性犯罪にいかに臨むか議論してきた法務省の有識者会議が、報告書をまとめた。

 強姦(ごうかん)罪の法定刑の下限を引き上げることを多数意見としつつ、性犯罪とは何かという考え方の転換を求めている。

 被害者や支援団体、加害者を治療する専門家らに聴取して、まとめた重みがある。報告をふまえた法改正を急ぐべきだ。

 性犯罪をめぐる刑法の規定は明治時代から大きく変わっておらず、現実に対応できていないという指摘があった。

 論点のひとつは、強姦罪をめぐる性の差別的扱いだ。現行法では加害者は男性、被害者は女性に限っており、報告書では、そうした性差をなくすべきだとするのが多数意見だった。

 女性への加害は妊娠にも至ることをふまえた区別だったとはいえ、男性も被害者になることが現にある。性的少数者のケースも含め、心や体が受ける傷は同様に深刻である。

 いまの規定は、法律ができた当時、家父長制下で女性の「貞操」が重んじられた反映とみられており、社会の変化に合わせた見直しは急務だろう。

 強姦罪と強制わいせつ罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない親告罪とされている。報告書は、その条件をはずすべきだとの意見が多数を占めた。

 告訴しない条件で加害者から示談を求められ、被害者が悩むことは少なくない。子どものケースで、裁判でその告訴能力が問題にされることもある。

 親告罪とすることは必ずしも被害者の救済につながらない。その負担軽減を考えつつ、親告罪の制限をはずすべきだ。

 自分の名を明かして処罰を求めることで、傷が深まることを不安に思う人もいる。忘れたい出来事を蒸し返すことへの強いためらいもある。

 だからといって、泣き寝入りがあとを絶たない現状は見過ごせない。捜査から裁判まで、被害者の立場に最大限配慮する措置が必要である。

 同時に、冤罪(えんざい)を防ぐために、訴追手続きの公正さも十分担保すべきなのは言うまでもない。肝心なのは、罪に問うべき行為を公平に問い、犯罪の再発を防ぐしくみづくりである。

 性犯罪はこれまで「性的自由に対する罪」ととらえられてきたが、報告書は「被害者の尊厳に対する罪」と位置づけるよう求めた。現状では合意があったかに焦点が絞られ、被害の深刻さが理解されにくいからだ。

 性犯罪は心身と人権に対する重い罪であることを、きちんと定義づけるときである。