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【社説】

新国立の迷走 責任の在りか深掘りを

 日本の信認を損ねた失態にけじめをつけ、教訓を引き出さねばならない。新国立競技場の迷走劇を検証する文部科学省の第三者委員会が動きだした。拙速を避け、国民が得心する結論を期待したい。

 二千五百二十億円にまで膨らんだ工費が非難を浴び、安倍晋三首相が整備計画を白紙に戻した問題である。事業を担ってきた独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)と、監督官庁の文科省が責任追及の主舞台となる。

 第三者委を設置した下村博文文科相は新たな計画策定の進み具合をにらみ、九月半ばまでに成果を得たい意向を示している。しかし、検証の対象とされている当事者自らが期限を区切るのでは筋が通らない。

 第三者委の初会合でも、時間の制約に対する不満が相次いだ。公正かつ中立を旨とするなら、国民を向いて、焦らずひるまずに任務を果たしてもらいたい。甘い検証結果ではかえって反発を招く。

 最大の焦点は、なぜ工費が異常なまでに乱高下したのかである。

 二〇一二年七月、国際デザインコンペの実施時には千三百億円だった。その一年後に三千億円を上回ると試算され、JSCは昨年五月、規模を縮小して千六百二十五億円の基本設計案を公表した。

 今年に入り、実施設計案では再び工費が三千億円を超える見通しになった。JSCは開閉式屋根の施工を大会後に先送りするなどの見直しをしたが、最終的に二千五百二十億円に達してしまった。

 資材費や人件費の高騰、消費税増税が要因として指摘されてきた。けれども、それだけでは合理的な説明はつかないだろう。

 設計業者と建設業者の試算に大幅な食い違いがあるのに、文科省とJSCが手をこまぬいていた疑いや、双方のトップ同士がそうした重大な情報を同時に共有していなかった実態が発覚している。

 巨大アーチの難工事が予測されても、国際公約を理由に建築家ザハ・ハディド氏のデザインに執着する。工費増大の不安を抱え込んだまま旧競技場の解体を進める。建築家槇文彦氏らが提言した代替案を真剣に検討しない。

 政治家や官僚の金銭感覚、硬直した意識、指揮命令系統や管理運営体制の機能不全…。第三者委は多様な視点から切り込み、構造的な欠陥を解明せねばならない。

 時間を空費した揚げ句、計画撤回までに支払った経費約六十二億円が無駄になるおそれも生じた。関係者の責任逃れは許されない。

 

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