停止原発:経産省が交付金減額方針 再稼働へ自治体に圧力
毎日新聞 2015年08月11日 09時30分(最終更新 08月11日 14時43分)
原発の稼働率などに応じて自治体への交付額が決まる電源立地地域対策交付金制度について、経済産業省は、安全確保を目的とする停止中は稼働率を一律81%とみなして交付する現在の規定を見直し、東京電力福島第1原発事故前の稼働実績(平均約70%)に基づいて原発ごとにみなしの稼働率を定め、停止中の交付額を引き下げる方針を固めた。2016年度分から見直す。みなし規定は原発事故を受けて停止中の全国の原発についても適用されており、減額を恐れた自治体から今後、再稼働を求める動きが強まる可能性がある。
同省によると、九州電力が11日に川内(せんだい)原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)を再稼働させることに伴い、今後再稼働した原発より停止中の原発の交付額が大きくならないよう「公平性確保」を狙った措置という。
同交付金は、2カ年度前(16年度から1.5カ年度前)の稼働実績が交付年度の金額に反映される仕組み。原発事故を受けて多くの原発が11年度中に定期検査に入ったまま停止したため、13年度以降は各市町村とも、13カ月に1回の定期検査中を除いたフル稼働に相当する81%の稼働率とみなす規定に基づき交付を受けている。
同省の有識者委員会が昨年12月、稼働中と停止中の原発の「公平性確保」を求める意見をまとめたのを受け、同省は制度の見直し作業に着手。福島の事故前の稼働実績を踏まえたうえで81%を超えないよう上限を設け、原発ごとにみなしの稼働率を定める方向で、再稼働しない限り、各市町村への交付額は減額される。
多くの立地市町村は同交付金をはじめ原発関連収入に財政を依存しており、これまで同省にみなし規定の維持を訴えてきた。同交付金14億9000万円など14年度の原発関連収入が歳入総額の4割強に上った福井県美浜町は関西電力美浜原発1、2号機の廃炉の影響で16年度から同交付金が半減すると試算していた。担当者は「このうえみなしの稼働率が下がったら、再稼働を望む声は強まる」と話す。
地方財政に詳しい東京自治研究センターの伊藤久雄特別研究員は「国のさじ加減で交付額が決まるような今の仕組みでは、交付金頼みの財政から脱却できない。市町村は原発以外の地域資源の掘り起こしに力を入れ、国はかつての産炭地支援のような影響緩和策で支えるべきだ」と指摘する。【関谷俊介】
◇電源立地地域対策交付金とみなし規定
円滑な原発の設置や運転を目的に1974年に制定された電源3法に基づく交付金のうち最大の交付額で、国から立地道県や市町村に交付される。電気料金に上乗せされる電源開発促進税が財源で、2014年度の交付総額は1059億円。稼働率(年間の発電電力量を、フル出力で1年間運転した場合の電力量で割った割合)などで交付額は決まるが、安全確保のため原発を停止した場合は立地自治体に不利益を与えるべきでないとの考えから、03年に停止中でも稼働率100%(10年度から81%)とみなす規定ができた。