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旧軍人ら精神療養、今も九州で6人 70年以上にわたって入院も

西日本新聞 8月11日(火)9時30分配信

 太平洋戦争中、過酷な戦場体験や軍隊生活の影響で精神障害を患い、戦後70年を迎えてなお療養中の旧軍人・軍属が、今年3月末現在で九州7県に6人おり、うち3人が入院中であることが、西日本新聞の取材で分かった。

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 福岡県の98歳の男性など、70年以上にわたって入院生活を続けてきたとみられる人もいる。戦地での結核や外傷などの治療を続けている戦傷病者も7県で計43人に上る。戦争がもたらす心身の傷の深さが、あらためて浮き彫りになった。

 一定程度以上の障害や療養の必要がある旧軍人・軍属には、戦傷病者特別援護法に基づいて戦傷病者手帳が交付され、医療費給付などの援護が受けられる。

 九州各県によると、3月末現在で戦傷病者手帳を持っている人は、福岡392人▽佐賀95人▽長崎382人▽熊本270人▽大分137人▽宮崎167人▽鹿児島421人−の計1864人。このうち、医療費給付を受けている療養患者は7県で49人。精神障害で入院中の人は福岡、宮崎、鹿児島3県にそれぞれ1人ずつおり、通院中の人も3県に1人ずつ確認されているという。

 福岡県保護・援護課によると、同県内では戦地での精神障害のため98歳の男性が入院しており、90歳の男性が通院治療中。98歳の男性については「県には2000年以降の記録しか残っていないが、70年以上入院生活を続けてきたとみられる」(援護恩給係)という。

 研究者は宮崎、鹿児島の入院者も、数十年間にわたって入院生活を送ってきた可能性が高いとみる。戦後、出身地の近くにある病院などに転院したものの、精神障害に対する社会の偏見から、家族にも見放されて入院生活を余儀なくされ、一度も退院せずに亡くなった人が多いという。

 関係者によると、福岡県の98歳の男性は、戦場での体験から精神疾患を発症。国立病院などを経て、現在は筑後地区の病院に入院し、親族が看病をしている。

■奪われた社会復帰 清水寛・埼玉大名誉教授の話
「戦時中、精神に障害を負った軍人・軍属の多くは、千葉県市川市の旧国府台陸軍病院に送られた。その数は約1万450人に上るとされる。2013年3月末時点で、全国では7人が入院中と確認されており、いずれも70年近く入院したままとみられる。身体障害を負った兵士は名誉の負傷とたたえられたが、精神障害は恥とされた。国の施設で終生保護する政府方針もあり、家族とも縁が切れ、社会復帰の可能性が奪われた。社会的入院の最もひどい例だ。現在の米軍もそうだが、戦争が起きると軍隊には自殺者や精神障害者が大量に発生する。同じ過ちを繰り返さないため、忘れられている彼らの存在を掘り起こすべきだ」

西日本新聞社

最終更新:8月11日(火)11時57分

西日本新聞