ETV特集「二十の顔を持つ男〜没後50年・知られざる江戸川乱歩〜」 2015.08.08


「怪人二十面相」を生み出したミステリー作家江戸川乱歩。
日本ミステリーの礎を築き人々から「大乱歩」と讃えられた男。
今年没後50年を迎えた。
幼い頃綾さんの心をとりこにしたのが怪人二十面相シリーズ。
芥川賞作家中村文則さん。
乱歩の作品にはミステリーの枠を超えた人間の真実が描かれているという。
亡くなって半世紀。
乱歩が残した資料から新たな発見が続いている。
そこには知られざる苦悩と葛藤の人生が刻み込まれていた。
悩む乱歩に時代の圧力も襲いかかる。
戦争。
言論統制。
乱歩の作品は全て絶版に。
八方塞がりの中生涯書き続けたのが悪のヒーロー…姿を巧みに変えながら人間社会の闇を自由に飛び回る。
果たして江戸川乱歩とは何者なのか。
栄光と挫折が絡み合う謎に満ちた人生を解き明かす。
繁華街から離れた地に江戸川乱歩が暮らした家がひっそりと建つ。
70年前の東京大空襲でも焼け落ちず残された。
通称…その蔵の中に一歩踏み入ると大量の本。
その数およそ2万冊。
全て乱歩自らが集めたもの。
国内外から集められたミステリー。
古今東西の犯罪に関する専門書。
更には幽霊や妖怪などの図鑑まで。
執筆のための重要な資料であった。
乱歩が亡くなって半世紀。
近年新たな発見が続いている。
これは記念すべきデビュー作の構想メモ。
格闘の末に生み出された「二銭銅貨」。
緻密な暗号解読を駆使した物語。
とある電機工場の給料日。
従業員の給料を詰めたカバンが何者かによって盗まれてしまう。
事件を知った松村が大金の隠し場所を見つけたという。
きっかけは二銭銅貨。
そこからは1枚の紙が。
「南無阿弥陀仏」。
6種類の漢字だけの不思議な文章。
これは暗号だと考えた松村。
1つの法則を見つけた。
点字だ。
点字は6つの点の配置によって文字を生み出す。
松村は点字の配列にしたがって「南無阿弥陀仏」の漢字を当てはめていった。
最後まで読み解いていくとある言葉が浮かび上がってきた。
「五軒町の正直堂から札を受け取れ」。
大金を見つけ喜ぶ松村。
しかしなぜか全て偽札だった。
スリルに満ちた謎解きに人々は驚嘆。
日本に初めて本格的なミステリーが誕生した瞬間だった。
29歳の乱歩は時代の寵児となる。
近年さまざまな視点から研究が進む乱歩。
その作品世界には少年時代の体験が深く刻み込まれている事が分かってきた。
1894年三重県で生まれ3歳の時に父親の転職で名古屋に移り住んだ。
当時の名古屋は急速な近代化の真っただ中。
木造の橋は西洋風の石橋にかわり路面電車が走り出す。
高層の建物が次々と建ち職を求めて人口は急増した。
通りに作られた電灯。
夜の闇を照らし街には新たな光と影の世界が生まれていた。
名古屋と乱歩の関わりを研究する金城学院大学の小松史生子さん。
急速な近代化によって変貌する街は幼い乱歩に強烈な印象を与えたという。
少年の頃の乱歩が足しげく通った場所がある。
江戸時代の初めから大衆芸能の街として栄えてきた大須。
今も毎年秋には大道芸や伝統芸能が集う祭りが開かれる。
(拍手)大須の光景に心を惹かれていた乱歩。
学校にうまくなじめず休みがちだったという。
混沌に満ちた街をさまよう独りぼっちの乱歩。
乱歩の目の前には幻想的で妖しげな世界が広がっていた。
…人物だと思います。
想像の世界に浸る事が多かった乱歩少年はあるものと出会う。
活版印刷に使われる文字の型…ヨーロッパの近代化が生んだ画期的な印刷技術。
明治以降日本でも活字が普及。
人々は自ら活字を手にとり印刷物を作るようになった。
乱歩少年はこの活字に夢中になった。
初めて手にした時の重さ。
手触り。
常に握っていたい言葉のかけら。
18歳となった乱歩は大学に進むため上京。
そこである作品と出会い大きな衝撃を受ける。
1841年にアメリカで発表された…作家エドガー・アラン・ポーが生んだ世界最初のミステリー小説だった。
作品の舞台になっていたのは日本に先んじて近代化が進んでいた花の都パリ。
当時パリは世界有数の国際都市として各国から人が集まっていた。
物語は密室で起きた不可解な事件がテーマだった。
夜のパリモルグ街。
事件は集合住宅の4階で起きた。
鍵のかかった部屋。
何者かによって荒らされそこに住んでいた女性が無残に殺されていた。
警察は捜査を開始。
すると人々から犯人の「叫び声」を聞いたという証言が。
ところがさまざまな国籍の住人たちは「叫び声」がそれぞれ意味の分からない外国語だったという。
スペイン語イタリア語ドイツ語ロシア語。
犯人の国籍が分からず捜査は暗礁に乗り上げた。
そこに現れた青年デュパンが推理を始める。
導き出した答えは意外なものだった。
犯人はなんとオランウータン。
船乗りが飼っていたオランウータンが逃げ出し暴れた拍子に女性を襲った事故だった。
ミステリーの持つ「時代を描く力」を感じ取った乱歩。
内田隆三さんはポーの作品に描かれた近代化と都市化がもたらす「不安」こそがミステリーを生んだという。
乱歩は29歳でデビュー。
ペンネームをエドガー・アラン・ポーにあやかって江戸川乱歩とした。
乱歩はデビュー後次々と論理的なミステリーを発表。
その人気は不動のものになっていく。
自らが理想とする作品について乱歩はこう記している。
乱歩の死から半世紀。
現在もその作品は読み継がれている。
ミステリー作家綾行人さんは大の乱歩ファン。
綾さんが感じる乱歩の魅力とは社会を見つめる独自の視点。
そこから描かれたミステリーは時代を映し出す力にあふれているという。
普通に語られる事を普通とはちょっとずらしたふうに語ってみたり…。
世界とか社会の見え方を見方を裏側から見てみたりですね。
そういったのってミステリー作家の得意とするところで。
乱歩の小説読んでても常にそれがありますよね。
優れたミステリーというのは必ずあるんですよ。
綾さんがこれまで書いたミステリーは66。
その多くは密室で起きた事件を論理的に解いていく物語。
綾さんは論理的なミステリーの力を乱歩から教わったという。
探偵小説ミステリーいろんな言い方がありますが優れたところはそれに答えを与えるというところなんですよね。
すごく不可解な謎を提出して人々は世にも不思議なというか世にも怪奇な震撼するわけですよねそれを見て。
ところがそれに必ず現実的な論理的な回答が用意されてオーソドックスなミステリーでは必ず最後は犯人が捕まり秩序が回復されて終わりますよね。
だからねその不安人々の不安を映し出すと共にそれをね解消するっていう。
物語の中で解消してあげて…っていう仕組みだから。
だからエンターテインメントとしてこんなに長もちしてるというか力が強いんだと思いますね。
江戸川乱歩の暮らした家幻影城。
そこに乱歩が保管していた未公開のフィルムが残されていた。
今回初めてその中身が公開された。
これは乱歩自らが撮影した東京上野の博覧会の様子。
珍しい展示やサーカスの様子なども写している。
実は乱歩はしばしば休筆を繰り返す作家でもあった。
執筆から逃れるように放浪しこうした映像を残していた。
乱歩はなぜ度々筆を置いたのか。
そこには大きな苦悩が秘められていた。
当時の心境を語った肉声が残る。
新しい論理的な謎解きやトリックが生み出せなくなってしまった乱歩。
どのようにしてミステリー作家としての危機を乗り越えていったのか。
この頃乱歩が書いた作品がある。
アパートの屋根裏から他人の部屋をのぞき見る男の物語である。
多分それは一種の精神病ででもあったのでしょう。
郷田三郎はどんな遊びもどんな職業も何をやって見てもいっこうにこの世が面白くないのでした。
男はやがて退屈さを持て余し刺激を求めて殺人者となる。
作品は大きな反響を巻き起こした。
この頃乱歩が描いていたのは人間の異常な欲望や狂気を描く作品。
後に「エログロ小説」と呼ばれた世界だった。
乱歩は次々とエログロ小説を手がけていった。
主人公は屋敷の客間に置かれた椅子の中に忍び込んだ男。
椅子と一体化して生活を続けるうち持ち主の女性に愛欲の感情を抱くようになる。
乱歩のエログロ小説は当時の社会と響き合うように人気を集めていった。
街には「モボ・モガ」と呼ばれる若者が登場。
最新の流行を次々と消費していた。
新たな刺激はまた次の刺激を駆り立てていく。
乱歩が向き合っていたのは終わりのない欲望が支配する社会の姿だった。
出版社は大々的に乱歩の作品を宣伝。
乱歩はエログロ小説の「代表作家」として新作が待たれるようになっていった。
しかし本来乱歩が理想としていたのは論理的な謎解きを軸としたミステリー。
時に執筆に嫌気が差すほどジレンマを感じていた。
そうした中乱歩が1929年に発表した「芋虫」。
戦争によって異常な生活を強いられたある夫婦の物語。
草むらに建つ離れ家。
ここに若い夫婦が暮らしていた。
夫は元陸軍の中尉。
戦地から戻った夫の姿は変わり果てていた。
重傷を負い両手両足がほとんど根元から切断されていたのである。
それはまるで大きな黄色の芋虫であった。
夫は初め勲章と武勲を讃える新聞記事を繰り返し眺めていた。
しかし次第に飽きていく。
その代わり夫は妻に昼夜を問わず肉体を求めた。
従順な妻はそれに応える。
ところがやがて妻の欲望が勝るようになり手足のない夫を支配する事に喜びを感じていく。
ある晩妻が夫の上にまたがった時。
無抵抗な夫は受け入れた。
ただその目は興奮する妻にじっと注がれていた。
強いまなざしで妻の心の底までも見つめているようだった。
妻はその目に恐怖を感じる。
そして両手で夫の目を突き残された唯一の外界への窓を潰してしまう。
「芋虫」の人間描写には乱歩の作家としての優れた資質がある。
そう語るのは…芥川賞をはじめ海外からも高い評価を受けている。
中村さんは心の傷を抱えながら欲望や犯罪に溺れてしまう若者など現代社会で生きる人々の苦しみを描いてきた。
だからあんだけ血や肉を持ったキャラクターとして出来上がってるんだと思います。
突き放して書いてたらあんなにリアルに書けないですよ。
自分の中にあるそういうゆがんだものっていうのをある意味強調して描くというか。
そうやって人物になりきって描くっていう。
だからこそああいう描写が可能でして。
でも普通はそういうものをはじくんですよ。
見て見ないふりをするし断罪するんですけど乱歩はそれを見つめて描くのでその時点でもう関わろうとするんですよね。
それは優しさじゃないですかね。
目を背けない。
それは優しさでもあるし人間とは何かっていうものを知りたい好奇心でもあると思うし。
あとそれと同時に自分とは何かって事を考える手段でもあったんじゃないかなと思いますね。
エログロ小説の旗手となった乱歩。
当時の心境をこう記している。
自分を隠すためにかぶったという仮面。
しかし中村さんはその仮面こそ乱歩の作品を生んだ重要な要素だと語る。
僕自身ももっと若い時はずっと演技しながら生きてましたので。
やっぱり自分の何かをいろいろ隠したりしないと人とうまくやっていけないというか人に無理に合わせたりして生きていかなきゃいけないので。
その時はだから仮面をかぶってるような感じですよね。
でも作家というのはそういう人が着けている仮面の奥を書くんですね。
真実を。
なのでふだん日常生活で自分を隠している分小説になると自分の本心がバーッて出てくるんです。
出てきてしまう。
日常生活では演技してるのに出版物として広がるものに自分の内面の本当の姿を書くと逆に自分の内面が広がってくわけじゃないですか。
ふだん隠してるものが。
そういう矛盾はあるんですけど小説家っていうのはそういう存在だと思いますね。
小説愛好者が集い度々開かれる仮面読書会。
エログロをはじめ過激な内容の小説を素顔を隠して語り合う。
ここでは乱歩の作品もしばしば取り上げられ人々を魅了している。
理想とする小説を書く事ができず苦悩し続けていた江戸川乱歩。
1936年。
乱歩はまた新たなジャンルの作品を世に出す。
その主人公こそ悪のヒーロー…デビューした頃の論理的な推理小説。
それに続く刺激に満ちたエログロ小説。
そして怪人二十面相のシリーズは子供たちに向けて書かれた探偵小説だった。
その頃東京じゅうの町という町家という家で人々はあるうわさ話をしていた。
怪人二十面相についてである。
二十面相はこんな男だった。
現金は盗まない。
貧しい人から盗まない。
人を傷つけたり殺したりしない。
盗みを繰り返す一方でとにかく血を嫌った。
この二十面相を捕まえようとするのが名探偵明智小五郎。
1936年。
神出鬼没の二十面相が颯爽と東京駅に現れる。
そこに明智を乗せた汽車が到着。
その時から2人の息詰まる闘いが幕を開ける。
二十面相は次々と奇想天外な手を打ち明智を煙に巻こうとする。
明智探偵や警察の捜査を巧みにすり抜ける怪人二十面相。
なぜ乱歩は理想とする論理的なミステリーではなく子供向けの探偵小説を世に出したのか?乱歩が生きた時代。
それは度重なる戦争の時代でもあった。
乱歩が生まれた1894年日清戦争が始まる。
10歳の時に日露戦争。
更に10年後第一次世界大戦が勃発。
日本社会は常に戦争と隣り合わせにあった。
1925年エログロ小説がもてはやされる享楽的な時代の陰で一つの法案が作られた。
当初の目的は共産主義の取り締まり。
しかし徐々に監視の目は表現活動にも広がった。
小林多喜二の「蟹工船」。
過酷な労働を強いられた人々のストライキの物語は発禁処分とされた。
その後小林多喜二は逮捕され拷問の末に亡くなる。
そして1936年人々を震撼させる事件が起こる。
陸軍内部の対立から青年将校らが武力で東京を制圧。
政府要人が次々と暗殺され街には戒厳令が敷かれた。
この年42歳の乱歩が世に送り出したのが怪人二十面相だった。
もうエログロナンセンスを…国家による統制が強まる中自由な言論は制限され人々は同じ方向を目指し一致団結して生きる事を求められていく。
そんな中乱歩が子供たちに向けて放った怪人二十面相。
姿を巧みに変えながら大都会の闇を自由に飛び回る男。
統制の時代をすり抜けるかのような怪人二十面相の存在は子供のみならず多くの大人をも夢中にさせた。
いろんなさまざまな領域において何かすると批判されるっていう空気が出来上がってくると何かこう面白い刺激的な事っていうものが社会からなくなっていくと思うんです。
でもミステリーというのはやっぱり謎があって刺激的なのでだからみんな日常生活が結構窮屈な分本の中だけは自分を解放しようとか。
多分小説家はみんながそうか分からないですけども何かの現象を見た時にそれが悪か善かという判断をまず下さないんですよ。
それが善か悪かという判断を下さずにその現象をまず見つめるんです。
でそれを描き出す。
なのであとは読んだ人が決めればいい事ですので。
二十面相が登場した翌年…国内では国家総動員法が制定され日本の勝利のために国民生活の全てを政府が統制できるようになる。
新聞や出版物の掲載を禁止できる事もこの法律で定められた。
時代の圧力が強まる中乱歩は二十面相のシリーズを書き続けていた。
戦争のため国家に奉仕する事が正しさだと多くの人が考えた時代乱歩は秩序を乱す悪のヒーローを活躍させた。
しかし二十面相シリーズの第3作を出した翌年突然乱歩の作品が発禁処分とされた。
10年前に書いたあの「芋虫」だった。
戦争とミステリーの関わりを研究する茨城大学の谷口基さん。
「芋虫」が発禁とされたのは戦争によって破滅した人生が描写されている事だという。
人間にとって当然の事を書いただけですね。
だからそういうメッセージとかではなくて当然の事を書いただけなんですよ。
小説っていうのは1冊の本なんだけどそこから波紋みたいにバーッて広がっていくものなんです。
だから当時の時代背景の中で乱歩が時代を敏感に感じ取って自分の中から素直に出してきたものっていうものはいろんな人がシンパシーを感じたと思うんですよ。
でもいろんな人がシンパシーを感じたが故にそれは真実であって真実であるが故に多分その時の時代はあれを発禁にせざるを得なかったという多分そういう事だと思いますね。
1941年12月…日本の真珠湾攻撃によってアメリカとの戦争が始まった。
(爆発音)日本は敵国である英米を悪の存在と見なす。
アメリカやイギリスの文化は敵視され英語の使用は規制された。
アメリカで生まれたミステリー小説も敵性文学だとされる。
乱歩の作品はついに二十面相をはじめ全て絶版処分となる。
戦時下乱歩の姿を写した1枚の写真。
戦局が悪化する中地元の防空係長を引き受け空襲への備えや消火活動の演習を行う責任者となっていた。
ところがその仕事が終わる度に乱歩が一人向かったのは自宅の蔵。
そこにあったのは国家が悪と見なしていたアメリカやイギリスのミステリー小説。
日本が空襲におびえていた当時英米ではミステリーが隆盛を極めていた。
乱歩はそれらをひそかに手に入れ大量に読んでいたのだ。
それが多分この蔵の中に集積していると。
…という事は間違いないと思います。
戦争中乱歩が蔵の中で守り続けた精神が花開く事になる。
これは乱歩が作成していた海外ミステリーのベストテン。
蔵の中で出会い研究した作品を終戦後いち早く日本に紹介した。
戦前から活躍していたアガサ・クリスティー。
ディクスン・カー。
エラリー・クイーン。
戦後乱歩を間近で見ていた人がいる。
ここでねいつも待ってるんですよ。
ミステリー雑誌の若手編集者だった…乱歩先生が向こうからコトコトコトって。
(取材者)その正面に座られるんですか?そうです。
これはサスペンス映画の巨匠ヒッチコックが来日した時の様子。
乱歩は海外のミステリー関係者とも幅広く交流していた。
日本ミステリーの未来について乱歩は大坪さんに熱く語り続けた。
アメリカ文学なんかとんでもないというあれですからね。
1949年。
乱歩は中断していた怪人二十面相シリーズを再開。
変装をして盗みを繰り返す二十面相を明智探偵が見破る。
再開した二十面相シリーズは子供たちの間に大きなブームを作り出す。

(「東京ブギウギ」)当時日本は戦後復興に邁進していた。
人々は戦争の痛みから少しずつ立ち直る一方利権を巡る企業の汚職や冷戦を背景とした政治事件が頻発。
市井の人々には見えづらい新たな闇が広がりつつあった。
しかし乱歩がこうした複雑化する社会をテーマに本格ミステリーを書く事はなかった。
時代と向き合う本格ミステリーが書けない中乱歩は新たな境地を切り開く。
ミステリー作家の登竜門となる賞の設立だった。
プロデューサーの立場となり自らに代わる戦後社会の新たな才能を探し始める。
そのまだ見ぬ才能を乱歩は「一人の芭蕉」と呼んだ。
俳句に革命を起こした松尾芭蕉に倣いミステリーの変革者を渇望したのだ。
そんな中乱歩の目に留まった男がいた。
松本清張は推理や謎解きの手法を使いながら戦後復興の陰に潜む組織の腐敗や権力の暴走を正面から問う作品を書き始めていた。
社会の中で懸命に生きる庶民の視点からつづられた物語は多くの共感を呼んでいた。
清張はデビュー前「二銭銅貨」など乱歩の初期の作品を読み大きな感銘を受けていた。
それが一つのきっかけとなり作家の道を志した。
しかしその一方作家となった清張は理想とするミステリーについての文章の中で乱歩の小説を批判している。
「初期の作中の人物には確かに人間性が出ていた。
こういう日常的な設定はやがていつの間にか乱歩の創作から消え失せてしまう」。
「私は探偵小説を『お化け屋敷』の掛小屋からリアリズムの外に出したかったのである」。
辛辣な清張の言葉。
しかし乱歩は清張に期待する姿勢を変える事はなかった。
乱歩が監修をしていた探偵雑誌。
「永遠の希望が実現した」っていうんだからすごいよ。
江戸川乱歩賞は昨年60回を迎えた。
ここから飛躍していったきら星のようなミステリー作家たち。
複雑化する現代社会に作品を送り続けている。
晩年の乱歩。
プロデューサー業のかたわらで怪人二十面相は書き続けていた。
子供の頃二十面相の繰り出すさまざまな仕掛けに夢中になったミステリー作家綾行人さん。
もしかしたらそこんとこにはやっぱり何て言うのかなもともと変身願望みたいな事を初期の頃から書かれてますからね。
それをもう思う存分やってるみたいなところはあったのかもしれませんし。
みんなやっぱり一つの顔だけで生きてるわけじゃないですからね。
じゃあどれが本当のあなたなんですかと聞かれた時にこれが本当の自分なんだと答えられる人がいるだろうかって思うわけですよ。
僕はむしろ仮面を外した素顔というものが本当に素顔なのかといったところがポイントだと思いますね。
素顔だと思ってるものも実は気のせいじゃないかとかね。
それもまやかしじゃないか。
そのぐらい実はあやふやなものを抱えてみんなやってるんじゃないかなという気がしますね。
自分もそうですしね。
論理的なミステリーを理想としながら生涯それを果たせなかった乱歩。
しかし作家中村文則さんは苦悩に満ちたその人生こそ作品を妖しく輝かせているという。
世の中に明るく楽しい小説ばかりだと逆に絶望だと思うんです。
みんなで明るいなんて大変だと思うんです。
小説を開く時くらいは落ち着いて別に暗くてもいいよなとかちょっと自分くよくよしてるけど別にいいよなというかそう思えればいいかなというふうに思います。
日本ミステリーの礎を築き上げた江戸川乱歩。
生涯に手がけた作品は125。
そして今からちょうど半世紀前の1965年乱歩は波乱万丈の人生を終えた。
享年70。
2015/08/08(土) 00:00〜01:00
NHKEテレ1大阪
ETV特集「二十の顔を持つ男〜没後50年・知られざる江戸川乱歩〜」[字][再]

没後50年を迎えた日本ミステリーの巨人、江戸川乱歩。ミステリー作家の綾辻行人さんや芥川賞作家の中村文則さんらが、乱歩の苦悩を見つめ、作品世界を読み解いていく。

詳細情報
番組内容
今年没後50年を迎えた日本ミステリーの巨人、江戸川乱歩。数々の業績の陰で、乱歩の人生には常に秘められた苦悩と葛藤があった。近年、遺された資料の分析と新たな視点からの研究が進み、その知られざる姿が現れてきた。少年のころ『怪人二十面相』に出合いミステリー作家を志した綾辻行人さんや、芥川賞作家の中村文則さんらが、乱歩の生涯を見つめ、作品世界を読み解いていく。【語り】リリー・フランキー 【朗読】福島泰樹
出演者
【出演】作家…綾辻行人,中村文則,【朗読】福島泰樹,【語り】リリー・フランキー

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸

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