「世界最大の盗聴機関」ともやゆされる、米国家安全保障局(NSA)の外国政府への盗聴疑惑が初めて日本に及んだ。
NSAが日本の政府機関などの電話を盗聴したとする米政府の機密資料が暴露された。事実であれば、同盟国もお構いなしの「監視大国」の実態に驚き、あきれる。日米の信頼関係を揺るがす問題で、看過できない。
安倍晋三首相はバイデン米副大統領に電話で「深刻な懸念」を表明。調査説明を求めたが、この電話抗議で収束を図る方針という。首脳も盗聴された独仏ほどではないとはいえ、各国の厳しい非難の姿勢に比べれば、抑制的に過ぎる懸念も残る。
バイデン氏は「安全保障関連法案の審議のさなかに申し訳ない」などと陳謝した。首相も、日ごろ「日米同盟の連携の重要性」を強調しながら、安保審議に波風を立てたくない思惑を優先したとすれば、国民の理解と納得は得られまい。うやむやな幕引きは許されず、厳重にくぎを刺しておかねばならない。
NSAの盗聴問題の発覚は、2013年。オバマ米大統領は昨年「同盟国首脳を対象にしない」「国家安全上、切実な目的がない限り通信を監視しない」などの「改革」を表明した。今回の流出内容は改革前だが、通商交渉など「切実な目的」とは程遠い。今後もこうした運用がまかり通るなら、環太平洋連携協定(TPP)交渉も危うい。乱用を許さぬよう「国の監視を監視し続ける」必要があろう。
国家の「盗聴」はしかし、米国だけの問題ではない。
先月、盗聴ソフトを開発販売するイタリア企業がハッキングされ、計35カ国の機関への販売記録などが漏えいした。明るみに出たのは、各国が国民監視にソフトを利用した疑惑である。
キプロスは、情報機関トップが引責辞任。購入を公式に認めた韓国は、市民の会員制交流サイトを盗み見る機能を付けるよう求めた形跡があり、政治問題化。関わった職員が「自殺」した。平然と私権をおびやかす権力の恐ろしさを痛感する。
日本では特定秘密保護法が通され、国の情報活動は見えにくくなるばかり。きのうは、取り調べの録音・録画(可視化)の義務づけや、通信傍受の対象拡大を柱とする刑事訴訟法などの改正案が衆院を通過した。
冤罪(えんざい)防止のための「可視化」は結局、強い抵抗で全事件のわずか3%にとどまった一方、捜査の「武器」は飛躍的に拡充される。まさに権力の「焼け太り法案」と断じざるを得ない。
通信傍受は、現在の対象4類型を13類型に拡大し、通信事業者の立ち会いも不要にする。代わりに「当該捜査に関与していない警察官の同席」が付加されたが、しょせんは「身内」。チェックの名には値しない。
公権力の肥大にどこかで歯止めをかけなければ、知らぬ間に個人の人権、プライバシーは踏みにじられる。米国を他山の石に、教訓を学ばねばならない。