牛肉:「霜降り」より「赤身」人気上昇中 健康志向後押し
毎日新聞 2015年08月10日 11時54分(最終更新 08月10日 22時17分)
高級和牛の代表とされる霜降り肉に比べ、焼くと硬くなるなど安価なイメージがあった赤身肉の人気が上昇している。消費者の嗜好(しこう)の変化や、外食店での熟成肉ブームが家庭での消費にもつながっているもようで、霜降りと赤身の価格差が急速に縮まってきた。高級和牛といえば「霜降り」という常識に変化が起きているようだ。
「牛肉は売り上げ、価格ともに上がり続けている。赤身肉の人気も高まっている」。首都圏で137店舗のスーパーを展開するいなげや(東京都立川市)の担当者がこう強調する。
赤身肉人気を後押ししているのは、一定期間肉を低温で乾燥させるなどしてうまみを引き出した熟成肉ブームだ。消費者には「軟らかくまろやかな風味で肉本来の味を楽しめる」と人気で、最近は外食店だけでなく、生産者側が直接、熟成肉作りに取り組む例も増え始めた。いなげやも、モモ肉などを熟成させて、熟成しない肉より高い価格で売り出した。
また、脂身を避けたいという健康志向の女性や高齢者が赤身肉を好む割合が増えている。「ここ5年間で牛肉の好みが赤身に変わった人は28.2%」。リクルートライフスタイルが2014年に約1万人を対象に実施したアンケート調査ではこんな結果が出た。逆に、好みが脂身に変わったという回答は3%だった。
牛肉は、脂の量などによって等級で格付けされており、最高級の霜降りである「A5」の今年5月の1キロ当たりの卸売価格は2496円で、脂の少ない「A3」(1キロ当たり2175円)の1.14倍。01年度の1.75倍、08年度の1.46倍に比べると、価格差は急速に縮まっている。
消費者の健康志向が進み、赤身肉をよりおいしく食べる技術が定着すれば、さらに人気が高まって、かつて庶民の財布に優しいイメージだった赤身肉が高級食材となる可能性もありそうだ。昨年4月から熟成肉の販売を始めた百貨店「松屋銀座」では「順調に売り上げを伸ばしている」(広報担当者)という。他にもスーパーや外食店で、販売や提供を始める店が増えている。農林水産省は「景気が回復傾向の中、高級な和牛に対する需要も増えているのでは」と指摘する。【松倉佑輔】