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Re:Monster――刺殺から始まる怪物転生記―― 作者:金斬 児狐

第四章 救聖戦線 世界の宿敵放浪編 

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二百六十一日目~二百七十日目

 “二百六十一日目”
 ふと窓の外を見てみると眩い太陽が顔を覗かせていた。
 どうやら盛り上がりすぎて徹夜してしまったようだ。

 ダンジョンボスなどを殺す時には徹夜など当たり前だったが、ただの宴会パーティで徹夜するのは久しぶりだな、と思いつつ。

 右手に持つ魔法金属製のタンブラーグラスに注がれた、香り高い黄金色の酒をゴクリと呷る。
 途端、口内に広がるのは長期熟成された日本酒のような、複雑で濃厚な味わいだった。
 飲むごとに様々な顔を覗かせるので、幾ら飲んでも飽きる事はないだろう。
 個人の趣味嗜好によって感じ方は様々だろうが、俺にとってはこれまで飲んできた多種多様な酒の中でも五指には確実に入る美酒であり、それはある意味で当然とも言えた。

 コップに注がれた酒は、詩篇をクリアした際に入手した二種類の酒の一つ、【鬼酒・銘[鬼酔殺・無尽]】である。
 初めて竜肉と共に飲んだもう一種類の【鬼酒・銘[尽きぬ夜桜の一滴]】に勝るとも劣らないこれは、俺ですら一時的に酔う事が出来る極上の酒だ。
 飲むと身体が芯から火照り、口に含んだ時の柔らかに広がる調和のとれた深い味わい。そして飲んだ後の余韻も長く楽しむ事ができる。
 やはり酒はいいものだと思わざるを得ない。

 ただ、容器の容量的に一度に飲める量が少ない事だけが不満だ。
 一応空になっても時間経過によって元の量に戻る素晴らしい特性があるので、そんな不満は些細な事だとして胸に秘めておくべきだろうが、それでももっと多く飲めたらいいのに、と思ってしまう。
 どうしようも無いが、これだけは残念でならない。

 さて、酒単品でもまるで極楽浄土に居るような心地になるのだが、今回の宴会には、この酒にあう三種類のツマミを特別に用意した。

 一つ目は大鯰の蒲焼。
 これは【亜神級】の【神代ダンジョン】である【清水の滝壺アクリアム・フォルリア】で釣り上げた、“巨大湖の魚主・大鯰”を使用した。
 あのダンジョンモンスターだろ、と言いたくなるほど巨大なナマズだ。
 大きいので最初は大味かと思ったのだが、脂を蓄えて厚みのある身は魚というよりも肉を食べたかのような満足感がある。
 クセがなく臭みの無い白身はプリプリとしており、味は淡白だが、そこに濃厚なタレを追加する事で丁度いい塩梅となっている。
 淡白だが濃厚で、魚だけどまるで肉のような蒲焼は、一口食べれば誰だって酒が欲しくなるに違いない。

 二つ目は竜肉の角煮。
 豚肉のばら肉の代わりとして肉質が柔らかい女帝の竜肉を使用したこれは、トロトロと舌の上で溶けるような食感と、少々濃厚であるがやや甘いタレが特徴だ。
 単品でも感涙する程の一品であるが、付けあわせとして用意した迷宮産の“緑金梗菜リョクチンゲンサイ”や“天宝テンホウレンソウ”を一緒に食べる事によって、その魅力は更に向上する。
 シャキシャキとした野菜の食感と、舌の上で溶けるような角煮の食感。
 調和のとれた味わいは、どれほど食べても飽きる事はきっとないだろう。

 三つ目は竜肉ステーキ。
 女帝の角煮と違って竜帝のやや硬い竜肉を使用したコチラは、しかし丹念に調理した事により、ミスラル製のフォークとナイフで抵抗も感じず容易に切れる程度には柔らかくなっている。
 竜肉ステーキの表面はこんがりと焼け、しかし中はまだ赤みが残っているという絶妙の焼き加減だ。
 蒲焼とも角煮とも違うシッカリと引き締まった竜肉の歯ごたえは丁度よく、噛めば噛むほど閉じ込められていた肉汁が溢れ出るのがまた堪らない。
 一度手を出してしまえば、目の前から無くなるまで手が止まらなくなるだろう。

 そんな三種類のツマミが、目の前のテーブルに並べられている。
 これ等はどれもこれも絶品であり、それぞれがとても魅力的で、一口食べれば最後までジックリと堪能せずには居られない。
 だから先にどれを食べようかとても悩ましく、迷ってしまった。

 まさに難問。答えなど存在しない、回答不能の問題だ。

 まあ、結局悩んだ末に三種類のツマミをそれぞれ堪能する。
 サッパリとした蒲焼、甘くトロけるような角煮、濃厚で喰べ応えのあるステーキ。
 それぞれの魅力を口内にて遺憾なく発揮するツマミを食べると、身体が欲したのでまたゴクリ、と酒を呷った。

 何物にも代え難い、まさに至福のひと時だ。

 ツマミとコップ一杯分の【鬼酒・銘[鬼酔殺・無尽]】を堪能し、その余韻を楽しみつつ、俺は周囲に目を向けた。
 今回の宴会には王都に居る団員全員と、屋敷で雇っている執事やメイド達、そしてお転婆姫や第一王妃など合わせて数百名もが参加したが、一夜が過ぎた結果はそれぞれ大きく異なっている。

 まず、カナ美ちゃんやミノ吉くん、アス江ちゃんといった特に酒に強いメンバーは、俺と話したり飲み食いしていたので、同じく徹夜している。
 一つのテーブルを囲んでいたので、テーブルの脇には宴会の成果として山のような空樽が積み重ねられていた。
 軽く数えてみても、空樽の数は既に五十以上はあるのではないだろうか。
 まるで小山のようになっているが、酒樽は腕利きの職人が丈夫な木材を使って造ったもので、殆ど同じ規格で統一されている。
 その為規則正しく積む事ができるし、ドッシリとした安定感があるので誰かが故意に突っ込まない限りは崩れる心配をしなくてよさそうだ。

 そんな樽山だが、今もミノ吉くんとアス江ちゃんがゴクリゴクリと迷宮酒が入った樽をそのまま飲んでいるので、まだまだ積み重なっていくのは間違いない。
 一体どれくらいになるのか気になるので、とりあえず終わるまでアイテムボックスに収納するのは待とうと思う。

 そんな感じでミノ吉くんとアス江ちゃんは豪快に飲んでいるが、カナ美ちゃんは違う。
 白銀のワイングラスにワイン系の迷宮酒を注ぎ、上品に楽しんでいる。動きや仕草は優雅であり、飲んでいる姿を描けば素晴らしい名画になるだろう。
 【吸血鬼ヴァンパイア】種のほぼ頂点に君臨する現在のカナ美ちゃんは、【支配者】の貫禄というものが何気ない仕草からでも伺えた。
 今までも耐性が無い者なら僅かな動作で【魅了チャーム】されていたが、今では耐性があっても見惚れてしまうだろう。
 状態異常バッドステータスではなく、単純に綺麗だからだ。
 ただ、カナ美ちゃんの後ろにはまるで周囲から隠すようにして、空になった数十本の酒瓶が規則正しく置かれている。しかも一つ一つがかなり高価な名酒揃いだ。
 外では優雅に、内では貪欲に。とでも言えばいいのだろうか。
 これ等は全てカナ美ちゃんただ一鬼で飲み干した物である。
 今飲んでいる【シャンブル・ドゥネッサ】という甘口で口当たりのいい白ワインも、【亜神】級の【神代ダンジョン】の下層で行った小ボスラッシュ戦で得た物だ。
 入手難度からして、購入しようと思えば軽く金板数十枚は飛ぶだろう。下手すればもっと高額になるかもしれない。
 そんな王侯貴族でも気軽に飲めない代物が、カナ美ちゃんの胃袋に収められていた。
 カナ美ちゃんは入手難度が高いだけあって美味い酒がかなり気に入ったようなので、今度また攻略ついでに取りに行こうと思う。
 あえて別の場所で同ランクの名酒を集めるのも、それはそれで良さそうだ。

 それから、今ココには居ないブラ里さんも酒は俺達と同じくらい強いのだが、飲みすぎて酔い潰れてしまったスペ星さんをお姫様抱っこして部屋まで抱えて行った。
 確かそれは深夜過ぎのはずだが、数時間が経過した今もまだ戻って来ていない。そして勿体ない事に、飲みかけの酒もまだコップに入れられている。
 酒を飲み干していかなかった事から帰ってくるつもりだったのかもしれないが、さてどうしたのだろうか。
 もちろん送っていったついでに、疲れたとか気分が乗らないなどの事情で、スペ星さんの部屋の隣にある自室で寝ているなんて事も十分考えられるだろう。
 昨日は迷宮を一日で攻略したりして、疲れは多少なりともあったに違いないのだから。

 ただスペ星さんを連れて行く時に見てしまった、ブラ里さんのだらし無い表情から察するに、何かが起こっている事も考えられる。
 それはもう、十分すぎるほどに。

 あれは、獲物に止めを刺そうとする狩人ハンターの目だった。
 あるいは、弱った草食獣を虎視眈々と狙う肉食獣の目だった。

 まあ、とはいえ、俺はこの問題について自分からは触れないつもりだ。
 うん。俺達は仲間であり、家族である。
 個人の趣味はそれぞれ多様であり、過剰な干渉は自重し、それぞれの自由意思を尊重すべきだ。

 だから誰が何処にいて何をしていたのかなど、助けでも求められない限り、自ら詮索しないし見なかった事にするつもりである。
 分体も、そこら辺はノータッチなので、詳細は不明だ。

 次は赤髪ショートだが、疲れて眠ってしまったオプシーを抱き上げて自室に戻るついでに、はしゃぎ過ぎて疲れて眠たそうにしていたオーロとアルジェント、そして鬼若をそれぞれの部屋に連れて行った。
 戻って来ていないので、赤髪ショートとオプシーはベッドでグッスリと寝ているだろう。オーロ達も子供部屋で寝息を立てているはずだ。
 この時間帯なら既に起きている事も考えられるが、訓練場からは何も聞こえないので、まだ自室で眠っているのだろう。

 俺達から少々離れた壁際近くの大型ソファに腰掛けているセイ治くんは、スペ星さんと同様に酔い潰れてしまったらしく、穏やかな寝顔を晒していた。
 その両脇には同じく寝ているアイ腐ちゃんとクギ芽ちゃんがいて、三鬼の周りを数名の女鬼達が囲んで寝ている。
 囲んで寝ているのはセイ治くんに惚れている者達――簡単に言えば、ハーレムメンバーである。
 以前からセイ治くんはモテていたが、これは別に不思議な事ではない。誠実で優しく、端正な目鼻だちで地位もあれば好意を寄せられるのはある意味当然だ。
 それに実戦や訓練中の事故で致命的な怪我を負い、瀕死の状態で意識が朦朧とする中で献身的に介護してくれるセイ治くんの姿を見てしまえば、吊り橋効果などもあり、惚れても仕方ないだろう。
 天然な部分も多分にあるので、恥ずかしいセリフも躊躇しないところもポイントが高いのではないだろうか。
 揺れ動く乙女心を、セイ治くんは計算ではなく天然の言動でガッチリと掴むのだ。
 天然ジゴロであるセイ治くんに恋する女鬼達だが、こういった集団が出来上がると厄介事が高確率で起こるものだ。
 だが筆頭であるアイ腐ちゃんとクギ芽ちゃんの圧倒的な実力と、優しいセイ治くんが中核である事、そして水面下でも過激になれば俺が介入せざるを得ないので、女鬼達は定期的に話し合い、鋼鉄の協定を結んでいるので今のところ争いになりそうな兆候もない。
 だからセイ治くんグループは、周囲のモテない男鬼達の嫉妬はありつつも、平和な状態が維持されていた。
 まあ、そこら辺は深く突っ込まなくてもいいだろう。面倒だし。
 セイ治くんなら、何だかんだと上手くやるに違いない。

 その他では、お転婆姫や少年騎士、第一王妃や闇勇一行は結局帰る事なく、泊まる事になった。
 一応個室は用意したのだが、そこでは皆眠らず、セイ治くん達と同じように宴会場の壁際に設置している豪奢なソファでそれぞれ眠っている。
 ソファは高級品なので専用の寝具と比べれば若干劣るだろうが、それでも一夜を過ごすには十分な寝心地を提供してくれる代物だ。

 そんなソファの上で、年少組とも言えるお転婆姫と少年騎士の寝顔は青ざめていた。
 寝ている今もうなされ、寝苦しそうにしている。
 寝苦しいのは着ている服が適していない事も理由の一つだろうが、主な原因は酒に酔ってしまったからだろう。
 お転婆姫と少年騎士はまだ子供なので、一応迷宮産の果実を搾ったジュースを出したのだが。
 周囲の雰囲気に釣られたか、あるいは勧められたかして飲んでしまったのか。
 もしくは宴会場に充満する酒の匂いにやられてしまったのかもしれない。
 理由としては、最後が最もありえそうな話だ。

 なにせ、今回の宴会では特に竜肉と酒が多く振舞われた。
 竜肉は絶品であると今更語る事でもないだろうが、それに酒が加われば最早無敵だ。
 美味いものはより美味く食べたい、という事で大盤振る舞いした訳である。

 それに元々俺達【鬼】という種族は酒に強く、好いている。あれば水のように飲む者も多いだろう。
 しかしながら粗悪品だったりアルコール度数が弱いモノでは、ある一定以上の段階を過ぎた者達は酔えなくなってしまう。
 酔う前に体内で分解されてしまうからだ。
 その筆頭が俺である。【吸喰能力アブソープション】もあるので、俺が一時的にとはいえ酔える酒など、本当にごく僅かしかない。

 そんな訳で、今回用意したのは基本的にアルコール度数がかなり高い酒ばかりであり、皆競い合うように飲んでいった。
 樽が出れば樽ごと飲んだ。ミノ吉くんなどはその代表だ。
 今回の宴会で消費した酒の総量は、軽く泳げる程度にはなっていたかもしれない。

 そんな量の酒だ。酔っぱらいが飲む時にこぼす事もあるだろうし、自然と発生する香りにはむせ返る程の酒精が宿っている。
 場所が場所だけに空気の流れはゆったりとしており、濃厚な匂いは宴会場である大ホールに充満しやすい状況が整っていた。
 酒の匂いが、まるで身体に染み込んでくるように感じられる。
 弱い者なら匂いだけで酔いそうなほど濃密であり、それは今も変わらない。どころか、まだまだ強くなりそうな気配すらあった。

 苦しそうにしているのはお転婆姫の他にも、限界を超えてまで飲んだ団員達や、≪ソルチュード≫のガキ大将など年長組も居た。
 年少組は眠気もあってさっさと部屋に戻って難を逃れたらしいが、大人になりたい盛りのガキ大将達は酒を飲まなくてもここにいた結果、逃げ遅れたようだ。
 大人の団員達に囲まれているからもしかしたら飲まされた可能性もあるが、一応王国の法律では問題にならない年齢らしいので、追求はしないでおこう。

 まあ、どちらにしろ。
 要するにお転婆姫達は、酔っているので気分が優れないのだ。

 やれやれと思いつつ、寝ゲロ対策として横向きに寝かせていた子供達の口元から出てきてしまった吐瀉物を、とりあえず見えた分全てを【森羅万象】を使い、処分していく。
 吐瀉物の固形物と液体を操作して球体にし、重力で可能な限り圧縮。凝固して石のように硬くなった後はゴミ箱にポイ、である。非常にお手軽で、手も汚れない。そして染み込んだモノまでとれるので掃除の手間が大幅に省けた事になる。
 強力無比な【森羅万象】をこんな事に使うのは正直どうかと思うが、手っ取り早いので仕方ない。
 便利すぎるというのも、考えものである。

 そんなお転婆姫達とは違って酔っているが寝ゲロはしていない、別のソファで眠る第一王妃や闇勇一行に関しては、あえて何も見ていない事にする。
 口から涎を垂らし、寝にくいのか服の胸元を緩めている、なんて事はまだいい。
 誰だってだらし無い部分はあるものだし、ましてや最も無防備になる寝姿なればそれも仕方ない。

 しかし俺が使った覚えのあるフォークやナイフなどをまるで宝物のように胸に抱き、ちょっとした汚れを拭いた布を鼻や口元に添え、恍惚の表情を浮かべながらエヘエヘとだらし無い寝顔をしているのは、直視し難い。
 まるで危険な魔法薬を使用したような状態だ。
 トリップしてやがる。遅すぎたんだ。
 普段は気品ある王妃としての貫禄や、影があるが王国の顔とも言える立派な【勇者】の姿とはかけ離れたその様は、寝ゲロしてしまったお転婆姫以上に救いが無い。
 それは周囲のメイド達も同様だ。こんな時こそ仕事しろよと言いたいが、主だけでなくその従者達も似たような状態となっていた。
 だから、俺は何も見ていない。
 触れるな危険だ。あれは、精神的に致命的なダメージを負いかねないッ。

 それ以外の団員の大半は、床で寝ていたりテーブルに突っ伏していたりする。
 人数で言えば、七対三くらいでテーブルよりは床で寝ている者の方が多いようだ。
 大ホールの床には高級カーペットが敷かれているので、恐らく下手な寝具よりも寝心地が良かったのだろう。

 そのカーペットは酒やら料理やら涎やら汗やらで汚れてしまった訳だが、掃除が大変そうだ。
 汚した奴らには責任をとって、頑張って洗濯してもらうしかあるまい。

 まあ、そんなこんなで、色々あった宴会は、太陽が昇った事で終わりを告げた。

 宴会が終われば、まだ起きていた者達で大雑把に片付けていく。
 積み上げられていた空樽や酒瓶をアイテムボックスに放り込むだけなので手間はかからない。
 テーブルなどは普段片付けているので動かさなければならないのだが、テーブルはそれなりの重量があるので、寝ている者達を蹴り起こして手伝わせた。
 幸せそうに寝るのはいいが、手間のかかるところの後始末くらいはやらせるべきだろう。
 だからゲシゲシと蹴り起こす。というか蹴り飛ばして、【森羅万象】で顔面に水球を浴びせつつ空中に固定するくらいが丁度いい。
 蹴られた衝撃と顔面に浴びせられた冷水で、皆眠気は一瞬で吹き飛んでいる。
 起こし方が多少乱暴かもしれないが、これくらいは普段の訓練と比べて優しいものだ。

 ただし寝ている中には住み込みの執事やメイドさんも混じっていたので、その場合は優しく起こしている。
 執事やメイドさん達は給仕などをしてもらっていたのだが、どうやら酔っ払いによって強制的に飲まされたらしく、酔って寝てしまったようだ。
 流石に【人間】ばかりなので、今回の酒は強すぎたらしい。
 誰も急性アルコール中毒にはなっていないようなので、良かったと思うべきだろうか。

 起こした団員の労働力と、執事とメイドさん達プロの仕事もあって、片付けは思ったよりも短時間で終了した。
 こうした時の為にプロを雇っておいて良かったと心底思いつつ、大森林に帰る身支度をする前に、お転婆姫と少年騎士、第一王妃と闇勇一行を王城に送っていく。
 一応昨夜のうちに使者を出しているので騒ぎにはなっていないが、さっさと送っておくべきだろう。

 酔って弱ったお転婆姫と少年騎士、何処かツヤツヤとした第一王妃と闇勇一行、と落差はあるが、そんなメンバーに料理の残りを詰めた弁当箱をお土産に渡しつつ、豪華仕様の骸骨蜘蛛に乗せ、見送った。
 残り物を王族に渡すのはどうかと思うが、しかし竜肉で造られたものばかりだ。
 冷めても美味しいし、僅かな切れ端でも欲しい者からすれば喉から手が出るほど欲しい代物だ。
 それをそこまで多くはないとは言え、個人個人に送ったのだから問題にされても困るし、失礼にはならないはずである。
 むしろ、私も欲しいなどと面倒な貴族がやって来る可能性の方が高そうだが、その場合はお転婆姫や第一王妃がどうにかやってくれるだろう、と期待することにした。
 あまりに執拗だったら何処かに消えてもらう事になるかもしれないが、まあ、そういう場合もあるだけで、そうならない方がいいだろう。
 コチラというよりも、アチラの為に。

 面倒事を片付けた後は、大森林に帰るための支度を進めた。
 普段なら朝の訓練があるのだが、流石に二日酔いの者が多いので今日はお休みにし、帰郷組は個人の持って帰る荷物を纏めていく。
 午後三時過ぎくらいに王都を出立するので、お土産を買うために外に出る者も多い。

 最初は王都本店に残しておこうと思った女武者も今回は連れて行く事にしたので、女武者も慌てて用意に奔走していた。

 俺は俺で手早く支度を済ませた後は、【上位鬼種生成】を使って店舗で足りなくなる人材を補填した。
 生成したのは“大商鬼マーチャントロード”といい、商売が得意な鬼人である。
 鬼神になって条件が開放されたのか、最近になって【上位鬼種生成】の生成リストに追加されていた。そして【上位鬼種生成】による生成個体だけあって、高い知能を持つ優秀な人材ならぬ鬼材だ。
 最近では事業拡大に優秀な人材が欲しいと思っていたので、コイツの追加は非常にありがたい。

 とりあえず試験的に、一鬼に王都本店を任せてみる事にした。
 それでよかったら、他の支店長として送り込み、団員達に従業員をやらせれば安泰だ。
 総合商会≪戦に備えよパラベラム≫は、着々とその勢力を伸ばしていくのである。

 など高笑いしつつあれこれ雑務をこなしていると時は過ぎ、約束の時間になった。

 用意が出来たので、俺達は数体の骸骨百足か骸骨蜘蛛に分乗し、故郷である大森林に向けて出発する。

 ただし貴族街と城下街の境に存在する屋敷兼店舗から王都の外へ出るには、相応の距離を移動しなければならない。
 なのでズラズラと列を成して進むついでに、色々と宣伝して行く事にした。
 一斉に動き出す早朝や、飯を食べたり一休みする昼ほど密集はしていないが、この時間帯は家の外で活動している者は多い。
 移動しつつ宣伝するには、もってこいの環境が整っていた。

 昼過ぎに、王都で突如として鳴り響く音楽。陽気でノリのいい、どこかワクワクさせる音調だ。
 何だなんだと顔を覗かせれば、団員達による様々な【魔法】によって作り出される雷鳥の群れ、炎獅子の雄叫び、水魚の群体などが周囲を華々しく演出する。
 集まってきた住民達はやや離れた場所でそれを傍観していると、近くまで来ていた団員達によって、店の商品でもある各種マジックアイテムによるデモンストレーションが繰り広げられる。
 突如として出現した非日常に、困惑しつつも楽しむ王都民。
 宣伝の掴みとしてはどうやら無事に成功したらしい、と【森羅万象】によって生み出した光龍と闇龍を上空に浮かべながら、俺は骸骨百足内で満足していた。

 今回の宣伝は、一種の移動サーカスとか、テーマパークのパレードを思い浮かべてもらえればいいだろうか。
 この世界ではあまり見かけない手法なので、注目度は予想以上に高かった。

 中でも最も注目を浴びたのは、ミノ吉くんとクマ次郎、クロ三郎による共演だった。
 何をしたのかというと、お手玉だ。もちろん普通のお手玉ではない。
 ミノ吉くんが、クマ次郎とクロ三郎をその巨大な腕でヒョイ、と軽そうに持ち上げてみせたのである。
 クマ次郎単体で数トンから十数トンはあるはずなのだが、ミノ吉くんの桁違いの膂力はもう片方の手にクロ三郎を乗せても、小動もしない。
 手乗りパンダ、手乗り狼と化した二頭はボールのようにクルリと丸まり、大人しくクルクルとお手玉されている。
 巨大な物体が軽やかに舞う光景は凄まじい威圧感を伴うのだが、しかし何かが振り切れて、むしろ愛嬌さえ感じられた。
 アチコチから歓声が上がり、大量の貨幣が回収役に投げ込まれていく。
 商品の宣伝をしつつ、それなりに金を稼ぐ。ついでにコチラの戦力も示せるので、馬鹿な気を起こす者は根絶される。
 他にも色々と狙いはあり、まさに一石で何鳥にもなった。
 また機会があればやってもいいかもしれないな。

 あと、当然だがこれはお転婆姫や第一王妃にお願いして、事前に許可を取っている。
 流石にこれを無許可でやれば、市場を混乱させたとか何とかイチャモンつけられるだろう事は想像に難くない。
 強引に押し通る事はできるが、そうすれば無用な諍いが生まれるので、面倒事は事前に取り除いておいた方が無難だ。
 わざわざ敵を作る必要は無いだろう。

 しばらくして到着した門では軽く検問されたが【王認手形】もあって短時間で終わり、王都の外に出た。
 この時外で待っていたミノ吉くんのペットであるクマ吉も回収して、ミノ吉くんは三頭でのジャグリングを披露してくれた。
 その姿は、圧巻としか言えなかった。

 全員が外に出るまではそうして時間を潰し、揃ったら街道上を列を成して進んでいく。
 馬が走るよりも遥かに速く、しかも一定間隔をキープした状態で進んでいく俺達はきっと不気味に違いない。
 まあ、奇異の目で見られても今更なので、予定通りに王都から最短距離にある迷宮都市≪パーガトリ≫に向かった。
 短時間で到着した≪パーガトリ≫だが、中には入らず、事前に外で待機していた団員達を拾う。

 拾う団員達は支店を任せている者の中でも地位が高く、それでいて事業に支障が無いように考慮して選んだので数は少ない。
 だから回収は数分と経たずに終わり、すぐに≪パーガトリ≫からしばらく離れた場所にある、小山が無数にある人気の乏しい森に向かった。

 しばらく走り、予定の位置に到着すると、周囲に誰も居ない事をクギ芽ちゃんに確認してもらう。
 俺すら越えた広範囲の知覚能力が周囲を精密検査し、数秒で結果が出た。
 居ないと確認がとれたので、タツ四郎を呼ぶ。既に近くにまで来ていたので、数分と経たずにその巨躯が舞い降りる。
 その際バキバキと邪魔な樹木がへし折れてしまうが、仕方ない。
 後で【森羅万象】による自然回復をしようと思いつつ、じゃれてくるタツ四郎を可愛がる。
 グワシグワシと竜鱗を削るように撫でながら、俺は骸骨百足の形状を変化させてタツ四郎の背面に固定していった。
 竜翼の邪魔にならないようになど細かい部分も工夫しているので、飛行するのに問題は無い。
 これで快適な空の旅を大人数が安全に楽しむ事が出来るわけだ。

 とはいえ、数が多いのでタツ四郎一匹では一度に大森林まで運ぶ事は流石に不可能だ。
 大きなミノ吉くん達に加え、ペットのクマ次郎やクロ三郎やクマ吉なども加わるからだ。クロ三郎はともかく、巨大パンダと化したクマ次郎は重量もバカにならない。それは“鋼鎧大熊アーマービッグベア”であるクマ吉も同様だ。
 流石に重量過多になって墜落、なんてオチはごめん被る。
 俺などは空を飛べるので落ちても被害は最低限に抑えられるが、それはあまりにも間抜けだろう。 

 なので、骸骨蜘蛛に乗っている団員達には、俺が【真竜精製】によって精製した精製竜を使う。
 一度に運べる重量はタツ四郎には到底及ばないが、俺の影響か黒竜となった精製竜達の性能は高い。それに数も用意できるので、数分と経たず、俺達は森の中から空に向かって飛翔した。

 その際初めての空に団員のほぼ全員が驚愕し、すぐに順応して空の旅を楽しみ始めた。
 俺やカナ美ちゃんなど自力で飛行できる能力を持つ者も居るが、大半は飛ぶ事が出来ない。
 タツ四郎や精製黒竜に乗ってではあるが、初めての体験に歓声もあれば、悲鳴もある。初体験など、そんなものだろう。

 俺は皆の様々な反応を楽しみつつ、骸骨百足の内部に置かれた荷物の中に、いつの間にか増えていた――という事にしている――見慣れない二つの樽の前にやってきた。

 コンコン、と軽くノックする。
 カタ、と僅かに揺れた。
 そして溜息を一つ。はあ。

 空から捨てる訳にもいかないので、とりあえず樽に小さい穴を開け、そこに突っ込んだ指先から【蛇毒投与ヴェノム】による睡眠毒を垂らし、【森羅万象】で気化させる。
 中に居た者達は、樽内に充満する睡眠ガスによってグッスリと熟睡したのだった。
 全く仕方がないなと思いつつ、これもいい機会か、と思う事にした。

 そうこうして、楽しくて怖い空の旅もアッという間に終わり、俺達は夕方には大森林へと帰還したのだった。


 “二百六十二日目”
 この世界の温泉とは何か。
 それは魂の洗濯場だ、と俺は思う。

 汗と涙と汚泥に塗れ、精根尽き果てた身体でも暖かく包み込み、凝り固まった芯から優しくほぐしてくれる天上世界。
 酷使し過ぎた四肢からは無駄な力が抜け、蓄積した土層のような疲労が次第に溶け出す極楽浄土。
 それがこの世界の温泉である。
 ましてやそれが人工的に造られたモノではなく、正真正銘の天然モノとなれば、一度体験すれば決して忘れられなくなるに違いない。

 なにせこの世界の温泉には前世の時には無かった、魔力などによって発生する不思議な効能が多種多様に存在している。
 その効果は目には見えないが確実に効いているモノから、目に見えて理解できるものまで幅広い。

 そんな温泉の中でも拠点の温泉は他よりも一段秀でており、大怪我を負った者でも浸かれば瞬く間に癒え、死病や難病を患った者でも継続的に浸かる事で快方に向かう。
 荒野のように荒れた肌も赤子のような柔肌になるし、温泉の湯を飲めば体内から健康体へと作り変えられる。
 これ等は温泉の湯に溶け込んでいる星の力によって無数の目に見えないような精霊達の働きが活発になり、触れたものの生命力を強化し活性化させる、などの恩恵に他ならない。

 そんな拠点の温泉の湯は、店舗の目玉商品の一つだ。
 小奇麗な小瓶に入れて輸出した湯は、人気過ぎて入荷した直後に飛ぶように売れていく。
 主な客層は王侯貴族の婦人や令嬢だから高額設定でも売れる為、俺達に莫大な利益をもたらしている。

 だからまあ、何が言いたいかというと、拠点の中でも山頂に近い部分を開拓し、新しく造られた天然温泉――【鬼神の湯】は、壮大な景色と極上の温泉というコンボによって、入った者を癒してくれる、最高の場所である、という事だ。
 一度入れば、魂魄が身体から抜け出してしまいそうな程の快楽が約束されていた。

 気持ちよすぎて危うく天に召されそうになりながら、朝から温泉を堪能してサッパリとした俺は、自分の仕事に取り掛かる。
 久しぶりに大森林の拠点に戻ってきて、やる事は山積みだ。

 鍛冶師さんのところで鍛え直されて最早別物と化した新生ハルバードを受け取ったり、錬金術師さんと共に新しい素材を使った新薬の開発を行ったり、姉妹さん達と共に料理したり、女騎士や女武者や剣闘王などと軽く――このレベルの相手なら手加減すれば事故で殺す心配をしなくていいので気が楽だ――訓練を行ったりした。
 その他にもブラックスケルトンなどを使用した【蠱毒】の様子を覗いたり、産めよ増やせよで大幅に増えた小鬼ゴブリン中鬼ホブゴブリン大鬼オーガ半鬼人ハーフ・ロードなどの訓練がどれくらい進んでいるかの確認など、まさに色々だ。

 休暇としての帰郷ではあったが、本格的な休みはもう少し先になりそうだ。
 分体を使って外部だけでなく内部の情報も収集して大半の事は知っているが、頂点に立つ者として、勢力の詳細な情報の把握・確認だけでなく、周囲に示すカリスマや圧倒的実力などを配下に見せつける事が必要なのだから、こうして働くのも仕方あるまい。

 また、以前から思い描いていた姉妹さん達が調理した竜肉料理をメインとした宴会をする予定だが、各地に散った団員達の中で、今回帰郷するグループが全部揃っていない。
 なので、もう少し御預けという事になっている。

 だから今は姉妹さん達と共に、竜肉はどう調理すれば最適なのか、それを編み出すために試行錯誤している。
 早く、最高の竜肉料理を食べたいものである。


 “二百六十三日目”
 目が覚めると汗やら何やらと液体に濡れ、肌がベタついていた。
 これは久しぶりに鍛冶師さん達と再会し、昨夜は盛り上がって色々と頑張ったせいだ。

 匂いを漂わせたまま朝の訓練をするのはどうかと思い、始まる前に【鬼神の湯】に入る事にしたのだが、その時に何を思ったのか俺は【炎熱吸収】を使ってみた。

 するとどうだろうか。温泉の熱を吸収するついでに、湯に溶け込んだ様々な力まで俺の中に入ってきたのだ。
 その時の多幸感といったら、未体験の領域である。
 もう、ふぅあああ~、となる。言葉では表現できないほど、俺の脳内は幸せ、という感情で支配されていた。
 まるで湯に溶けて、俺という存在が消えてしまいそうだった。

 恐らく今までで一番危険な状態なのだが、自分ではこの状況から抜け出せそうにない。

 ただただ恍惚の表情で漂っていると、その状態を不審に思ったのか、後から入ってきたミノ吉くんが声をかけてくれた。
 それでも反応がなかったからか、片手で俺を湯から引き上げてくれた。
 それによって俺の意識が身体に引き戻される。気がついた瞬間、慌てて【炎熱吸収】の発動を止めた。
 危なかった、本当に危なかった。
 幸せで死ねる、そう本気で思うほどにヤバかった。
 これからは気をつけようと、俺は静かに誓ったのだった。

 早朝にちょっとした危機――かなり間抜けなので、俺とミノ吉くんだけが知る秘密となった――に瀕し、それを乗り越えて、昼頃。
 なんやかんやと昨日は忙しかったのでカナ美ちゃん達にお守りを任せていたが、これから俺は今回の帰郷において【招かれざる客人】とも言うべき者達に対応しなければならない。

 【招かれざる客人】とは、お転婆姫と少年騎士の事である。

 ほら、あのいつの間にか追加されていた、二つの樽だ。
 睡眠毒を気化させて眠らせた中身が、この二人だったのである。

 話を聞けば、『オバ朗達の故郷、是非行ってみたいと思っての。じゃが、本拠地ゆえ簡単に連れて行ってはくれんと判断した。ならばどうするか、紛れ込むしかないのではないか!? という結論に至った訳である。忍び込めた時までは良かったが、まさか強制的に眠らされるとは夢にも思わんぞッ! 竜に乗っての空の旅、心の底から堪能したかったと思うぞッ!』という事らしい。
 頬を膨らませてあからさまに不満ですという表情を浮かべ、バンバンと両手で机を叩くような動き付きで抗議された。

 全体的な流れとしては、骸骨蜘蛛で王城に送られた後は密かに屋敷に戻り、俺達が準備中のところに上手く紛れた、という事になる。
 冷や汗を流し、頭を抱えている少年騎士を見ていると、お転婆姫を説得しようとした少年騎士の無駄な努力が目に浮かぶ。

 まったく、お転婆過ぎるのも困りものだとは思いつつ、仕方ないな、と思ってしまう俺がいた。やはりお転婆姫は姪っ子とか、そんな感覚がしてならない。
 ついつい甘やかしてしまう。あまり知られたくはない拠点の位置を知られても、軽く怒る程度にとどまっている。
 だが後悔はしていない、ただ反省はしている。

 もちろん甘やかしてしまうとはいえ、絶対に譲れない一線を越えてしまえば、それがお転婆姫とて相応しい対応をしなければならない。
 そうなれば、俺は多分迷わないだろう。敵となった者に情け容赦は必要無い。
 ただ始末が終わった後で、感傷には浸るだろう。それくらいには、思い入れがある。

 まあ、お転婆姫が俺達を裏切り、敵になるなんて事は今更無いと確信しているので、これは無駄な考えだろう。

 もちろん、王国の王族というお転婆姫の立場も理解しているし、聖王国を基点とした現在の大きな流れも分体によって逐次把握している。

 聖王国を中心に着々と準備している決戦――俺という【世界の宿敵ワールドエネミー飽く無き暴食ザ・グラトニー】を討伐する事は、ある種の【聖戦】のようなモノだ。

 【聖戦】という大義名分があるのだから、それを邪魔する者はすなわち【世界の敵】の協力者という事なので【聖戦】の殲滅対象となる。
 そうなれば聖王国は容赦しないだろう。
 大地を舐め尽くすように聖王国は王国を侵略し、これまでそうしてきたように、その全てを取り込んでしまう筈だ。

 聖王国は王国よりも遥かに強大だ。
 抗おうにも【英勇】の数や国力からして非常に大きな隔たりがあり、仮に同盟国である帝国と協力したとしても、最終的には王国と帝国は共に敗れる可能性が非常に高い。
 聖王国と敵対している魔帝国や獣王国の横槍が入るだろうから滅びるまではいかないかもしれないが、相応の打撃を受けるのは確実だ。

 だから王国は聖王国の要請を、無下には出来ない。
 そもそも内乱の傷が癒えていない現状では、選択肢などあってないようなものだ。

 そこで、仮にだが、お転婆姫が【聖戦】の標的となっている俺と縁がある事を手土産にすれば、相応の国益となるだろう。
 情報は時に黄金の山よりも価値があるのだから、国力回復を第一にする事を考えるならば俺を裏切り、利益を獲得する事も、考えられなくはない。
 もし俺が普通の、ちょっと強いだけのモンスターなら、お転婆姫はもしかしたら裏切る選択をしたかもしれない。

 だが色々と俺を、俺達を見てきたお転婆姫がそんな選択肢を選ぶ事は最早ありえない、という確信がある。
 子供とはいえ他人の心を聴き続けたお転婆姫の精神年齢は高く、お転婆姫自身が集めた情報は膨大だ。腕利きの隠密ですら足元にも及ばないような部分まで、実感は無くても精通している事がある。
 だから俺達を裏切ればどうなるか、それをお転婆姫は既に知っている。
 よっぽどの愚者でもない限り、わざわざ裏切るという選択肢は最初から選ばない。

 今回荷物に紛れ込んで俺達と共に来たのは、裏切る前の情報収集としてではなく、何処にあるかも分からない他国の諜報員の耳を確実に排除し、俺達の戦力を自分自身の目で確認して何が王国の最善かを確信する為、という事が考えられる。
 まあ、単純に興味があったから、という理由も多分にあるだろうが。

 一体何を言うつもりなのか少し楽しみにしつつ、俺はお転婆姫を肩車し、甘えたい盛りのオプシーと、まだ赤子であるニコラ――錬金術師さんとの子で唯一の【人間】で、次女である――を腕で抱いたまま、案内するため拠点を一周する事にした。

 現在の拠点は、以前とは比べモノにならないほどに拡張している。

 休息不要の労働力である陽光対策を施されたブラックアンデッド達が既に数千体も存在し、手先の器用な種族も沢山集まっているのだ。
 数ヶ月の間しか離れていなかったが、過剰とも言える労働力を最大限活用した結果、拠点がある山一つを丸々開拓し、更に少し離れた場所にある鉱山まで手を出すまでに発展していた。

 大雑把な説明になるが、以前の拠点には居住区となる≪元採掘所≫を筆頭に、大規模な実戦訓練が可能な≪外部訓練場≫、ドリアーヌさんや農業小人ポレヴィーク達が管理している≪農地≫、狼や馬などの騎獣や家畜とした食用モンスターや≪使い魔≫などを放し飼いにしている≪牧場≫、様々な道具や武具が作り出されている≪工房≫、セイ治くんの部隊員が常に控えた≪治療院≫、そしてエルフ達を呼び込む為の≪温泉施設≫こと≪パラベラ温泉郷≫があった。

 これ等はそれぞれ度重なる改善・改良によってより使い勝手が良くなっていたり規模が拡大した事により、≪農地≫から≪大農地≫と修正した方がいいような状態に成っていたりするのだが、今は新しく追加された幾つかの施設について触れようと思う。

 まず、邪魔な樹木を伐採し、大地操作関係の能力が充実している半地雷鬼ハーフ・アースロードなどによって崩れないよう整地された、比較的平らになった山頂は≪飛行場≫になっている。
 ここではテイムし≪使い魔≫となった“四翼大鷲ファレーズエーグル”や精製竜などの飛行型モンスター達による、大森林産の素材や商品の輸出、食品や雑貨など大森林では手に入り難い品の輸入が日々行われている。
 渋滞せず離着陸がし易いように大部分は開けた空間になっているが、商品を一時的に保管しておく倉庫や、モンスターや団員の休憩所が存在するなど、作業の負担を軽減する様々な工夫が随所に散りばめられている。
 そしてその最たるものが、地面に蜘蛛の巣のように張り巡らされたレールだろう。
 レールの上を走るのは耐陽光加工したブラックスケルトン達を改造して出来た骸骨トロッコだ。原材料がブラックスケルトンなので拡張性や量産性に優れているだけでなく、指示すれば自動で動き、指定した場所まで確実に走るので非常に便利である。
 大型の骸骨トロッコなら一度に数十トン単位でも運搬できるので、これが無ければもう少し運搬は大変だったに違いない。

 ちなみにこのレールは、ドワーフ達が元々持っていた技術によって造られた。

 元々ドワーフ達は鍛冶の材料を得るため、鉱山で鉱物を採掘する事が生活の一部になっている。
 氏族によっては洞窟内に住居を持つ場合も多々あるため、採掘する人材や邪魔な土砂などを運ぶ手段が必要になった。
 そこで試行錯誤が行われ、開発されたのがレールとトロッコである。
 レールとトロッコが造られてからの歴史はそれなりに長く、その利便性から今では鉱山などには当然のように存在している。
 拠点が拡張されていくにつれ便利な移動手段、あるいは運搬手段が欲しいと思っていたのだが、都合がいい事に団員のドワーフ達がレールやトロッコの整備手順や製造方法を熟知していたので採用した。
 ドワーフだからといって全員が全員レールやトロッコの十分な知識がある訳ではないので、それを熟知したドワーフを確保できていたのは、【幸運ラック】が働いたからだと思ってもいいのではないだろうか。
 などと事情はあるものの、ドワーフ達にブラックスケルトンといった労働力を提供し、仕事の合間合間にちょちょいと造って貰ったという訳だ。
 今では主要施設全てにレールが繋がっているので、商品運搬や移動などの際、非常に便利な足となっている。

 他種族を招き入れれば、こういう恩恵もある、という一例だろう。

 次に、店で売られる商品を造っている≪工場≫という施設がある。
 ここでは功績が認められ、拠点に外の家族を連れてくる事が許可された団員の身内が働いていたり、四肢欠損などによって前線での活躍ができなくなった団員、そしてブラックスケルトン達が働いている。
 大量生産に向いているライン生産方式を採用していて、基本的にはブラックスケルトン達によって商品が造られ、その監視と商品チェックをするのが団員やその身内だ。
 製造できる者が限られている魔法薬などは微妙に事情が違っているが、それはともかく。
 詳細に命令する事で産業機械並みのパフォーマンスを発揮するブラックスケルトン達によって大量生産された商品は安価でいて質が良いとして評判となり、安定して売れる立派な財源となっていた。
 人件費など必要としないブラックスケルトンは、戦闘よりもコチラ方面に適性があるのではないだろうか、と思う今日この頃。

 ちなみに、大量生産品を造っているのが≪工場≫で、限定生産品を造っているのが≪工房≫と覚えてくれればいいだろう。

 それから、山の斜面には多くなってしまった団員達が住まう家、≪住宅地≫がある。
 元々居住区として活用していた≪元採掘所≫には今も多くの者が暮らしているが、何だかんだあって団員数が数千にまで膨らんだ現在、≪住宅地≫は必要になった訳である。
 ≪住宅地≫には様々な種族が混在しているからか、建材が木材や煉瓦や岩石や厚布など多様で統一されていないだけでなく、王国式、帝国式、魔帝国式、獣王国式など各国の特徴が見受けられる家屋が混在していた。
 そして例え様式が同じだとしても、家の大きさは暮らしている者によってバラバラだ。
 牛頭鬼ミノタウロスなど比較的大きな者達の家は当然のように巨大であり、二足歩行する猫のケット・シー達の家は全体的に小さい、といった具合である。
 色々と混沌としているが、区画整理はしているので≪住宅地≫の雰囲気は自然と調和した結果、異世界情緒溢れる街並みとなっていた。
 傑作を生み出した職人のような感慨さえ抱きそうな、とても絵になる風景である。 

 とまあ、大きなモノでは、こんなものだろう。
 拠点がある山の周囲一帯には外部の驚異を完全に阻む巨大で堅牢で重厚な、岩石や魔法金属で構成された何重にも連なる外壁が新しく出来ていたりするが、これまでにもあった外壁の拡張版みたいなものなので、省略とする。

 あと最低限の食品は支給しているが、嗜好品などの物資を欲する者向けに、様々な訓練も兼ねた≪商店街≫などもあるが、これも余談なので詳細は省略だ。

 そんな感じで、ちょっとした都市となった拠点を歩く。
 実際に見て回ると、やはり感慨深い。
 というかたった数ヶ月でこんなにも発展するとか、正直、当初の俺は思ってもみなかった。

 普通なら絶対にありえない発展ぶりなのだから、そう思ってしまっても仕方ないだろう。
 しかしそこはほら、様々な種族が集まり、それぞれが特性を活かし、優秀な人材を適材適所で最大限活用し、更に俺という能力増幅装置によって飛躍的に能力が向上した結果がこれである。
 ブラックスケルトンなどという休憩不要な反則級労働力を使用した人材戦略によって、拠点は城塞都市へと変貌したのだった。

 言葉にすれば簡単だが、現実だと、何だか理不尽極まりないのは、きっと気のせいではないだろう。

 まあ、いい。
 思いっきりはしゃいでいるお転婆姫と、可愛い子供達の為に一日を費やした。
 これはこれで、悪くない一日と言えるだろう。


 “二百六十四日目”
 外から帰ってくる予定になっている団員達が揃っていないので、宴会はまだお預けである。
 なので朝の訓練を終えた後は、まだ肝心の話を切り出せないまま、【招かれざる客人】から【招かれた客人】となったお転婆姫の世話などを仲がいいオーロ達に一任して、姉妹さん達と厨房に篭る。

 あーでもない、こーでもないと重なる議論。
 材料はまさに山ほどあるので試行錯誤を続け、どう調理すれば最高の竜肉を堪能できるのかを探求していた。
 しかしこれが中々に難しい。
 一番美味い竜肉の部位はどこか、どう調理すれば一番いいのか、足りない食材はなにか、必要な道具は何かなど調べる事、知るべき事、見つけるべき事が山積みだ。
 足りないものがあまりにも多すぎて、そうそう最適の調理法を編み出す事はできそうにない。

 だが俺達は、手持ちの中で最高の肉である竜肉をより美味しく喰べる為なら努力を惜しむつもりはない。

 喰べる事とは生きる事だ。
 生きる事とは喰べる事だ。
 絶対に必要な行為なのだから、どうせなら美味しく楽しく喰べたいに決まっている。

 という訳で、できる限りの努力を続けた。

 ただ姉妹さん達にかかりきりで、久しぶりに会った鍛冶師さんや錬金術師さん、女騎士やドリアーヌさん達を放置する訳にもいかない。
 休憩や合間合間に時間をつくり、皆のところに様子見に行った。

 まず、鍛冶師さんのところにむかった。
 そこでは魔法金属を多種多量に使ってハルバードを以前とは比べモノにならない段階にまで強化・改良した鍛冶師さんと、凄腕のドワーフ達が造る武具の数々を鑑定した。
 ひと目で以前とは比べモノにならない程上達したその腕前に驚愕しつつ、団員に配給している装備の更新具合、店舗で販売する武具の量産状況などを確認し、何か問題が無いか聞いてみる。
 すると魔法金属の類が少なくなっているという問題があったものの、それは現在纏まった量を補充したので解決済みだ。
 鍛冶師さんやドワーフ達にはこれまで通り、伸び伸びと槌を振るってもらうつもりである。

 それと、どうやら鍛冶師さんとの子である鬼若も鍛冶に興味があるようで、鍛冶師さんに教わりながらナイフを自作していた。
 初めてなので上手とは言えないが、それでも一応形になっているので褒めたのだが、鬼若からすれば納得がいかないらしく、恥ずかしそうにナイフを隠していた。
 それには鍛冶師さんと共に、思わず微笑んだ。

 次に錬金術師さんのところに出向く。
 錬金術師さんは≪工場≫にて、ブラックスケルトン達では製造できない魔法薬の調合を行っていた。
 調合に多用する溶液の量産や素材の加工といった、ある程度の知識があれば誰でも作れる部分は他の者に任せ、重要な部分を担当しているのである。
 商品の中では比較的安く、高性能な錬金術師さんの各種ポーションは人気が高い。流石に通常よりも効果が高い【神迷遺産アーティファクト】のポーションには劣るが、それでも売れ筋商品の一つになっている。
 俺が手伝える部分は手伝い、あとは見守った。
 錬金術師さんは真剣に魔法薬の微妙な変化を見極めているのだが、丹念に丹念に魔法薬を造る様子は、見ていて飽きない。
 働く女性は美しい、と言えばいいのだろうか。そんな感じである。

 次は訓練をしていた女騎士と赤髪ショートのところに出向いた。そして二人にペアを組ませ、俺と軽く訓練する事になった。
 【鬼乱十八戦将】となり【憐輝士れんきし】を得た女騎士は、同じく【鬼乱十八戦将】となり【赤餓狼あかがろう】を得た赤髪ショートと同様に、手加減すれば今の俺とも戦えるだけ強くなっている。

 身体能力の大幅上昇が特徴的な赤髪ショートの【赤餓狼】と違い、女騎士の【憐輝士】は対象の精神や肉体に作用する【憐輝】を操る能力を持っているようだ。
 【憐輝】とは触れた者の心身から活力を奪う、状態異常バッドステータス攻撃の一種だ。
 試しに浴びてみたが、浴びる時間が長ければ長いほどその効果は高まるようだ。
 徐々に戦意が削がれ、身体から力が抜けていくような感覚がした。見た目は高貴ささえ感じられる黄金に輝くオーラなので、こんなにも嫌らしい効果があるとは初見で見抜く事は困難だ。
 その見た目に欺され、敵はただ力を徐々に削ぎ落とされていくだろう。
 僅かな差が勝敗を左右する実戦では、この能力は非常に強力だ。
 今はまだ【憐輝】のコントロールに不慣れなようだが、それでも得物や身体に纏う事はできている。
 慣れれば【憐輝】を広範囲に撒き散らす事も可能になるだろう。
 敵だけでなく味方にまで作用するので使う時には注意が必要だが、そこにさえ注意していれば格上相手でも十分通用するに違いない。
 俺は対処法を持っているが、それが無ければ女騎士はかなり厄介な相手になるのではないだろうか。

 しばし続いた訓練だが、最後の方では赤髪ショートや女騎士達と同じく【鬼乱十八戦将】となり【忠犬侍ちゅうけんさむらい】を得た秋田犬や、【鬼熊王おにぐまおう】を得たクマ次郎、【黒狼帝こくろうてい】を得たクロ三郎も交えて訓練を行った。

 クマ次郎やクロ三郎と同じように、久しぶりに会った秋田犬は【武士コボルド】から【将軍コボルド】に【存在進化】していたりする。
 武士コボルドの時は東洋系の顔立ちの三十代後半男性に犬耳と尻尾を取り付けた獣人のような外見だった秋田犬も、将軍コボルドになった事で黒を基調とした朱色の和風全身鎧型生体防具と月形十字型生体槍で武装した巨躯のコボルドのような外見になっていた。
 面影を残しつつ凶悪な面構えとなった秋田犬は、下手な大鬼オーガよりも迫力があった。
 捕食者特有の鋭い眼光で獲物を見据え、鋭歯を剥いて地の底から響くような唸り声を上げればただそれだけで精神が弱い者の戦意を砕き、一定以下の実力しかない者の身体を竦ませてしまうだろう。
 そもそも人外の身体能力と野生の本能だけでなく、高い知性と卓越した戦闘技術、配下のコボルドを手足のように操る指揮能力まで兼ね揃えた将軍コボルドは、個体によっては鬼人ロード竜人ドラゴニュートすら容易に狩り殺す事がある。
 各国の記録に残っている中で最強の将軍コボルドは、数万のコボルド種を率いて小国を崩壊させ、当時の大国にすら甚大な被害を与えただけでなく、討伐に乗り出した【勇者】の右腕とその仲間を三人も道連れにして果てた、なんて逸話すらあるようだ。
 ダンジョンボスになる事もそれなりにあるらしいので、種族的な強さでは、現在のパラべラムでも結構上位に位置している。

 しかしそんな秋田犬は、俺の前ではパタパタと尻尾を振り、キラキラと目を輝かせていた。
 俺と同じかそれ以上の大きさだが、秋田犬には人懐っこい大きな犬のような愛嬌がある、といえばいいのか。
 仕草の一つ一つから、俺を慕ってくれている、というのがよくわかった。
 そこが何とも、可愛く思える。武士コボルドの時は微妙だったが、今は足軽コボルド時代に近い感情を抱く事が出来た。

 まるでペットのようにも感じられる秋田犬だが、【忠犬侍】には主君――この場合は俺である――に対する忠誠の度合いによって全能力の強化具合が大きく異なるという能力があるらしく、訓練前にこれまで尽力してくれた褒美として【遺物エンシェント】級の大太刀型マジックアイテム【月天闘狼】を与えた事によってか、今回の訓練では五名の中で最も手強かった。
 短時間であれば【英勇】にすら刃を届かす事ができるかもしれない。そう思ってしまうほど秋田犬の一撃は速く、重い。
 思わぬ秋田犬の成長に、これは迫る【聖戦】が楽しみだと笑みをこぼしてみる。

 訓練を終えた後は、ドリアーヌさんのところで癒された。
 今日も温泉に入りにやってきた父親エルフが俺の前にオイルマッサージを受けていたが、その恍惚とした表情ったらない。
 あの威厳たっぷりだった姿は幻だったのか、と思ってしまうほど骨抜きにされている。
 まあ、そこら辺はあまり深く突っ込まない方がいいだろう。
 誰にだって弱点の一つや二つ、あるものだ。

 一通り回った後はまた料理研究に没頭し、夜は天然温泉を堪能した。
 前回の情けない失敗は繰り返さないが、ただ確実に言える事がある。

 温泉は、最高だ。


 “二百六十五日目”
 今回帰還する予定になっている団員の大半が拠点に到着した。
 しかしまだ到着していない団員も居る。距離的な問題だとか、受けた依頼の都合など事情は様々だ。
 それぞれにイヤーカフスで連絡してみると、一番遅いグループでも数日後には到着するそうなので、まあ誤差の範囲内だろう。

 大体の予定が分かっていれば計画が立てやすいので、揃えばすぐにでも宴会を始められるように準備は進めていく。
 今回は参加人数の規模がこれまでとは桁違いだが、労働力には事欠かないので準備は滞りなく進んでいった。

 それと並行して、朝からある意味宴会以上に重要な案件を先に片付ける事にした。

 一言で言えば、喧嘩祭りトーナメントである。

 やはり力こそ全て、という考え方が残るパラべラムにおいて、それぞれの順列を決めるこれは欠かせない。
 今まではバラバラだったので部分的な入れ替えはあれど、全体的に行うのは中々できなかった。
 しかし今回の規模で集まる機会を逃す手はない、という事で≪外部訓練場≫にある闘技場にて開催してみた。
 今回も参加するのは戦闘要員だけで非戦闘員は参加しなかったが、以前よりも皆の実力が向上しているため、それなりに見応えのある娯楽になっていた。

 その結果。

 第一位、赤髪ショート。
 第二位、秋田犬。
 第三位、クマ次郎。
 第四位、クロ三郎。
 第五位、剣闘王。
 第六位、女武者。
 第七位、熱鬼くん。
 第八位、女騎士。
 第九位、オーロ。
 第十位、アルジェント。
 第十一位、クマ吉。
 第十二位、ラムラさん/雷竜人の一人。
 第十三位、イス・ハーさん/蟷螂型甲蟲人。
 第十四位、ボス猿。
 第十五位、リンボーさん/首なし騎士デュラハン
 第十六位、風鬼さん。
 ……etc.

 といった感じになった。
 組み合わせや戦闘スタイルの相性などによって結果は大きく変わっているが、まあ、それなりに順当な結果だ。
 今回は俺やミノ吉くん達【八陣ノ鬼将】など明らかに結果が分かっているメンバーは出ていないし、復讐者や鈍鉄騎士などはまだ帰ってきていないので、こういった結果になった。
 赤髪ショートが優勝するとは思わなかったが、実際に強くなっているので、そういう事もあるだろう。

 もちろん細々とした入れ替わりがあったが、なんにせよ、戦力の層が厚くなるのはいい事だ。
 参加した数が多かったので、喧嘩祭りは夜遅くまで続くのだった。


 “二百六十六日目”
 昨日は個人戦だったので、今日は指揮能力の向上の為、四人の部下を率いる五人長や、九人の部下を率いる十人長、四十九人の部下を率いる五十人長などによる団体戦を行った。

 最大で九十九の部下を指揮って行われたこれは、個人戦とはまた異なる迫力があり、見応え充分だ。

 今回使用する武器は全て大森林に生える樹木から造られた木製武器なのだが、素材が素材だけに下手な金属武器よりも頑丈である。
 イヤーカフスに嵌め込まれている分体が以前と異なり、鬼神分体に更新されているので即死攻撃や致命傷の類は自動的に防いでくれる事、そして僅かにでも息があればセイ治くん達が治してくれるとあって、かなりガチの戦いになった。
 五対五の最少人数による戦闘でも各グループのプライドがぶつかり合うのだから、その規模が大きくなればそのぶつかり合いが大きくなるのは当然ではあった。

 最終戦となる百対百戦では、数が最も多い小鬼ゴブリン中鬼ホブゴブリン達が激しく入り乱れ、屈強な大鬼オーガや外骨格に包まれた甲蟲人インセクトイド達が正面からぶつかり合い。
 ブラックウルフやトリプルホーンホース達に跨がったゴブリン・ライダーやホブゴブリン・ライダー達の機動力から繰り出されるエルフ仕込みの弓術は敵陣の弱点を正確に射貫き、重武装の人竜馬ドラゴタウロス半人馬ケンタウロスによる騎馬突撃は勢いのまま敵陣を掻き乱す。
 そして激しく衝突する前線に守られた後方から放たれる色とりどりの【魔法】は、空中に鮮やかな軌跡を残し、破壊と対消滅を繰り広げた。
 乱戦になって骨が折れるのは当たり前。歯が折れるのも当然で、強かな一撃で内臓が破裂したり、飛び散る礫や破片で運悪く目が潰れたり、無数の【魔法】の直撃を受けて吹き飛ばされ、圧倒的な体格差がある者に踏み潰される事も多々起こる。

 死者が出ても可笑しくない、というか普通なら何人も何十人も死んでいるような激しさだが、鬼神分体とセイ治くんを筆頭とした医療部隊の目覚しい活躍により、重軽傷者多数なれど死者は無し、という状況を維持できている。
 野蛮極まりないかもしれないが、武装などを除けば実戦と殆ど変わらない激しさで繰り広げられるこれは、五人長や十人長などに昨日昇進したばかりの者達にとって、対戦相手である同階級の先人が壁となって立ちはだかる最初の試練でもある。
 その地位を得るだけの実力は持っているので最初は不慣れだった指揮も実戦を通し、最後の方ではそれなりの形になっていた。

 だがやはりこれまで五人長や十人長だった者達の方に一日の長があったようだ。
 これ以上は【存在進化】できない限界点に到達してしまった個体が五人長や十人長には多いものの、経験によって磨かれた能力はレベルでは測れない。
 それを乗り越えてこそではあるが、まあ、新しく昇進した者達の成長に期待しよう。

 ちなみに、今回の訓練を見学していた父親エルフや娘エルフは結構引いていたし、お転婆姫や少年騎士も流石に絶句していた。
 少々衝撃が大きすぎたようだ。
 まあ、仕方ない。
 野蛮ではあるだろうが、こうした訓練は必要だ。


 “二百六十七日目”
 午前訓練前。
 まだ陽も昇らぬ早朝から、フラリと気ままに単鬼で大森林を散策した。

 何もしないと鬼神となった俺の気配を感じて周囲から虫すら逃走してしまうので、強すぎる気配を周囲に溶け込ませながら色々な場所を巡った。
 大森林全域は既に脳内地図に記録されているので、俺が狩りを行った場所などを巡るのは簡単だ。
 初めてホーンラビットを狩った場所や、ドリアーヌさんと出会った場所、娘エルフさんが拉致されかけて俺達が救出した場所など、至る所にある思い出を振り返りながら巡っていった。

 だがそれらを巡っていくと、どこか懐かしくもあり、また初めて来たような感じもあった。

 そう感じたのも、現在の大森林が急速に成長しているからだろう。

 俺達の温泉から溢れ出る自然魔力マナや精霊の力や星の力によって、大森林は日々急速に成長している。
 その影響か、以前はいなかった種族や、以前から居た種族の上位種などが増え始めていた。
 量だけでなく質も向上しているので、以前と比べれば大森林の難易度が高まっているのは間違いない。

 だが以前よりも上質な素材が数多く得られたり、ここに居ると環境が良いからかレベルが上がりやすいなどといった事を考えれば、悪い事ばかりではない。
 それに難易度が高まれば拠点が発見される可能性も下がるので、偵察に来た冒険者などに注意しておけば、そこまで気にしなくていいだろう。

 所々地形すら変わっている大森林をしばらく散策していると、ふと気になって俺達が生まれたあの洞窟に立ち寄ってみる。

 ゆっくりと音もなく近づいていくと、途中で足を止めた。視線の先には洞窟で生活している、ゴブリンと大差ないほど小柄なオーク達の姿があったからだ。
 どうやら俺達が拠点に移動して使う者が居なくなった洞窟をオーク達が有効活用しているらしい。

 しばらく観察していると、どうやら大森林の外からやってきた氏族らしい事が分かった。言語にこの辺りでは聞き慣れない方言が混じっていたからだ。
 そして小柄なオーク達はオーク種としてはかなり温厚な性格であり、かつ器用でその頭も良いらしい。

 普通のオークなら血の滴る生肉を貪り食うだろう食事も、小柄なオーク達は熟れた果実を美味しそうに食べ、山菜と肉をボロボロの鍋に入れて火にかけている。
 どんな味かまでは分からないが匂いは良いし、美味そうに食べているので、少なくとも小柄なオーク的には美味いようだ。
 火を使った料理だけでも驚愕すべき事だが、その他にも器用に布や蔦でモンスター素材を編み込んで靴や防具を造り、狩りや自衛に使うのだろう武器も木の棍棒に“鋼鉄茨”を巻きつける、長い木の棒に錆びたナイフを固定しただけの簡易槍に激痛と麻痺を引き起こす毒草の汁を塗布する、といった工夫が施されている。
 観察した限り、率いるリーダーはどうやらメイジ種のようだが、少し普通ではない。
 もしかしたら【亜種】の可能性もあるのではないだろうか。

 鬼神になってしまったからか、今更オーク【亜種】程度では食指は動かないが、しかしこれはこれで面白い発見だった。
 とりあえず今後どうなるかは不明だが、監視くらいは置いておこう。
 それと生まれたてのホブゴブリンなども派遣し、交流してみるのも面白いかもしれない。
 もしかしたらエルフ以外に交流のある隣人になるかもしれない、大森林の新しい住人達を見守る事にした。

 その後は拠点に戻り、あれやこれやして夜にはベッドに潜る。


 [英勇詩篇[輝き導く戦勇の背]の≪副要人物サブキャスト≫である称号【守護騎兵】【簒奪者】保因者が≪詩篇覚醒者/主要人物メインキャスト≫である復讐者シグルド・エイス・スヴェンと出会いました]
 [夜天童子の【運命略奪フェイト・プランダー】が発動しました]
 [これにより、【守護騎兵】【簒奪者】の運命は夜天童子の支配下に置かれます]
 [現時点で【守護騎兵】は未覚醒状態にある事が確認されました]
 [現時点で【簒奪者】は未覚醒状態にある事が確認されました]
 [両者を覚醒させる決定権は夜天童子に有ります。
  今すぐ覚醒させますか?
 ≪YES≫≪NO≫]



 えー、と?
 とりあえず、≪NO≫を選択して寝た。


 “二百六十八日目”
 普段通りに午前訓練が終わり、姉妹さん達によって造られた活力の漲る昼飯を喰べ終えた頃。
 今回帰還する予定だったメンバーが全員拠点に到着した。
 最後に到着したのは復讐者や鈍鉄騎士、スカーフェイスがいるグループだった。
 復讐者達が最後になったのは、主に盗賊や山賊といった荒くれ者、もしくは危険なモンスターの討伐依頼を様々なところで受けては片付けてきたから、だそうだ。
 帰ってくる時にはあえて辺境にある小さい村や小規模な町を経由したらしいが、その戦績は小規模の盗賊団を四つ、中規模の山賊一味を二つ、ボス級モンスターに匹敵するモンスターを六体、その取り巻きなどの雑魚は数え切れないほど討伐したらしい。
 そしてそれだけでなく、未発見の派生ダンジョンも発見しては完全踏破してきたらしく、大量のマジックアイテムも手土産として持ち帰っている。

 それはいいのだが、昨日復讐者の詩篇に新しく加わったという二人の副要人物サブキャストの扱いだけは、少し悩んだ。
 新しい副要人物は、どちらもまだ十代前半の子供だ。
 【守護騎兵】はどことなく気品漂う金髪碧眼の美少女で、【簒奪者】は病的に白くやつれているが目だけは強い光を宿した平凡な少年である。
 復讐者の話によれば、辺境で依頼をこなしている時、たまたまモンスターの巣窟で食われそうになっているところを助けたらしい。
 色々と込み入った事情はあるらしいが、それは省略でいいだろう。
 現状、二人は窮地から救ってくれた復讐者達には気を許しているが、それ以外の者に対して警戒心が非常に強い。暴れる事こそないが、常に気を張っている。

 まあ、単純に俺達に怯えているだけな気もするが、それはさて置き。

 年齢的にも馴染ませる為にも一旦≪ソルチュード≫に入れた方がいい気もしたが、とりあえず裏切り防止にイヤーカフスを装着させた後、復讐者と先に出会っていた【妖炎の魔女】【慈悲の聖女】と同じように復讐者の部下として扱う事で落ち着いた。

 とまあ、面倒なやり取りもそこそこに、皆が揃ったのでさっそく宴会の準備に取り掛かる。
 といってもその大半は既に終えているので、実に簡単なモノだ。

 夕暮れ前には準備も終わり、無事に開催する事が出来た。

 並べられる料理の数々は王侯貴族でも気軽に食べられない食材ばかりをふんだんに使用し、様々な名酒が樽単位で振舞われる。
 多数の団員達によって取得・貯蔵されていたこれ等は、今までの戦果と言っていいだろう。
 これまでにない規模の無礼講に、拠点は一気に祭りと化した。

 参加人数が数千人規模になっている拠点での宴会は、王都での宴会とは比べモノにならないほど盛大だ。
 そして開始からそれほど時間も経たず、拠点は混沌と化した。

 ゲストとして招待した父親エルフや娘エルフなどエルフ達の重鎮も混沌からは逃げる事ができず、どんどん深みに嵌っていく。
 結局、宴会は深夜遅くまで続く事になった。


 “二百六十九日目”
 また徹夜で飲み明かす事になった。
 周囲には王都での宴会を彷彿とさせる光景が広がっていたが、王都組は先に経験していたからか、その対処も心得ている。
 慣れた、とまでは流石にいかないが片付けや対処法も何となく分かっているようなので、後片付けを任せ、俺は酒に飲まれた屍達を越えて【鬼神の湯】に向かった。

 その際一緒に飲んでいたカナ美ちゃんもついてきたので、一緒に入る事にした。
 幹部級や特定の客人でもなければ入る事すらできない【鬼神の湯】は、男女で浴室が区切られてはいるものの、混浴も楽しめる作りになっている。

 ただ浸かっているだけで疲労していた筋肉から疲れが溶け出すどころかより強化され、体内魔力オドの総量が微弱ながらにも増大していくという驚異的な効能がある【鬼神の湯】。
 それに浸かりながら朝日が山と山の間から除く瞬間を眺めるのは、何とも言い難い心地にさせられる。

 二人で朝風呂と朝日をじっくり満喫していると、そこに特定の客人の一人――少年騎士が入ってきた。

 腰にタオルを巻いただけの少年騎士は、まだまだ若い――転生して一年未満な俺が言うのもなんだが――がその肉体はよく鍛えられた戦士のそれだ。
 まだ細いが四肢には鍛えられた筋肉が備わっているし、無駄な脂肪は数パーセント程度しかないだろう腹部は六つに割れている。
 弛まぬ努力を続けた結果硬く分厚くなった掌はこれまでの努力を感じさせ、確かな意思の宿る眼光は力強い。
 発展途上ではあるが、少年騎士はこれからも強くなっていくだろう事が、肉体のアチラコチラから感じられた。

 無遠慮ぶえんりょに観察されるのが恥ずかしかったのか、あるいは俺と共に入浴中のカナ美ちゃんの存在に気がついた――十中八九これが原因だろう――からか、赤面し慌てる少年騎士はサッとかけ湯をした後、【鬼神の湯】に浸かった。
 途端トロける表情。極楽だ、と言葉にせずとも雄弁に語っている少年騎士に向けて、ああ、そうなるようなー、というような視線を向けていると、少年騎士の意識がコチラを向いた。

 そしてゆっくりと口を開いた。

 それによれば、この後お転婆姫が俺と内密の話がしたい、と言っているらしい。
 少年騎士はそれを伝えるための使者メッセンジャーだそうだ。メッセンジャーとなるついでに温泉を堪能するなど少年騎士の成長が伺えるが、それはともかく。

 お転婆姫から内密の話、となれば、十中八九【聖戦】関係だろう。
 そろそろだろうな、と思っていたので驚きはない。

 ともかく、アイテムボックスから【鬼酒・銘[尽きぬ夜桜の一滴]】とタンブラーグラスを取り出し、カナ美ちゃんと共にクイ、と呷る。

 さて、どんな流れになるのだろうか。
 そういう思いも、極上の酒と一緒に飲み込んだ。

 ゆっくり温泉を堪能した少年騎士を先に帰らせ、しばらくして温泉から上がり、ラフな格好でお転婆姫を待つ。
 待っている場所は≪住宅地≫の中でも一際大きく、王族が住んでいるのではないかと思ってしまう豪邸の中にある、俺の私室である。
 個人的にはこんな派手派手な豪邸よりも家族と生活していて窮屈にならない程度の大きささえあればいいのだが、頂点に立つ者として相応しい住居というものがある。
 住んでいる場所というのはひと目で誰もが理解できる財力や権力などの指標の一つであり、誰だって見窄らしい家に住んでいる者よりも、豪邸に住んでいる者の方に従いたいはずだ。
 性格なども要因ではあるが、少なくとも家という条件だけなら、俺は豪邸に住んでいるヒトの方がいい。
 だからこんな豪邸になったという訳である。

 現在ここに住んでいるのは俺を始め、カナ美ちゃんや赤髪ショート、鍛冶師さん達や子供達だ。
 家事をするメイドやブラックスケルトンも居るが、それは一先ず横に置いとくとして。

 そんな屋敷に、お転婆姫は約束した時間通りにやってきた。
 髪は綺麗に整えられ、顔には薄らとメイクが施されている。着ている服は洗練されたデザインのドレスであり、装飾品である輝くティアラや宝石が散りばめられた指輪も逸品ばかりだ。
 数回しか見た事のない、お転婆姫の正装だった。

 かなり気合の入った状態だが、お転婆姫は俺が用意していた最高級のエルフ茶を堪能し、養蜂に成功して大量生産しているベアービーのハチミツや大森林の果実を使用したお菓子に舌鼓を打つ姿は普段と変わりなかった。
 ニコニコと、本当に美味しそうに笑っている。

 しかしそれが終われば、ようやく本題だ。

 その途端、変貌する雰囲気。姿勢だけでなく、目つきまで別人のように変わった。
 目の前に居るのは姪っ子のようなお転婆姫でなく、王国を統治する王族の一員にして、将来女王になる可能性が現時点で最も高いルービリア・エイス・フォル・シュテルンベルト姫となった。

 まあ、長くなるので今回の話を要約すると『聖王国からオバ朗ワールドエネミーの討伐協力要請がきている。それを跳ね除ける事は正直内乱があったばかりの王国では不可能であり、また大陸規模の【神災】とでも言うべき存在を討伐するという事は、普通に考えれば参加しない訳にはいかない。しかしオバ朗達と敵対とかマジ無理。それするくらいなら聖王国と戦った方が良さそう。でもそんな事はできないから、聖王国の要請を飲んで【勇者】を派遣するけど、そこで一芝居うって王国の【勇者】だけでも無事に返して欲しい。その代わり内部情報とか、報酬金とか、色々やらせてもらうので』という事になる。

 要約しても長いかもしれないが、国際関係やら愚痴やら経済状況やら愚痴やら戦力差やら罵倒やらが長々とあるので、これでもかなり短くなっている。

 雰囲気も喋り方も王族としてのそれとなっていたが、お転婆姫はお転婆姫なのだな、と苦笑しつつ、そこまで困難な事案でもないので、詳細の打ち合わせをしつつ受け入れた。

 細々とした内容をすり合わせ、報酬などを決めていく。
 話し合いは一時間程度で終わった。

 その途端普段のようにダラけるお転婆姫。
 とても疲れたようなので、共に【鬼神の湯】に向かった。
 その際にはカナ美ちゃんや少年騎士だけでなく、訓練を終えたミノ吉くんや赤髪ショート達も一緒である。

 温泉でちょっとした宴会を開きつつ、それが終わればそれぞれ別れ、自由に過ごす。
 俺は俺でやる事が出来たので、山頂にある≪飛行場≫に向かった。

 そこで各国に向けてメッセージを飛ばし、後は雑務をこなして夜になればベッドに横になった。



 [現在、【妖炎の魔女】【守護騎兵】【簒奪者】【慈悲の聖女】の運命は夜天童子の支配下に置かれています]
 [現時点で【妖炎の魔女】が覚醒状態にある事が確認されました]
 [現時点で【慈悲の聖女】が覚醒状態にある事が確認されました]
 [現時点で【守護騎兵】が未覚醒状態である事が確認されました]
 [現時点で【簒奪者】が未覚醒状態である事が確認されました]
 [覚醒させ、かつ凍結された能力を解除する決定権は夜天童子に有ります。
  今すぐ解除しますか?
 ≪YES≫≪NO≫]



 これまでは≪NO≫だったが、今回は≪YES≫を選択した。
 四人とはまだ短い付き合いでしかないが、性根は悪くない。
 それに反逆されても即座に鎮圧できる程度だという事もあり、ここは戦力強化するべきだろう、という判断だ。



 [≪YES≫が選択されました]
 [現時点で【守護騎兵】が覚醒しました]
 [現時点で【簒奪者】が覚醒しました]
 [英勇詩篇[輝き導く戦勇の背]に記載されている副要人物全員の覚醒が確認されました]
 [これにより、【妖炎の魔女】【守護騎兵】【簒奪者】【慈悲の聖女】の全能力が解放されます]

 [英勇詩篇[輝き導く戦勇の背]は次の段階に移行します]


 “二百七十日目”
 俺が昨日、聖王国を始めとして王国や帝国、魔帝国や獣王国、そしてそれ等を挟んで更に向こう側にある様々な小国に送ったメッセージは無事に到着した結果、反応は劇的だ。

 少々派手なメッセージを送った事で小国は上から下まで混乱したが、聖王国や魔帝国など大国は比較的落ち着いている。
 やはりメッセンジャーが国のトップ達によって豪快に抹殺されてしまった事が大きいだろう。
 少々悪戯心でやってしまった事だが、戦力分析にも役立ったので、またチョッカイをかけようと思う。

 まあ、そこら辺はまた後日語るとしよう。
 今は数十日後に必ずやってくる【聖戦】に向けて、準備の時だ。

 という事で、俺達はそれぞれの目的を果たすため、拠点を出立した。
 ある者は王都へ、ある者は迷宮都市へ、ある者は他国へと散っていく。
 経験値を積んでレベルを上げる者、実戦で技術を磨く者、任された店舗の売り上げアップを目指す者など、目的は様々だが、全体的な目的は来る【聖戦】に対しての備えである。

 【聖戦】はこれまでに無い程厳しくなるのは目に見えている。
 だから少しでも勝率を上げるため、やるべき事は数多い。

 だから【鬼神の湯】を筆頭とする温泉から離れるのは名残惜しいが、俺はカナ美ちゃんや子供達を伴い、王都の屋敷へ戻る。
 帰りもタツ四郎による空輸なのでアッという間だった。
 短時間だが初めての空の旅をお転婆姫は大いに楽しみ、少年騎士は青ざめて震えている。どうやら高所恐怖症らしい。
 そんな少年騎士を無理やり窓際まで連れて行くお転婆姫の行動に苦笑し、頼むから吐瀉だけはしないでくれと思いを込めて、少年騎士に合掌した。

 ちなみに、王都に帰還するのは元々王都に居たメンバーに加え、復讐者とその副要人物四人が追加されている。
 これからは復讐者の訓練も俺が行う事になっているからだ。
 今までは俺も忙しかったので、復讐者には各地を放浪させて多種多様なモンスターと戦う事で経験を積ませてきたが、それももう終わりだ。
 復讐者との約束が果たされる日は、そこまで遠くはない。

 なので、短期間で強くなれる強化訓練を行うつもりだ。

 まあ、それも明日からだ。
 今は王都の屋敷で十分に休み、英気を養ってもらった。

 帰還してからお転婆姫と少年騎士を王城に送ったり、ついでに土産を第一王妃に送ったりした後はゴタゴタと雑務をこなし、夜になったのでベッドに寝転がった。

 明日からまた忙しくなる。
 しかしまだ出会っていない食材や酒が待っているので、俺はそれを楽しみにしつつ、眠りについた。



 【世界詩篇[黒蝕鬼物語]第六章【神災暴食のススメ】の開始条件の三分の一以上が満たされました。
 解放条件クリアにより第一節【神成の鬼オルゥバ・ロイド】、第二節【救世の現セバ・フォル】、第三節【来竜の言ブライ・ドゥラン】、第四節【招来の地スクリ・ヴォル】まで進む事が可能です。
 現時点から世界詩篇[黒蝕鬼物語]第六章【神災暴食のススメ】を開始する事は可能ですが、開始しますか?
 ≪YES≫ ≪NO≫】

 ……え?
 と、取りあえず≪NO≫で。

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