小林恵士、佐々木洋輔
2015年8月9日10時13分
最近、わが子と会話が続かない。すぐ「別に」とか「うざい」……。何が気に入らないの? 反抗期の子どもを持つ親で、こんな思いを抱える人も多いはず。自分も通りすぎた思春期だけど、どんな気持ちだったか忘れちゃいましたよね。親に代わって、彼らの本音を聞きました。
7月半ば、東京・秋葉原の歩行者天国で、ガードレールにもたれて話している4人組がいた。プリントTシャツにジーパンや綿パン姿で、いたって普通の中学生といういでたちだ。3年生で、千葉から遊びに来たという。
■ほっといてよ
「最近、親に腹が立ったこと」を聞くと、口をそろえて「ゲームやめろと言われるのがうざい」。ほかには?
シン君(14)の家では、テストの順位でお小遣い額が変わる。少し前のテストで順位が大きく下がり、母に怒られて腹が立った。その次のテストでは成績が上がった。母は「ちょっと上がって良かったね」。ほめられたのに、また腹が立った。「小学生のころはほめられればうれしかったけど、今はほっといてくれって感じ」
なるほど。親からしたら、どうすりゃいいのってなるんじゃない? 「そうなんですよ。なんで腹立つのか考えても、理由は思いつかないす」
隣のチヒロ君(14)も、ほっといてほしいらしい。「友達んとこに遊びに行くって言ってるのに電話してきて、いつ帰るんだ、って。もう中学生なんだからさあ」
秋葉原のほか、原宿や池袋で声をかけた中高生たちのうち、「反抗期はない」という子もけっこういた。「親が共働きで帰ってくるのが遅いから、そもそも会話がない」という子も。一方、「腹が立ったことがある」子たちからは、こんな声が――。
〈今日どうだった?とか、同じことを何回も聞いてくる。2回目から無視=中3男子〉
〈私がアニメ好きだからと言って、興味ないアニメを録画して見せようとしないで=高1女子〉
〈お父さんが好きな車の話が長い=高1女子〉
〈勉強終わった直後に帰ってきて、勉強しろって。あんたが帰ってくるのが遅いだけだって=中3男子〉
〈かまわれすぎるのはうざい。でも、ゼロだとそれはそれでさみしいので、適度な感じにしてほしい=高1男子〉
〈部屋に無言で入ってきて、ゲームの主電源を切られた。引き戸になってるとこにタンス置いて開かないようにしてやった=中3男子〉
〈体を触ってきたり、ひっついてきたり。あんまりしつこいのが嫌だ。「ダルがらみ(だるいからみ)」って呼んでる=高1男子〉
〈勉強しろ勉強しろってうるさいけど、進学とかで周りが勉強し始めたら自分でやるから。信用してくれてないのかと思っちゃう=中3男子〉
■いつか終わる
都内の私立中で2年を担任する女性教諭(32)によると、校内では中2の担任が最も大変と言われるという。反抗期に入る生徒が多いからだ。注意した時に目線を合わせなくなるのがサインだ。
同時に、保護者からの「家で言うことを聞かなくなった。学校で厳しく指導してほしい」といった「丸投げ」が増えるのも中2の特徴。ただ、特別なことはしないという。「反抗期はいつか終わる。心配しすぎる必要はありません」
「中二病」という言葉もある。元々はラジオ番組で使われたことがきっかけで、思春期のころにありがちな自意識過剰な言動を自虐的に表現することを指す。「母親を『おかん』と言うようになる」「自分はやればできると思っている(でもやらない)」などが挙げられていて、反抗期の特徴と重なる部分もある。
ただ、ネットを通じて広まり、元々の意味が薄まった結果、今の中高生の間では、アニメキャラになりきってけがもしてないのに腕に包帯を巻くとか眼帯を着ける、「漆黒の闇が」などのセリフを言ってしまう、などの「ちょっとイタい子」という意味で使われているようだ。クラスで浮く、というよりむしろ「おもしろい子」という位置づけという。
■後から思えば
今度は、反抗期を通りすぎた高校生に話を聞いた。原宿の竹下通りでクレープを食べていた高3のコトノさん(17)。中2の時が一番ひどかったと振り返る。
「ご飯できたよ」と言われるだけで「わかってるよ!いま携帯いじってんだよ」と言い返した。友達の家やカラオケボックスで朝まで遊ぶこともよくあった。「そのうち親もなんにも言わなくなって。諦めたのかな」
その後、自然と反抗期は終わった。今は、門限や「連絡は返す」など最低限の決まり事を守れば、あれこれ言われることはない。自分が母親になったら、あいさつや服装などの社会常識を守らせれば、自由にさせたいと話す。
コトノさんの友達・ミホさん(18)は、「親だから」という言葉が一番嫌だったといい、こう分析する。
中学になると行動範囲や交友関係が一気に増え、それに一生懸命ついていこう、合わせようとしていっぱいいっぱいになる。そこに、「親だから言っている、親だから心配してる」と言って口を出されると、「じゃ、私の気持ちは何なの?って思っちゃう。反抗期って、自分の意見がつぶされそうになったときに出る反応なんですよ」。(小林恵士、佐々木洋輔)
◇
■水道橋博士さん「どうすればいいか、親はみんなわからない」
うちは長男が小6。ここ1年くらいで、返事が会話にならなくなってきた。「わかったよ!」とか「うざ」「さぶ」とか、とにかく短い。小さい頃は映画やプール、ぜんぶ一緒に行ったのに、最近は誘いに乗ってこない。寂しいですよ。
家の外では「はい」「思います」と敬語を使うのに、僕には「ああん」「うん?」だし。何か親との接点でのボキャブラリーがなくなる感じ。小3の長女はまだ大丈夫だけど、いずれ口をきかなくなるとか想像したら、もうね。自分がこんな、4コマ漫画に出てくるような典型的父親の感情を持つなんて、思ってもみなかった。
ゲーム好きの長男とは「やりすぎはやめよう」という話は、ママと一緒に何度もした。僕が出演したラジオ番組で、識者がゲームの弊害を語ってた。聞かせると「自分だって体に悪いのに酒飲むじゃん」。それで、僕の禁酒と引き換えにやめるとか、取引を繰り返しました。6年になって、自分で中学受験を選んだので危機感はあるようで、今はゲームをやめています。
僕の中高生時代は、親には干渉されなかったけど、自我に目覚めてから内向的になり、親との距離は自然と離れた。いまの僕と子どもとの関係とはリンクしないです。
だから思春期のバリエーションって色々あるわけで、親の立場としても、強い父権を振りかざして「ダメなもんはダメだ!」という家もあっていいと思う。逆に子どもを信頼して自主性に任せるとか、家庭の数だけやり方があるはず。
正解は一つじゃなくて、「今どうしたらいいかわかんないよ」ってことを、親は誰しもそう思ってるんだって想像することが、一番安心するのかもしれないですね。
◇
すいどうばし・はかせ 1962年、岡山県生まれ。漫才コンビ「浅草キッド」結成後、コメンテーター、文筆業でも活躍している。著書に「芸人春秋」(文芸春秋)、浅草キッド名義で『お笑い 男の星座』(同)など多数。
おすすめコンテンツ
PR比べてお得!