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[FT]マレーシアはシンガポールに学べ(社説)

2015/8/11 6:30
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 50年前、マレーシアはシンガポールを連邦から追放し、2つの国は別の道を歩んだ。当時、シンガポール州の首相を務めていたリー・クアンユー氏は非常に取り乱し、大衆の面前で、同氏の長く非凡な経歴において最初で最後の涙を流した。半世紀の後、涙を流しているのはマレーシア人に違いない。

マレーシアの首都、クアラルンプールの様子=AP
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マレーシアの首都、クアラルンプールの様子=AP

 シンガポールが問題を抱えているのは疑いようがない。開発独裁と見なされる体制が繁栄をもたらし、世界で最も洗練された都市国家を創り出した。しかし、多くのシンガポール人は統制された社会に、経済成長では満たす事のできない穴のような物足りなさを感じている。しかし、シンガポールが直面するどんな困難も、マレーシアの難局と比べればかすんでしまう。マレーシアは、ナジブ首相の銀行口座に数億ドルの資金が流れたとの疑惑が報じられ、ここ数年来で最悪の政治危機に直面している。さらに危ういことに、独立以来、同国を支えてきた政治的、宗教的、民族的な凝縮がひどい矛盾の下できしむという、長期間にわたる崩壊が起きつつある。

 民主主義から人口動態まで懸念はあるにもかからわず、シンガポールは驚くべき成功を収めてきた。国民1人当たりの国内総生産(GDP)の名目値は5万6000ドルで、マレーシアの1万1000ドルの5倍以上だ。

■ともに民族問題の火だねを抱える

 リー氏亡き後、独立時から実権を握るシンガポールの人民行動党(PAP)が絶対正しいというオーラを失ったのは確かだ。前回の選挙では、シンガポール国民の40%近くがPAP以外に投票した。しかし、同党はいまだに公正で有能だと見なされている。60年近く権力にしがみついているマレーシアの統一マレー国民組織(UMNO)とは状況が異なる。UMNOの指導者は現在、110億ドルの債務を計上した国営投資会社「ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)」にからむスキャンダルの渦中にある。同国の反汚職機関は、ナジブ氏の口座の6億7500万ドルの資金が1MDBから流れたとの疑惑を否定し、名前は明かさず中東の提供者からの資金だったと述べた。ナジブ氏は不正行為を否定した。しかし、真実がどうであれ、UMNOは長らく、腐敗しきった政治制度に向き合ってきた。マレーシア国民はそれに気づいている。2013年の選挙で、UMNOは一般投票で敗れたが、同党に有利な選挙制度のおかげで権力を手にした。それ以来、しばしばUMNOと同じ意味で用いられる同国は、反対派に銃口を向け、その指導者、アンワル・イブラヒム氏を同性愛の罪で収監した。

 ある意味で、両国を比較するのは不公平だ。シンガポールは人口わずか500万人の都市国家だ。マレーシアの土地面積はシンガポールの450倍で、人口も3000万人と統治はより難しい。3月に死去したシンガポールの建国の父、リー氏は、おおむね善意に満ちた統制で同国を堅く掌握した。このような細かい管理手法がより大きな国で機能するのを目にすることはないだろう。

 しかし、どちらの国も、民族問題の火だねを抱える。シンガポールの方が、言語や能力主義、高潔さなどを通じて公平感や国の結束の意識を作り上げるのに成功している。これに対して、マレーシアは、マレー人保護の名の下の積極的差別を通じて縁故資本主義を築いてきた。マレーシアはシンガポールに学ぶべきだ。まずナジブ氏に自身の無実を証明させるか辞任させるかして、腐敗を一切容認しない姿勢を示すべきだ。政府はマレー人に対する優遇措置を段階的に廃止し、宗教や民族で分ける政策ではなく国の結束に向けた政策を築くべきだ。シンガポールは、将来に向けた堅固な基盤をつくり上げた。腐敗を排除しなければ、マレーシアは破滅的な後退に陥るだろう。

(2015年8月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

(c) The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.


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