クローズアップ2015:交付金減額へ 抜け出せぬ原発依存

2015年08月11日

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原発立地17市町村へのアンケート結果

 九州電力川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)の再稼働に合わせ、国は原発の稼働率などに応じて決まる電源立地地域対策交付金の規定を見直し、停止中でも一律81%としていた「みなしの稼働率」を引き下げる方針を固めた。今後の各地の再稼働を促進する狙いだが、国のこの手法が効果を持つのは、立地市町村の原発依存体質が根深いからだ。原発マネーで潤った自治体は、原発なしで自治体運営ができなくなる。そんな多くの立地市町村の現状が一層鮮明に浮かび上がった。【関谷俊介、宝満志郎】

 ◇国が危機感あおる

 「国が金で誘導するやり方は好ましくない」。北海道電力泊原発を抱える北海道泊村の幹部は、電源立地地域対策交付金について停止中のみなし稼働率を引き下げ、市町村の危機感をあおって再稼働の追い風とする国の手法に苦言を呈する。

 福島の事故を受けて全国の原発が長期停止し、立地市町村は当初、財政への影響を懸念した。それを吹き飛ばしたのは一律81%という高い水準のみなし稼働率の適用だった。

 毎日新聞が原発立地17市町村(福島県内除く)に尋ねたところ、みなし稼働率に基づく2013、14年度の同交付金の平均額は、事故前の稼働実績に基づく11、12年度の平均額と比べ、11市町村で0・02~23・18%増となった。減額されたのは原発の新規立地に伴う交付金が12年度ごろまで交付されるなどした6市町村だった。

 交付額を圧縮する国の規定見直しは、ただ再稼働を促すだけでなく、浮いた財源を別の財政支援に回す狙いもある。今年廃炉になった老朽原発5基分については16年度から従来の交付金がなくなる。このため、市町村の財政に与える廃炉の影響を緩和する何らかの支援をする方針だ。再稼働が実現したとしても使用済み核燃料の貯蔵スペースに余裕がない原発は数年でストップしかねないため、貯蔵施設を新たに受け入れる市町村への財政支援を講じ「交付金の元々の目的である円滑な運転のためのインセンティブ(刺激策)」(経済産業省職員)とする考えだ。

 毎日新聞は立地17市町村に、地元の原発の(1)再稼働(2)原子炉等規制法で原則40年とされる運転期間の延長(3)新増設−−への賛否も尋ねた。いずれも原子力規制委員会の審査に合格している場合を前提にした質問で、再稼働と運転期間延長に「反対」はなかった。新増設については、宮城県石巻市、松江市、愛媛県伊方町が「反対」を選んだ。

 再稼働に「賛成」と答えた8市町村のうち、薩摩川内市を除けば、いずれも歳入総額に占める同交付金など原発関連収入の割合が20%(14年度)以上で、原発依存度が高いほど再稼働に前向きな傾向が浮かんだ。

 中でも泊村は、同交付金7億7000万円に北海道電力の固定資産税などを加えた原発関連収入が80%になる。「村の事業を継続していくには交付金が減額されると厳しい」。幹部はそう嘆いた。

 ◇地元財政・経済の要

 一度原発を受け入れた地域は、もう原発なしでは未来を描けないのか。

 昨年7月~今年2月に開催された福島県大熊町の将来計画を策定する検討委員会。9月の第3回会合で、同県いわき市に避難している委員の一人の岩本久美(ひさみ)さん(70)は疑問をぶつけた。「大切なのは町の将来よりも、大多数の帰れない町民が新生活を送るための支援ではないか」

 東京電力福島第1原発事故で約1万人の全町民が町外に避難し、町民の96%の居住地域が帰還困難区域となった。町は、比較的線量の低い地区に住宅や商業施設を集積させる新たなまちづくり構想を進める。

 まちには、30年以上かかるとされる廃炉作業などにあたる東電社員向けの寮が造られるほか、東電関連会社2社の進出も決定。町は原発関連の人口を約2000人と見込む。一方、元々の町民で帰還を希望しているのは約1000人にとどまり、高齢者が中心だ。

 町は60~70年代、原発を誘致するとともに関連産業を呼び込んだ。電源立地地域対策交付金は、事故があった10年度には町の歳入総額の2割を占めた。新たなまちづくりでは、国の福島再生加速化交付金のほか、事故に伴って30年間にわたり支給される交付金(年約20億円)などが財源となる。渡辺利綱町長は「まだ原子力に頼るのかと言われるが、共生していかざるをえない」と悩ましい表情を見せる。

 一方、薩摩川内市の歳入総額に占める原発関連収入(固定資産税除く)はここ数年3%程度にとどまるが、地域経済を支えてきたのは原発だ。

 「一刻も早い再稼働が疲弊した地域経済の活性化、雇用の安定化、地域創生につながるものと確信しております」。5月14日、同市に集った全国の原発立地市町村の商工団体代表を前に、地元の山元浩義・川内商工会議所会頭が訴えた。

 同商議所などによると、1984、85年に運転を始めた1、2号機の建設費計約5100億円のうち地元受注額は約690億円に達した。原発では通常時約1000人が働き、飲食などで地元に落とす金は年12億円を超す。定期検査時には作業員がさらに約1200人増え、この際の宿泊などによる経済波及効果は約6億円と試算される。福島の事故後に凍結された3号機増設計画(建設費約5400億円)への期待も根強い。

 だが、市の中心部を外れると、多くの地区で過疎高齢化が進む現実もある。川内原発から5キロ圏の峰山地区。コミュニティ協議会会長の徳田勝章さん(77)は「原発の金は偏在化しており、地区としてはほとんど恩恵を感じていない。田園都市でもあり、1次産業などを大事にしないと永続性はない」と語る。

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