【動画】滋賀県長浜市で美浜原発の事故を想定した原子力防災訓練=加藤諒撮影
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 原子力発電所で重大事故が起きたとき、自治体はバスなどで周辺住民を避難させる。しかし、被曝(ひばく)の恐れがある地域に、民間バスの運転手を強制的に向かわせる制度はない。11日に九州電力川内原発が再稼働する予定だが、住民の避難計画は運転手の善意が頼みだ。

 福井県の関西電力美浜原発で事故が起き、放射性物質が外部に漏れ出た――。

 7月12日、こんな想定の防災訓練が滋賀県長浜市であった。滋賀県の長浜市と高島市は福井県内の原発の半径30キロ圏(緊急時防護措置準備区域=UPZ)にあり、圏内に約5万8千人が住む。

 訓練には住民503人が参加した。最寄りの小中学校や体育館に集まり、バス14台に分乗して県立長浜ドームまで避難した。

 2011年3月の福島第一原発の事故後、12年9月に原子力災害対策特別措置法が改正された。これを受け、原子力規制委員会が定めた原子力災害対策指針の中で、原発の半径30キロ圏の自治体は避難計画の策定を義務づけられた。

 長浜市と高島市の場合、原発事故が起きると住民はまず屋内に退避する。地上1メートルの高さで毎時20マイクロシーベルトを超える放射線が観測された場合、1週間以内に滋賀県内や大阪府、和歌山県に避難する計画だ。

 移動手段はバスが原則。自家用車だと渋滞や避難先の駐車場不足が懸念されるためだ。滋賀県は13年12月に県バス協会と協定を結んだ。県内の観光バス約500台を避難用にあて、住民をピストン輸送する計画を立てている。

 しかし、訓練でバスを運転した湖国バスの西沢正勝さん(52)は「放射線は目に見えない。安全か危険か現場で判断できない」と戸惑う。滋賀観光バスの馬場兼蔵・安全統括部長は「運転手に業務命令を出すのは難しい。勇気を持って行って来いとしか言えない」。滋賀県原子力防災室の入江建幸参事も「運転手の善意に頼るほかない」という。

 災害対策基本法86条は、災害時に知事が運送事業者に被災者の運送を要請できると規定している。要請に応じない場合は「指示」できると定めているが、「強い意思表示に過ぎない」(内閣府)。従わなくても罰則はない。