未完成ゲームの中でもひときわ有名な作品と言えば、この「よりしろ」。これを読んでいる人の中でも噂は聞いたことがある人もいるだろう。だが、実際にプレイした事のある人間は、あまりいないと思う。なにせ、よほど悪運に憑かれた友人から譲って貰うかでもしないと、カラス除けかコースターに位しか使い道が無いものに金を出す事になるからだ。誰でも金をトブに捨てるような事はしたくないものだろう。そこで、今回は、この私が実際に、この悪名高いゲームを購入して、その内容を報告しようと思う。
そこで入手したブツを眺めてみると、まずパッケの絵が汚い。どう見ても、発売前にこのゲームに注目を集める最大の要因であった原画家の「maruku」氏の絵とかなり違う。そもそもパッケージと言えばゲームの顔、それを手抜きしている時点で中身も知れたもんだ(多分、サブ原画の絵)。
しかし、そんな絵が悪いとかそんな問題とは次元が違うことが、このパッケージに隠されているのである。それは、何と、よりによって定価を間違って印刷しているのだ。本来の定価は8800円なのだが、パッケには8500円と書かれている。実際には定価で販売されている事は非常にマレだろうが、価格を間違えるとは商品としては致命的なミスだろう。
でも、まあ、この程度の事は驚くにはあたらない。なぜならば、こんなものは、このゲームに含まれる致命的ミスのほんの1つでしかないのだ。よって、サクサク先に進ませてもらう。それで、パッケージを開けてみると、中身は取説とユーザー登録ハガキ、それにCDが1枚。アレ? パッケにある「初期設定資料、ラフ集付き」が入っていない。実は、設定資料とラフ集はCDの中に入っているのである。限りなく詐欺くさいが、確かに本が入っているとは書いてないので、これに関しては不問に付すことにしよう。
しかし、それより問題は、中身が4ページしかない取説の方である。これが特殊な用語が次々と出てくるのに全然説明がないのだ。まあ巫女さんをHして育成していくことは分かるのだが、その育成のやり方がよく分からない。なにせ、
● 育成の仕方
口舌儀−情愛
手雅−蟲惑
接心−忠従
閨儀−閨技
これだけで理解しろという方が無茶だ。前が選択肢で後が上昇するパラメーターを意味しているとは思うのだが、一応は説明を書いて欲しい。しかも難しい字を無理に使って、逆にダメダメな感じまで醸し出しているのは流石だ。
そもそも「手雅」なんて熟語は、意味はおろか読み方まで分からんのだが。多分、他が音読みだと思うので、「てみやび」でなく「しゅが」と読むのだろうと思う。でも、手が雅って、日本舞踊の振り付けでもするつもりなのか? まあエロゲーだから手でHするということだと思うのだが、そんな突拍子も無い熟語を使うなら、何をするかは説明ぐらいして欲しいものだ。それと、「接心」って仏教用語で精神統一することとか、座禅を組むってことを意味しているのだが、これも違うことを言いたいのだろう。
兎も角、もう少し情報を多く、かつ分かり易い説明を載せて欲しいものだ。そもそも、H育成SLGなんて、この業界ではいくらでも他社が出しているので、それを見て基本的なフォーマットをパクる、いや勉強して書けばこんな事態にはならんとは思うのだが。まあ、この取説を読んで分かったことは、「習うより慣れろ」ってことだ。
まあ、取説もまず実行を推奨しているみたいなので、次はインストールに取り掛かりたいと思う。PCにCDを入れると、まずインストーラーの文字が化けている。流石は、『よりしろ』底無しの素晴らしさだ。ここで文字が読めないが3つのボタンがあるが、おそらく一番左が「インストール」を意味していると当たりをつけて選んでみる。すると、今度は真っ当にインストールすることができた。
そして、ゲームを起動してみようとしたのだが、再度、先程のインストーラーの画面が現れたのだ。無論、文字は化けたまま。一番左が「インストール」なのは判明しているので、残りの2つのボタンが「ゲーム起動」と「アンインストール」を示していることは予想できる。多分、真中のボタンを選べば「ゲーム起動」になるとは思う。普通なら自信を持って真中を選ぶ事ができるのだが、この『よりしろ』の場合、何が起きても不思議は無い。しかも、間違ってアンインストールを選んでしまったら、また最初からやり直しだ。少々、ドキドキしながら、クリックしてみたのだが、どうやら、これで正解みたいだ。
ただ、ゲーム自体は起動しなかったけどな。
一応、制作メーカーの「ハチミツ」の名誉(そもそも、そんなモノがあるのかが疑問だが)の為に言っておくが、これは私のシステムが原因だと思われる。この時は色々なゲームを起動したりしていたので、何か悪いものでもメモリーにでも残っていて競合でもしてしまったのだろう。
いくら『よりしろ』が凄いと言っても、体験版と同程度は動くことは知っている。なにせ、製品からして中身は体験版と同じだからな。これを読んでも意味がよく分からない人の為に、メーカーのHPに載っていたお詫びの文を転載したいと思う。
長々とお待たせして申し訳ありません。調査の結果、FIXしたスクリプトデーターに体験版データーが上書きされ、ミラーリングしていたバックアップも同様に上書きされていることが確認されたため、スクリプト埋め込み直し作業に入っております。
つまり、製品版のスクリプトは体験版と同じってことだ。って、おいおい、そりゃねーだろ!! しかも、バックアップまで上書きしたって、どんな製品管理してんだ貴様は! しかも、そんな事は少しテストプレイすれば分かっただろうが。絶対にこれは、未完成なままでとりあえず発売して、後で何とかすればよいという信じられない見切り発車の言い訳にちがいない。
それでも、この言い訳の後に修正ファイルをアップすると書かれている。最終的にはゲームが動きさえすればいいのだから、それさえ出来ていれば問題はないから許す事にしよう。それで、私がゲームを始めた時には既にそのファイルはアップされていたので、それを落としてパッチを手動であて、パソコンを再起動して、再度ゲームを開始してみた。
すると、今度は、無事にゲーム本編が開始された。
それで、オープニングで、主人公が長いこと戦場で戦っていたが、この度、「よりしろ」育成のために故郷の村に戻ってきたことが分かった。そして、育成する「よりしろ」は全部で4人。その内の3人は同じ村だけあって昔馴染み、そして最後の1人だけは西洋人っぽく、どうやら色々あって敵国からの亡命かなにかしてきた人らしい。
それで、その4人の中で、主人公が村に帰ってきて始めて会った「よりしろ」が、メインヒロインではないかと勝手に予想してみた。この女性は、青藍色の長い髪に、青磁色の瞳、それに対照的な小麦色の肌と白い巫女服、加えて何故か京風の言葉使い。キャラとしては悪くなさそうなので、最初のプレイは彼女を中心に進めてみようと思った。
そして、ほとんど前振りも無く、育成部分(Hシーン)の突入したので、せっかくだから彼女を選んで、「口舌儀」を試して見た。
すると、
コンパイルエラー
ファイルが開けません【****.tsc】
と表示されてタイトル画面に戻されてしまった。(****の所は4桁の数字が入っていると思ってくれ)
しかも、彼女に関しては「手雅」を選んでもコンパイルエラー、「接心」をしてもコンパイルエラー、「閨儀」を試してもコンパイルエラー。彼女に関しては、もう何をしてもコンパイルエラー。
うわー、全然、直ってないよ!
修正ファイルを当てているのに、この鉄壁ミュラーも顔負けの防御力はどうしたことか。これじゃ、修正ファイルを当てる前は、一体全体どんな代物だったのだろう。想像するだに恐ろしい。
いや、もしかしたら何も変わっていないのかもしれない。何せ、製品版のスクリプトを回復しなければならないのに、修正ファイルは、147KB、6KB、6KBの3つのLZHファイルだけ。これは、ちょっとした修正しかできない大きさだ。
どう考えても焼け石に水としか思えない状態だが、戦術指揮官としては与えられた戦力でベストを尽くすしかない。よって、残りの3人の「よりしろ」を広く調教してみることにした。しかし、これが退屈で退屈でたまらない作業だった。普通に創られていても、育成ゲームとは作業ゲームになってしまいがちなジャンルだ。そこをイベントとか挟んだりして色々な変化をつけたりして飽きないように演出するのが、ゲームデザイナーの腕の見せ所だろう。
しかし、このゲームの場合は違う。まず、その日の日常会話があって育成シーンに入るってことはない。毎日毎日、平日は同じ育成の繰り返しだけだ。たまに特別な日があって外出できたりするのだが、これも何時まで経っても同じ場所では同じことしか起きない。たまに起きる変化と言えば、通常しない選択肢(例えば、特別な日の特殊な育成とか)を選んだりすると、もうお馴染みのコンパイルエラーでタイトル画面に強制的に戻らされることぐらいだ。
なんか、もう育成ゲームというより、正しい選択肢を選ぶという「黒ひげ危機一発」をしている気がしてくるまで、ゲーム続けていたら、終にエンディングを迎えることができた。なんか四人とも立派な「よりしろ」になって主人公と共に戦場で敵を殺しまくっていると言う、まあ当初の目的は達成しているが何となくバットエンドくさいエンディングだった。だが、そんな事は、もうゲームから開放された喜びに比べれば、些細なことだ。
それで、最後に一応、どの程度のCGとシーンを見たのか、クリアするまで入れなかった「回想モード」と「画面鑑賞」を選んでみたのだが、流石は『よりしろ』だ、ここでも凄い事になっていた。何と、シーンも画像も一切表示されないのだ。無論、選ぶ事も出来ない。我々に出来るのは、何もしないでただタイトル画面に戻る事だけ。CGの方も原画は悪くないが塗りの方が難しい塗りを目指して逆にやっつけ仕事になってしまったような代物ばかりだったので、別に特に見たい訳ではなかったのだが、最後の最後に凄く悲しい気分になってしまった。
因みに、このゲームを制作したハチミツのOHPに行くと
なお、このデーターはユーザー登録ハガキをお送り頂いたユーザー様には順次CD−Rを郵便にてご郵送させて頂きます。
特に無記名のCD−Rですので、 よろしくお取り扱い下さい。
と、書かれているが、このCD-Rが送られて来たという人間を私は知らない。しかも、どうやら、現在は会社の方は存続してないらしい。まさか、個人情報を集めるだけ集めて夜逃げってしたとは思いたくはないのだが、現在、この『よりしろ』が満足にプレイできないことだけは確かなことだ。そして、これからも永遠に、誰にも完全クリアできないことであろう!
(タコマロ)
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