社説:成年後見制度 不正防止へ改善を急げ

毎日新聞 2015年08月11日 02時30分

 判断能力が不十分な認知症のお年寄りや障害者の財産・権利を守るための成年後見制度で財産流用などが相次いでいる。弁護士による不正も多く、家庭裁判所が監督の機能を果たせていない実態がある。

 認知症の人は600万人を超え、今後も成年後見の必要な人は増えていく。自民・公明などは監督官庁の担当者を拡充し、不正防止や制度の活用を図るため成年後見制度利用促進法案を議員立法で今国会に提出する。内閣府に同制度利用促進会議を設置し改善策を議論するが、課題は多く、実効性のある改革に踏み込めるかが問われている。

 成年後見の利用者は年々増え、現在20万人近い高齢者や障害者が後見人を付けている。だが、後見人による着服などは昨年だけで831件、被害は約57億円と過去最高となった。親族の後見人による不正が多いことから、最近は弁護士や司法書士などの後見人が増えている。

 ところが、弁護士ら専門職による不正も2010年6月から14年末までに計62件、被害は約11億2000万円に上る。東京弁護士会の元副会長が4200万円を着服し有罪判決を受けた事件もあり、東京家裁は弁護士の後見人が一定額以上の財産を預かる場合は後見監督人として別の弁護士を付ける運用をしている。

 後見人を選任し監督する家裁が人員不足などのため十分な業務ができていないことが背景にある。選任の際に必要な後見人候補の面接すら省略する家裁があるといわれる。

 また、後見人への報酬は被後見人である高齢者や障害者が支払うことになっており、報酬額は家裁が判断するが、年金しか収入のない人にも最低で2万円程度の報酬を毎月弁護士に払わせる家裁が多い。

 後見人の仕事は財産管理と、福祉サービスの契約や悪質商法被害にあわないようにするための身上監護があるが、弁護士の後見人の中にはほとんど被後見人に会いに来ない人も珍しくない。一度選任されると不正でもない限り解任されることはない。いったい誰のための後見制度なのかと疑いたくなる。

 日本も批准した国連障害者権利条約では後見人の代行決定権や取り消し権が、障害者の権利を制限し過ぎるとして各国で問題化している。日本も見直しを迫られることは必至だ。

 内閣府の利用促進会議での議論を経て、いずれは民法や成年後見法の改正が必要になる。現在は認められていない手術などの医療行為の同意権を後見人に付与することも検討するというが、後見人による不正防止と利用者の負担軽減こそ図らねばならない。身寄りのない高齢者は増えており改革を急ぐべきだ。

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