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題名変更しました
早く書きたい所まで行きたいものの全然進まないのが悲しいです
心奪われる騎士早く書きたい所まで行きたいものの全然進まないのが悲しいです
そして、アインズが相対して見ているということはあちらからも見られているということだ。これはアインズとしては出来る限り距離を取り、身を隠せる場所からの奇襲による一撃を行い、即時撤退を図りたかったため本意ではなかった。だが、目的が姉妹の救出であるから、ルプスレギナが姉妹をすぐに救出からの撤退を行えるように姉妹の傍に転移門を開いたのだ。ゆえにすぐさま相手は行動に映る可能性も考えていた。
しかし、何故だかは分からないが相手は動こうとしていない今はチャンスだと考えるべきであろう。アインズは自身の魔法の中でも最もこの場に適した魔法を発動する。剣という自分を害しうる武器を持った相手と相対しながらも何ら恐怖を感じず、焦りもなく、ただ必要だからごく当然のように。剣を振りかざす騎士の方へ向けて手を翳す。
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この魔法は第1から始まり10までの位階で第9位魔法に位置する高位の魔法である。その中でも死霊系魔法に属し、ロールプレイ重視で死霊系魔法に長けているアインズにとって使い慣れているものである。効果は相手を即死させるものであり、抵抗された場合でも相手を朦朧状態にする追加効果があるため、この相手の力量が不明で撤退を意識しているアインズはこの魔法を選択した。
翳した手に鮮やかなピンク色をした柔らかい心臓とそれの脈打つ感触が伝わる。そして、それを握りつぶす。独特な柔らかいものがグニャリと抵抗をわずかに受けるもその抵抗を最後に簡単に潰れ、赤い液体が手から滴り落ちる。眼前の騎士は心臓が潰れた瞬間、失神したかのように体が崩れ落ち、鎧が鈍い音を立てて地面にぶつかったきり静寂が訪れる。死んだのだ。抵抗されなかったことにアインズは安心する。しかし、殺人を犯したことに対する罪悪感も後悔もまるで感じずにいた。それが指し示す答えは一つ。
(そうか。体だけでなくこの心も人間ではなくなったのか)
あるはずもない心は痛まず、ただ事実をそのまま呑み込んだ。人間であることに固執していた筈だが、いざそうであると分かればなんともない。ゆえに葛藤もなく次の行動に即座に移れた。残りの騎士へと歩を進める。アインズとその騎士の間に座り込んでいた姉妹の側を通り過ぎた時に、こちらを伺う姉の表情にアインズは違和感を感じた。
町を襲い、村人を殺して回り、父母までも手にかけ、自身も今死ぬ直前まで追い詰めた騎士の集団と、それに相対し騎士を殺したアインズ。どう考えてもアインズの憧れていた正義の味方「たっち・みー」さんの様である行動だと思っていたアインズが望んでいた表情ではなかったのだ。アインズが想定していた安堵などではなく困惑、とまどいといったものであった。それに引っ掛かりを覚えるも、今は眼前の騎士に集中するべきだと捨て置く。
仲間の騎士が殺されたことに驚いているのだろう、騎士はアインズが近寄っているのに硬直したまま身じろ気もしていない。さらに数歩近づき、姉妹の姿がアインズの体によって完全に隠れた段階で、騎士の鎧が恐怖によって微かに震えていることに気づく。その状態を鼻で笑ってアインズは口を開く。
「女子供は追い回せるのに、少し変わった私だとそれが出来ないのか?」
その声に騎士は怖気着いたのか、ぎこちなく一歩後退した。それを見てもアインズは油断なく魔法を発動させる。
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白い稲妻が龍の様に手から肩口までを暴れ狂い、一寸後伸ばされた指の先から指し示す先にいる騎士へと轟音を発しながら中空を稲妻が駆ける。騎士は指を指し示された瞬間から脱兎のごとく逃げ出したが、雷に逃げられる筈もなく、騎士は白き龍に呑み込まれる。フルプレートがその電撃によって一瞬白く輝くその姿は皮肉にも美しかった。
アインズが使ったこの魔法は第5位階魔法である。100レベルであるアインズに適正な狩場で使われる魔法が。大体ではあるが第8位階魔法以上であることから弱すぎる魔法と称しても良いだろう。そんな魔法を使ったのは、アインズが先に使った心臓掌握は第9位階魔法であり、アインズのロールプレイ重視による死霊系統の魔法を重視した
しかし、それだけでは騎士の素の状態での強さというものを図り難い。もちろん即死対策をしていないと分かっただけでも十分価値はあるが。話は戻して、素の状態を知るために相手が電撃系に弱い金属鎧をしているために弱点対策をしているだろうと踏んで、電撃系の魔法で攻撃してダメージ量を探る。つまり、相手を殺す意図などはないので強化も行わずに弱い第5位階の電撃魔法を選択したのだ。
「この魔法で死ぬのか……」
張りつめていた緊張感は薄れる。この二人の騎士が特別弱いという可能性もあるかもしれないと自制するも、どうしても緊張感には欠けてしまう。だから、自分にとって最悪の展開、相手は攻撃に特化している可能性や、今は現実世界でゲームなら心臓を貫かれてもダメージでしかないが普通は即死であることを考え、警戒して油断をなくす。油断して死んでしまいましたなど笑い話にもならないからだ。
そう自分に言い聞かせた後、アインズが振り返ると姉妹の姿は消えていた。なんのことはないアインズの体で姉妹を騎士から見えなくした後に、完全不可視化状態のルプスレギナが転移門より現れ姉妹も不可視化状態にして転移門を使いその場から離れたのだ。
そうしてルプスレギナと合流する前に1つ実験を行う。アインズの信頼できる味方はただ一人しかいない状況では特に重要な位置を占めるであろう
――― 中位アンデッド作成
これはアインズが保持している特殊能力の1つで、様々なアンデッドモンスターを生み出す能力である。生み出した死の騎士はその中でも壁としての役割が優秀なため愛用してきたアンデッドである。死の騎士は35レベルと低い上に攻撃能力も25レベル相当とさらに低い、肝心の防御能力も40レベル相当でそこまで優秀というわけではない。アインズのレベル帯にとっては不要だと言えるだろう。
しかし、2つの特殊能力が死の騎士を優秀な壁役としている。1つは敵モンスターの攻撃を全て引き受けること。もう1つはどんな攻撃でも
特殊能力の発動後、黒色の靄のようなモノが中空から染み出で、心臓を握りつぶされた騎士へと纏わりつく。騎士の体全体を靄が包みこむと溶け込んでいく、すると錆び付いたような動きで立ち上がる。立ち上がり制止すると、鎧の間から真っ黒いコールタールの様な液体が噴き出て全身を包み込む。湧き出る黒は留まることを知らず、騎士の体を2回り以上大きく見せると、形が歪みながら変化していき、最終的にそこに立っていたのはまさに死の騎士と呼ばれる存在だった。
2.3メートルの高さと大きく厚みのある体格。左手には身長の4分の3以上の大きさを誇るタワーシールドを持ち、本来両手で持つべき1.3メートル近い波打つ刃のフランベルジュを右手で軽く持っている。このフランベルジュは赤黒い気を纏いながら刀身自体が脈打っている。黒色の金属で赤き脈動する血管のような紋様や、様々な場所にある鋭い棘が暴力的な全身鎧を着用している。悪魔の角を生やした兜から覗く顔はアンデッドのものであり、生者への憎しみがはっきりと感じ取れた。ボロボロの漆黒のマントを風にたなびかして主の指示を待つ姿は、アンデッドの騎士に相応しい立派なものであった。
しかし、アインズはゲームとは全く違う登場に驚いていた。本当なら虚空から出てくるものであり、死体を利用して生み出されるなど一回もなかったからである。もし、死体がいなかったらどうなるのだろうかと疑問に思いながらも、召喚されたモンスターである死の騎士との精神的なつながりを感じ取り、それを使って命令を下す。龍雷で死んだ騎士を指しながら。
「この姿をした騎士が向こうの村で人を殺し回っている。そいつらを殺せ、ただし村人は傷つけるなよ」
死の騎士が了承したと言わんばかりの咆哮を上げて、地響きと風を切る音を残して瞬く間に姿を小さくしていった。生者を感知しているのだろう迷いなく動き出した姿は猟犬の様であった。そんな姿を見つめるアインズには新たな驚きと発見があった。それは自由度と言うべきか制限がなくなっていることに対してである。
本来召喚された死の騎士は召喚者の側に待機して、受動的な迎撃にのみに終始しており、決して命令を受けて自ら攻撃に向かうことはなかった。この自由度の高さ、ゲームと比べての差異は何れ致命的な失敗を引き起こしかねないものだと、今まさに失敗を犯したアインズは思う。しかし、不平は口に出るものだ。
「盾役が守る者を置いて行ったら駄目でしょう。……命令したのは俺だから、俺が悪いのか?」
まぁいいと気分を取り直すように転移門をもう一度潜る。持続時間がもうすぐ切れるのと、ルプスレギナとの合流、そして実験のためだ。潜り終わると視界の先には呆然と座り込む抱き合ったままの姉妹が見える。すぐそばにはアインズの特殊能力で分かるものの透明化しているルプスレギナがこちらを向いて待っていた。
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