奇才を支えた圧倒的読書量にふれる
『殊能将之 読書日記 2000-2009』 (殊能将之 著)
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殊能将之の名前を知らない人もいるかもしれない。
Mercy Snowこと殊能将之は七冊の長編小説を書いたミステリ作家である。最後の長編は十年以上前なので、その名前を覚えていない人がいてもしかたないかもしれない。だが、同時代を生きた者にとっては怜悧きわまりない小説世界は決して忘れられぬものである。底知れない教養と、触れれば切れそうな鋭利な知性に裏打ちされ、どこまでもクールな冗談にくるまれる。殊能将之の小説に感傷はない。決して作者の顔を見せようとしないストイックさが、その知性をますます際立たせたのだ。
誰もが小説から感じていたその凄みを、いまあらためて確かめられる本が出た。『殊能将之 読書日記 2000-2009』は殊能将之がウェブページで連載していた日記から書物に関する部分を抜き出したものである。だが、これはただの読書日記ではない。殊能将之はとんでもない濫読家であり(だが、優れた作家はみなそうである)、その読書は多岐にわたる。知る人ぞ知るSF作家デイヴィッド・I・マッスンやD・G・コンプトン、一風かわったミステリ作家であるマイクル・イネスやポール・アルテ、はてはジョルジュ・ペレックやウィリアム・ギャディスといった難解な純文学作家まで。誰も読んでいないような小説を(アルテなどはフランス語の原文で読んでいる)紹介して簡潔に読みどころを語り、その評によって自分自身の小説まで論じてみせる。このアクロバチックな知性。マイクル・イネスへの「イネスを知るには作品を読むのがいちばんで、(現し身のJ・I・M・)スチュアート氏のことをいくら調べてもむだですよ」が殊能将之本人のことでなくてなんだろう。
殊能将之は我が最愛のSF作家であるジーン・ウルフとジョン・スラデックの最大の理解者であり愛好者でもあった。本書にはウルフ『ケルベロス第五の首』のもっとも優れた書評もおさめられている。
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