毎日新聞は8月2日付朝刊の社説「視点 安保転換を問う 徴兵制/解釈改憲が広げる不安」の中で、「集団的自衛権の行使容認は合憲と言う西修・駒沢大名誉教授や百地章・日本大教授は、徴兵制も合憲との考えを示す」と記したのは誤りだったとして、8日付朝刊でおわび記事を掲載した。
おわび記事では、両氏が、徴兵制について憲法18条が禁止する「意に反する苦役」に該当するとの政府解釈に疑問や反対の考えを示していることから、徴兵制の合憲論に立っていると誤解したと説明。「当方の思い込みと事実確認の基本動作を欠いたことにより、ご迷惑をおかけしました」と陳謝した。毎日新聞は時々、論説委員個人の署名入りの社説「視点」を掲載しており、今回の社説も佐藤千矢子論説委員の署名入りだった。記事は毎日新聞のニュースサイトにも掲載されていたが、こちらはおわびや訂正の記載はなく、上書き修正されていた。
西教授は6月22日の衆議院の委員会で参考人として陳述した際、政府解釈が徴兵制を違憲と明言していることから、政府が提出している安保関連法案が徴兵制に行き着くという議論は「飛躍した論理」だと指摘。徴兵制に関する自身の立場は「無用論、不要論、非現実論」であると説明した上で、民主党内の旧民社党議員を中心とした「創憲会議」の憲法改正案=2005年10月公表=が明文で徴兵制の禁止規定を置いていることに言及し、「これが私の現在の徴兵制論であります」と明言していた。
他方、百地教授も6月19日の日本記者クラブの記者会見で、「現在の憲法下で徴兵制は憲法違反であり、将来も考えていない。解釈変更も当然、憲法の枠を超え、これはあり得ない」と述べていた。
社説〈視点〉 安保転換を問う 徴兵制/解釈改憲が広げる不安
集団的自衛権の行使を認める新たな安全保障法制のもとで、将来、徴兵制が復活するのではないか、という議論が起きている。安倍政権は、安全保障関連法案への反対をあおるものだと反発しているが、そんなに単純な話ではない。
…(略)…
安倍晋三首相は、参院の特別委員会で、徴兵制について「明確な憲法違反だ。今後も合憲になる余地はない。たとえ首相や政権が代わっても、導入はあり得ない」と断定的な口調で否定した。政策的にも、軍のハイテク化で兵員に専門性が求められていることなどから、徴兵制は非合理的との考えを示した。
だが、徴兵制の憲法解釈には、異なる意見もある。
石破茂地方創生担当相は、今は政府見解に従うと言っているが、かつては徴兵制は「意に反した奴隷的な苦役だとは思わない」(2002年5月23日の衆院憲法調査会)と語っていた。
集団的自衛権の行使容認は合憲と言う西修・駒沢大名誉教授や百地章・日本大教授は、徴兵制も合憲との考えを示す。…(以下、略)毎日新聞2015年8月2日付朝刊5面 ※ニュースサイトの記事は修正済
毎日新聞2015年8月8日付朝刊5面
衆議院・我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会における西修参考人の陳述(2015年6月22日)(大串博志委員=民主=の質問に対する答弁)
○西参考人 私の徴兵制に関するごく最近の考え方につきましては、私のこの「いちばんよくわかる!憲法第9条」にございます。別に、自己宣伝するわけじゃありません、今何も持ってきていないものですから。
そこでは、徴兵制に行き着くという飛躍した論理があります、でも、私は、このような考え方はいかがかと。そこで、これは全部読むと時間がありませんので、ごく簡単に申し上げますと、私はなぜこういう徴兵制に行き着くかというような感情的な考え方に反対か。
一つは、政府は、徴兵制を憲法違反であると解釈し続けております。政府は、十三条、十八条、こういう条項によって、意に反する苦役は、これはだめですと。政府としては、横畠さんですか、従来の解釈を踏襲して、平時、有事を問わず、憲法上、徴兵制をとることはあり得ず、憲法解釈上の変更の余地はない、こういうことを明言しているではないか。
それから第二には、二つに、現代の兵器水準は徴兵制をほぼ無用にしております。私は、今の徴兵制というのは、無用論、不要論、非現実論。今の軍隊というのはプロフェッショナルの集団でありまして、だからこそ、ドイツ、イタリア、これは徴兵制を憲法で規定しているんですよ、憲法で規定しております。憲法で規定しておるそのドイツ、イタリアでも、これは今志願制です。
ヨーロッパで徴兵制はスイスですよね。スイスは徴兵制、憲法で規定してあります。軍隊を持っています。しかし、あれは御存じのように、ハリネズミのような国防体制、徴兵制です。我が国がもし非集団自衛権論をとるならば、スイスのような、あのような、ハリネズミのような国防体制をとるのか。これは、私はナンセンスだと思います。であるならば、日米安保条約というものを強化して、そしてお互いに助け合う、これが私は一番重要である。
それから第三には、何か、これは、徴兵制をとられると、例えば、もう自衛官はだめだからということで防衛大学校生も少なくなると。しかし、防衛大学校の志願者は多くなってきている。
それゆえ、集団的自衛権の容認が徴兵制に結びつくというのは、国民の感情論に訴えた非現実的な反対論だということで、非現実性を言っておりますけれども、そこで、私については、いろいろな案を、グループで憲法案を書いております。私の考え方が一番出ているのは、創憲案というのがあります。旧民社党の人たちの創憲案。その創憲案の第三条にはっきり書いてあります。兵役はこれを認めない、徴兵制はこれを認めない、これが私の現在の徴兵制論であります。以上です。国会会議録検索システム
日本記者クラブ記者会見における百地章・日本大学教授の発言(質疑応答)(2015年6月19日)
Q.徴兵制について伺いたいんですけれども。政府は憲法解釈によって徴兵制は認められないとしておりますけれども、この点に関する両先生のご見解をお聞かせいただければと思います。解釈の変更によって認められることはあり得るのかどうか。お考えを聞かせていただければと思います。
西修(略)
百地章 この点、私も何を持って憲法違反とするかということですが、「苦役から自由」を使っているのは政府ですけれども、これについては自衛官の武田空幕長でしたか、辞められる時に、意義を申し立てたことがありました。
もし、軍事的役務に就くということが苦役に当たるとするならば、自衛官は自らの意思に基いて苦役に就いているのかと。国の防衛という神聖な仕事をしているにも関わらず、これが苦役というのは、私どもとしては耐えられないという趣旨の発言をしたと思うんですね。
西先生がお話されましたけども、私もその点は、国際人権規約におきましても、軍事的性質の役務は強制労働に当たらないということになっておりますから、「その意に反する苦役」と見ることはどうかと思います。
しかし、9条は戦力を持たないとしておるわけでありますし、その下で徴兵ということはあり得ないと。だから現在の憲法の下で、徴兵制は憲法違反であり、将来も考えておりません。また解釈変更というのは、当然、憲法の枠を超えますから、これはあり得ないということです。
それからそもそも、先ほどと重なりますけれど、今日では徴兵制は廃止される傾向にある。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツといった国々は、いずれも廃止。あるいは中止しているわけです。ハイテク化の中で、お金がかかるし、役に立たないという実際もありますから、現実的にはあり得ないという風に私は考えております。
- (初稿:2015年8月10日 17:25)