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闇の正体:ミャンマー宗教暴動/4 「過去に虐殺」双方主張(2013年10月29日掲載)
2015年05月29日

ラカイン州の古都ミャウー郊外で田植えをするラカイン族の女性たち。米作は英植民地下で拡大した=2013年9月1日、春日孝之撮影

 ミャンマー西部ラカイン州で昨年起きた宗教暴動で、果たして何人が死んだのか。正確には、答えの出ない問いかけだ。

 テインセイン大統領の指示で発足した暴動調査委の報告書によると死者は仏教徒ラカイン族58人、ベンガル系イスラム教徒(ロヒンギャ族)134人だ。

 だが、調査委は「双方のコミュニティーが主張する数字には相違がある」と指摘し、それらを併記した。ラカイン族は自らの側の死者を調査委より70人多い128人、ロヒンギャ族の側は85人多い219人と申し立てた。

 調査委員の一人だったイスラム教徒のティンマウンタン氏(41)は「ロヒンギャ族の死者は最低1000人」と言う。この話を州検察庁トップでラカイン族のフラテイン検事正(56)にぶつけると、「彼は自分の発言に責任が持てるのか?」といぶかった。

 だが、本紙ヤンゴン支局のビルマ族の女性スタッフは「共に国際社会の同情を得ようとするはずだから、数字の食い違いはむしろ自然なこと」と言い、こう続けた。「ミャンマー人の会話に誇張はつきもの。取材の場合は相手へのリップサービスという面もあり、悪気はありません」

 数字の相違だけなら、まだマシかもしれない。

 ラカイン暴動のルーツをたどると、英植民地時代に行き着く。英国は少数派を優遇して多数派を支配する「分割統治」をしていた。両者を対立させることで、英国に不満や反感が向かないようにする巧妙な政策だ。ラカインでは多数派のラカイン族が冷遇される。

 英領ビルマは世界有数のコメの供給源となり、同じ英領下で人口過多のベンガル地方から、肥沃(ひよく)な大地ラカインに多くの農民が流入した。フラテイン検事正は「英国の支配下だから、ラカイン族はベンガル人(ロヒンギャ族)の存在を認めざるを得なかった」と言う。「共存を強いられた」というわけだ。

 そして互いの反目が暴発する出来事が起きる。1942年、太平洋戦争の開戦後まもなく英領ビルマは日本軍の侵攻を受け、英国は撤退。その時。

 「英国軍はベンガル人に武器を渡し、日本軍と戦わせようとした。ところがベンガル人は日本軍に銃口を向けることなくラカイン族の村々を襲撃し、大虐殺したのです」(ラカイン族の元弁護士タープイン氏)

 ベンガル系イスラム教徒の元国会議員アブタヘイ氏(49)は「事実は正反対だ」と反論する。英国が残した武器を手にしたラカイン族がロヒンギャ族を大虐殺したという。日本軍がラカイン族を支援していたとの説もあるが、いずれにしろ、双方の歴史家の見解も「虐殺されたのはわが民族だ」と真っ向から対立する。

 暴動調査委が記すように「互いに殺りくし合った」に違いない。自分たちにとって「不都合な真実」は無視すべし−−。アブタヘイ氏自身「政治化された歴史認識の相違は解決不能だ」と認める。双方の指導者の誇張やうそが人々を惑わし、闇をより深くしている。【シットウェ春日孝之、写真も】=つづく

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