や納税をする必要がない。/関係者によると、関連会社は日本国内に支店を置かず、顧客との契約や代金授受などを直接行っていたが、国税局は、流通などを委託された日本法人が実質的に支店機能を果たしていたと認定し、日本で発生した所得の相当額を日本に申告すべきと指摘したもようだ。〔中略〕関連会社は「アマゾン・コム・インターナショナル・セールス」で、北米以外の各国の事業を統括。日本では物流などを日本法人2社に委託した上、契約や売上金計上などは同社で行い、納税先も米国側に集中させていた」。 そしてこれがどう決着したのかもご存知でしょう。今なお閲覧可能なサイトから選ぶと、たむごんさんのブログ「粉飾決算 脱税と倒産」の2013年1月11日付記事「アマゾン税金脱税と節税」では「国税庁がアマゾンに敗北」とあり、ニュースサイト「Business Journal」2013年2月11日付の柳谷智宣さん記名記事「アマゾン、課税&送料有料化開始とライバル・ヨドバシ浮上で迎える転換点」では「アマゾン側は本社のあるアメリカに税金を納めているということで抗弁、結局国税局は10年に引き下がっている。要は、アマゾンジャパンは販売や物流の委託を請け負っている形なのだ」。阿智胡地亭さんのブログ「阿智胡地亭の非日乗」2013年3月19日付記事「アマゾンは非合法スレスレで140億の税金を日本国に払っていない。」でも同様に「国税庁がアマゾンに敗北」と。「カイケイ・ネット」2014年12月19日付会計業界トピックス「【コラム】法人税を納めるべき?アマゾンの法人税問題」では「これを不服としてアマゾンは日米両国の当局による相互協議を申請しましたが、2010年9月、日米相互協議の結果は国税庁の大負けでした」と書かれています。 これは法人税のことで消費税のことではない、と読むべきでしょうか。この辺の整理で個人的にたいへん参考になったのは、「dunubの窓」ブログの2013年9月30日付記事「国税局と追徴課税でもめているアマゾン(Amazon.co.jp)は消費税の申告・納付をしているのか?」です。曰く「アマゾン追徴課税問題は、現代における課税と徴税のあるべき姿を問うものでもある」。「最初にお断りしておくが、ここで取り上げるのは、米国にある北米地域以外の営業を担っているアマゾン・ドット・コム(Amazon.com Int'l Sales, Inc)に対する疑義であり、その委託を受けて日本向けの業務(販売そのものではない)を行っている日本法人のアマゾンジャパン株式会社やアマゾンジャパン・ロジスティクス株式会社に対する疑義ではない。/日本法人の両社は、日本の税法規定に従い法人税及び消費税その他の税関連について申告と納付を行っていると思っている」。 また曰く「アマゾンの課税逃れはネット上でも話題になり、アマゾンはもう利用しないといった怒りの声も上がっていたが、消費税については、「アマゾンは消費税を受け取っているのだから納めているはず」という声が多い。/アマゾンに関する追徴課税問題を読んだとき、税目が明示されないことに疑念を覚えた。追徴課税の税目は法人税であるとの説明が目に付くが、消費税についてどうなっているのかまったく見えてこない。/法人税の課税ベースを把握するためには、消費税の課税ベースを把握する以上の税務調査が必要だ。東京国税局は、米国シアトルにあるAmazon.com Int'l Sales, Incの税務調査を行ったのだろうか。/むろん、アマゾンジャパンやアマゾンジャパン・ロジスティクスを調べれば、Amazon.com Int'l Sales, Incの日本での仕入金額・経費・売上金額はなんとかつかめるから、それらから算定した税額を、異義の申し立てがあることを承知で追徴課税したのかもしれない。/ともかく、追徴課税の税目は法人税のようになっているが、法人税は負担しないけれど、消費税は負担するといった企業行動は、私の理解を超えている。/勝手で失礼な推測に基づくが、米国の州税である「売上税」さえ納付していないアマゾンが、より抗弁しやすい日本の消費税を納付しているとは考えにくいのである」。 さらに曰く「仮に、アマゾンが、法人税(や消費税?)を負担しないで済むことを奇貨として、消費税抜きの書籍安売りを仕掛けると、書籍の仕入・再販売契約違反となり、書籍の仕入ができなくなるだろう。(さすがに、アマゾンへの販売が大きいと言っても、取り次ぎや出版社がそれを見逃すことはできないだろう。見逃せば、「書籍再販制度」が有名無実なものになってしまうからだ)/実を言うと、アマゾンの消費税申告納付問題については、国税庁に電話を入れて確認を取ろうとしたが、「守秘義務」を盾に回答をもらえなかった」。そしてこのあと、ブログ主さんはアマゾンが消費税を申告しているか、していないか、両方の可能性について鋭利に分析されています。ここがとても重要な部分ですので、ぜひ皆さんもリンク先を訪問されお読みになられてみて下さい。 +++ ◆8月12日午前2時現在。 以下もご参照いただけたらと思います。 「産経ニュース」2014年6月26日付記事「海外からのコンテンツ配信、来年度にも消費税課税へ 非課税アマゾンなど標的」に曰く「新たな制度は、消費税の課税基準を現在の「配信企業の所在地」から「配信を受ける消費地」に変更」。 「J-CASTニュース」2014年6月27日付記事「アマゾンなどに消費税 来年度税制改正」に曰く「税制改正は来年度を目指し、日本での年間売り上げが1000万円を超える海外の企業に対し税務署への申告納税を義務づけるといった内容になっている」。 「税理士ドットコム」の「トピックス税金・お金」2014年7月13日付記事「アマゾンの電子書籍にも「消費税」課税へ・・・「海外企業」からどう徴収するの?」に曰く「サービスの提供先が消費者か事業者かによって、納税方法が変わってくる」。 「アマゾンウェブサービス(AWS)」の「消費税率変更についてのよくある質問(2015年税制改正により2015年8月1日改定)」に曰く「Q1: 2015 年税制改正により何が変わりますか? A1: 改正前は日本の居住者であるお客様が東京リージョンをご利用の場合、日本国内取引として消費税をご請求させて頂いておりました。2015年10月1日以降のご利用分より、日本の居住者であるお客様については、日本国外のリージョンをご利用の場合も消費税をご請求させて頂きます」。 +++ ■
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