交通機関の安全対策は、設備機器などの「ハード」と、乗務員への教育をはじめとする「ソフト」の両面にわたるが、死角を生じさせてはならない。

 JR東日本が運行する京浜東北・根岸線の横浜―桜木町間で架線が切れ、150本の列車が運休するなど約35万人に影響が出た事故は、この当たり前の原則を改めて思い起こさせる。

 架線にはエアセクションと呼ばれる継ぎ目区間があり、ここでは停車が禁じられている。再び発車した際に過大な電流が流れて火花が飛び、架線を傷める恐れがあるからだ。

 しかし、運転士はエアセクションにかかる位置で列車を止め、その後発進させた。その際の火花で架線が溶解し、断線したとみられている。

 京浜東北線には自動列車制御装置(ATC)があり、エアセクション内で止まらないよう制御されている。しかし、先行列車との距離が縮まったため、運転士は手動で列車を止めた。エアセクションの位置は知らなかったという。

 07年には、さいたま市内の東北線で同様の事故があった。JR東は対策として、エアセクションの場所を運転士に知らせる表示を充実させ、音声で警告するシステムも導入したが、ATCがある区間やそこを走る車両は対象外だった。

 ATCは安全運行へのカギだが、最後の頼みは「人」の判断だ。今回は、運転士が安全を優先させて列車を止めたが、エアセクションに関する認識が不十分だった。

 JR東は、京浜東北線や山手線など、ATCを導入済みの区間でも音声警告システムを備え、乗務員への教育も徹底する方針を打ち出した。安全対策にやりすぎはない。二重、三重に張り巡らせ、事故やトラブルの防止に努めてほしい。

 今回の事故は、首都圏の大動脈が止まった時の対応に、多くの課題を浮かび上がらせた。

 ある路線が止まると、並行する路線や直通運転している路線にも影響が広がる。通勤・通学やイベント開催に伴うラッシュと重なれば、駅構内やその周辺が大混雑する。列車内や駅で足止めされたり、列車を降りてしまったりした乗客をどう安全に誘導するか。

 今年4月には山手線で架線を支える柱の倒壊事故があり、支柱が傾いていることに気づきながらすぐに対応しなかったことが問題になった。

 基本を徹底しつつ、課題を一つひとつつぶしていく。それが鉄道会社の責任である。