イギリス南東部にある名門オックスフォード大学。
最初の授業が行われたのは1096年という英語圏で最古の大学です。
「大学の中にたたずむ街」と呼ばれ歴史を刻んだ荘厳な校舎が街じゅうに点在しています。
38の独立したカレッジから成り立っていてそれぞれが独自の紋章や古いしきたりを今も守り続けています。
創設以来オックスフォード大学は政治や文学科学など多岐にわたる分野で優秀な人材を世に送り出してきました。
現職のデビッド・キャメロン首相を含めこれまでイギリス歴代の首相26人を輩出してきた他「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルや抗生物質を発見したアレクサンダー・フレミングなどがさまざまな分野で大きな足跡を残しています。
そのオックスフォード大学で今心理学の世界に新しい境地を開いている気鋭の研究者がいます。
オックスフォード感情神経科学センターの所長です。
そして同じセンターで主任研究員を務める…私生活においてもパートナーである2人はそれぞれ人間の異なる人格に着目した研究で話題を呼んでいます。
フォックス教授のテーマは…危機に直面しても前向きに生きる人がいる一方過去を思い悩み続ける人もいます。
教授はその違いの原因を人の脳に見いだしました。
最新の脳科学と認知心理学を掛け合わせ楽観と悲観の秘密をひもといてゆきます。
一方ダットン博士は精神障害とされている「サイコパス」を専門にしています。
一般的にすぐ猟奇犯罪と結び付けられるサイコパスですが恐怖心の欠如冷静さ集中力などその特性を多角的に検証していくとサイコパス性から多くの学ぶべきものが見えてくるといいます。
今回フォックス教授とダットン博士は一般市民も含めた公開講座を実施しました。
講義ではメディアが伝える従来の説ではなく真のサイコパスとは何なのかをお話しします。
そしてそれが「悪」ではなく実際ある種のサイコパス的特性は個人や社会にとっても良い影響をもたらしうる事を示します。
2人の心理学者が人格形成の謎に迫りより有意義な人生を送るための心の在り方を探ります。
(拍手)皆さん今日は恐らく歴史上最も興味深い精神障害である「サイコパス」という人格についてお話ししたいと思います。
最初に皆さんが新聞で読んだりテレビで見たりハリウッド映画で見たものメディアが伝えるイメージとは対照的にサイコパスとは本当は何なのかについてお話しします。
その冷淡さ無慈悲などの特質は犯罪者だけでなく誰しも持っているものだというのがダットン博士の主張です。
ある慈善団体が地元で一番の金持ちである実業家から一度も寄付金を受けた事がない事に気が付きました。
そこで担当者が実業家を直接訪問して寄付をお願いする事にしました。
「私たちの記録では寄付名簿にあなたの名前はないようです。
あなたは著名な方で町一番の成功者です。
何らかの形で地域に還元してみてはいかがですか?」。
実業家はしばらくの間考えてからほほ笑み尋ねました。
「記録には私の母が末期がんと闘っている事が書かれていますか?その医療費があなたの年収の数倍である事は?」。
「知りませんでした」と募金係は答えます。
「そうですか。
じゃあ私の兄が負傷した退役軍人であり盲目で車椅子の身である事は?」。
「いいえ」と募金係は口籠もります。
実業家は怒りで声を大きくしながら言います。
「それでは私の姉が夫を交通事故で亡くし3人の子供を抱え無一文である事は?」。
「すみません。
全く知りませんでした」。
実業家は声を荒くして言いました。
「私が家族にさえビタ一文やっていないのに君に寄付するとでも思うかね!?」。
(笑い)「心理学」という名の宇宙の奥深くでサイコパスの存在が遠くにちらりと見られます。
そこは氷のような孤独感と恐ろしい謎に満ちた魅力の世界です。
サイコパスと言うとすぐ常軌を逸した孤独な爆弾魔や過激派のリーダー連続殺人犯に強姦犯などのイメージが広がります。
しかしもし私が全く別の見方を提示したらどうでしょう?もしあなたの家を全焼させた放火魔が別の世界ではひょっとすると燃えながら崩れる家の中へ果敢に飛び込んであなたの家族を助け出そうする英雄かもしれないと言ったらどうでしょう?あるいは映画館の後ろの暗闇でナイフを振りかざしている少年が将来は手術室で巧みにメスを扱う外科医になるかもしれないと言ったら?金融界のクールな悪党。
陰があって魅力的で道徳心ゼロで瞬く間にあなたの財産全てを盗む人物がその気になればあなたのビジネスを破産から救う可能性が最も高い人間であるかもしれないと言ったらどう思いますか?このような主張は荒唐無稽に聞こえるかもしれませんが真実なのです。
映画とは違い全てのサイコパスが暴力的なのではありません。
無慈悲で大胆不敵かもしれませんが。
暴力とサイコパスは違った神経の回路上にあるもので決してイコールではないのです。
では次のシンプルな表を見て下さい。
右上から時計回りに行きましょう。
あなたがサイコパスだとします。
暴力的で育ちは良くなく知性は低いとします。
将来の展望がいいとは言い難いですね。
あなたは結局下っ端の悪党か犯罪組織の鉄砲玉になり遅かれ早かれ刑務所送りになるでしょう。
方程式から暴力を取り除くと展望は少しマシになります。
あなたは詐欺師か麻薬の売人かヒモなどになりそれでもかなり早く刑務所送りになるでしょう。
しかしあなたがサイコパスであっても本質的に暴力的ではなく育ちが良く知的だとすると全く違う話になります。
ある有名な記事の見出しがうたったようにあなたは市場で大儲けする可能性が高い。
最後にあなたが知的で暴力的なサイコパスだとします。
そうですね特殊部隊の工作員から犯罪組織の黒幕まで派手な職業があなたを待ち受けているかもしれません。
ここでちょっとだけ映画の世界に思いを巡らせてみましょう。
有能な善玉サイコパスの代表格といえば間違いなくジェームズ・ボンドです。
彼は崖っぷちをスキーで滑りワニを踏み石にし公衆トイレで人を溺れさせもう一人をサメの餌食にしました。
冷淡で器用優雅で残忍さの持ち主です。
ボンドの愛国的な脳内には映画の歴史の中で最も機能的なサイコパス的特性が詰まっています。
それも全て女王陛下と祖国のためです。
では機能不全で悪者のサイコパスに移りますが誰がいるでしょう?当ててみて下さい。
映画史上最悪のサイコパスといえば?ハンニバル・レクターです。
ハンニバル・レクターは映画「羊たちの沈黙」に登場した猟奇殺人犯。
殺害した人間の臓器を食べる事で悪名高い人物です。
レクターは脅威の典型です。
雄弁で邪悪冷静で月末の取り立てにいそしむ高利貸しよりも貪欲。
血を凍らせる恐ろしさです。
なんといっても看護師の舌をむさぼっている間の最高心拍数は85だというぐらいですからね。
では再び現実の世界に戻っていいサイコパスと悪いサイコパスの違いを3つまとめます。
サイコパスであっても自動的に連続殺人犯という事にはなりません。
実際サイコパスの多くは刑務所にさえ入っていません。
私たちの周りにいるのです。
今の話を聞いて驚く方も多いかもしれませんが事実なのです。
射撃の的のようにサイコパス性にもいくつもの円があって中心の円に該当するのはごく少数の人たちだけです。
サイコパス性の強弱は連続した帯のようなもので誰でもその中のどこかに位置づけられるんです。
サイコパスとそうでない人たちとの間には明確な区分線があると思われがちですがそれは元来の臨床的診断の影響です。
法医学では標準化された心理測定テストを使う事が多いのですね。
例えば「サイコパス度チェックリスト」は基はカナダの心理学者ロバート・ヘアが考案したものです。
「ロバート・ヘアのチェックリスト」とはサイコパス度の心理測定テストの事。
精神医学の臨床現場において診断目的で使われます。
このテストは40点満点。
ほとんどの人は1点か2点です。
一般的にサイコパスと見なされるのは30点以上とされます。
臨床医学の場では筋金入りのサイコパスたちははるかに得点が高く私たちとはまるで別世界に生きていると思われています。
しかし私たちが暮らす社会は臨床医学の世界とは違います。
朝食に人の肝臓を食べるハンニバル・レクターのような純然たるサイコパスであってもその人格を形成する要素は私たちの社会全体に等しく分布しているものなのです。
つまりサイコパス性とは程度の問題であるという考え方なわけで録音スタジオでミキシングに使う装置のつまみに例えられます。
いろんなつまみを回して好きな音質にするように。
つまみにあたる「サイコパス的人格一覧表」はアメリカの心理学者のスコット・リリエンフェルドが開発したものです。
スコット・リリエンフェルドによって考案された「サイコパス的人格一覧表」。
これは187もの質問項目からサイコパスの特徴である8つの特質の個人差を検査するものです。
その8項目として……が挙げられています。
このテストはより微妙なサイコパス度の検出に努めており臨床以外の現場つまり私たちに対しても適用できるのです。
リリエンフェルドの検査には全部で187もの質問があります。
ここでは全部の検査はしませんので安心して下さい。
録音スタジオに例えれば音質を変える8つのつまみがあるようなものです。
これは重要な点なのですがこのテストでは被験者の合計スコアは同じでもその中身が異なる場合があります。
例えば10種競技で最終得点は全く同じ競技者が2人いるようなものです。
でも10の競技それぞれを見てみると全く成績が違っている事があります。
同じようにサイコパス度テストでもたとえ2人の被験者の合計スコアが同じであってもその内容はかなり異なるのです。
これが何を意味するのか天才でなくても分かりますよね。
録音装置のつまみを全部マックスにしたら回路が焼き切れて懲役30年の刑でも食らう事になるでしょう。
状況に合わせてあるつまみを上げあるつまみを下げれば殺人鬼ではなくビジネスでの成功者になる事も可能なのです。
一つの明確なサイコパス像というものを定義する事はできないのにもう一方では多数のサイコパス的な特質は挙げられるというちょっと不思議な状況ですね。
成功しやすいまたは勝ち残りやすい組み合わせなどというものはあるのでしょうか?ある職業で成功を収めるためにはどんな資質が必要か。
この問題は実はそれほど複雑ではありません。
外科手術から政治ITといったそれぞれの仕事の特質に合った心理的な起爆剤の役を果たす資質があるのです。
ある種のサイコパスの特徴が効果を発揮するように見えます。
数年前サリー大学の心理学者のチームがちょっと変わった実験をしました。
先ほどのサイコパス度テストに類似したもので企業の重役たちと刑務所で服役中の最も危険とされる囚人たちとを対象にそれぞれの結果を比較しました。
結果は意外なものでした。
魅力や自己中心性説得力同情の欠如集中力といったサイコパスの特性は凶悪犯罪者たちよりも企業の重役たちの間で多く見られたのです。
しかしサイコパスの特質がより反社会的な形であらわになるかどうかでは明らかな違いがありました。
言うまでもなく犯罪行動や物理的な攻撃性では犯罪者たちのスコアが勝り逆に規律や自己制御では劣っていたのです。
それだけではありません。
いわゆる英雄的と呼ばれる職業つまり警察や軍隊救命隊員たちの研究も最近行われていて同じような結果が出ています。
こうした職業の人々は恐れを知らず社会的に優位に立ちたがりストレスへの耐性が高いのです。
その一方で反社会性ナルシシズム衝動性は低かったのです。
更に具体的な例を挙げましょう。
2011年私はある調査を実施しました。
「英国サイコパス度調査」とでも言ったらいいでしょうか。
その類いで初めてのものです。
イギリスの労働人口におけるサイコパス的特性の分布を調べるのが目的でした。
参加者はウェブサイトで特別に考案された精神測定テストに記入しスコアを算定しました。
更に参加者には自分たちの職業についても詳しく記入してもらいました。
私はイギリスで最もサイコパス的な職業は何だろうかと考えていました。
皆さんにお聞きします。
サイコパス的職業のトップ10。
それと最もサイコパス的でない職業を考えてみて下さい。
ヘッジファンドマネージャー?「ヘッジファンドマネージャー」はい確かにリストの上位ですね。
他には?投資銀行家。
同じ類いですね。
もう一つ最もサイコパス的な職業を挙げてみて下さい。
(男性)法廷弁護士。
はい「弁護士」は間違いなく入っています。
では誰か最もサイコパス度が低い職業を当ててみませんか?小学校の教員。
はい「教師」は入っています。
リストを見てみましょう。
興味深い読み物になっていますよ。
特に日曜に教会に行くのを好まれる人には。
「聖職者」がトップ10に入っています。
「外科医」「警察官」「シェフ」これは興味深いですね。
明らかにプレッシャーの下で包丁を片手に働いてますもんね。
「弁護士」「ジャーナリスト」。
こちらはテレビやラジオではなく新聞や雑誌記者の事です。
競争が激しい環境ですからね。
教会は多分権力の操作に関連していますね。
私が話をしたある聖職者は「私は神を信じていません。
神が得意分野なだけです」と言っていました。
実に興味深い。
サイコパス的でないのはそちらの方が言ったとおり「教師」です。
私は有名な歴史的人物がこのサイコパスの殿堂にどのように並ぶのかにも興味がありました。
それを調べるために私は先ほどお話しした一般大衆のサイコパス度を測定するための精神測定テストを世界の歴史上の人物の伝記作家たちに配布しました。
ここでの最高得点は224です。
ざっと言ってサイコパス度が危険ゾーンに入り始める境界ポイントは168です。
非常に興味深い結果が出ていますがフレディー・マーキュリーはチャールズ・ダーウィンと同じようなスコア少なくとも同じゾーンにいます。
実に興味深いですね。
マーガレット・サッチャーは131から140とそれほど高くありませんね。
これには興味を持たれる人もいるかもしれません。
清教徒革命の指導者オリバー・クロムウェルと同じようなスコアです。
これには驚く人が多いです。
多くの人がサッチャーはサイコパスの典型だと思っていますが実は違うんです。
サッチャーについて調べるため測定テストの記入を政府内で彼女をよく知っていた2人の人物に頼みました。
2人ともほとんど同じ点数をつけました。
彼らがサッチャーについて言った事は彼女には天然のサイコパス性と呼ばれるものはなかったという事でした。
彼女は冷淡ではなく実際のところ舞台裏では非常に温かい人でした。
でも難しい局面では徹底した厳しさをもって共感や温かさを押し潰し不評であっても厳しい決断を下しました。
ですので生まれつきのサイコパスとはちょっと違っています。
141から160は真ん中辺りですね。
キリスト教の指導者たちが並んでいますね。
ウィンストン・チャーチルと皇帝ネロも同じようなスコアに位置しています。
この調査は継続中ですから今後より高い人物が見つかる可能性はありますが今のところサイコパス度が一番高い2人169と178は隠してあります。
挙手をお願いします。
誰が169で誰が178か当てて下さい。
この人たちはこれまでで168の境界を越えたただ2人の人間でもし彼らを直接テストしていたら恐らく臨床サイコパスとして分類したでしょう。
後ろの席の男性どうぞ。
(男性)現役ですけどオズボーン財務大臣とキャメロン首相?
(笑い)カット!亡くなっている人に限ります。
(女性)ヒトラー?アドルフ・ヒトラーは正解です。
ヒトラーは169点。
でも更に9点高い人がいるんです。
ヒントをあげましょう。
イギリスの歴史上とてもとても有名な人物です。
どうぞ。
(女性)ヘンリー8世?ヘンリー8世!よくできました。
すばらしい!ヘンリー8世は真性の臨床サイコパスで疑問の余地は全くありません。
アドルフ・ヒトラーが169でヘンリー8世が178です。
後で誰か個人的に査定してほしい人がいれば言って下さい。
でもあなたの友達とかは駄目ですよ。
(笑い)歴史上の人物をね。
オックスフォードは非常に優れた伝記作家であふれていますから。
皆さん何とも皮肉なものです。
これらの人物は悪魔のいたずらによって私たちが熱望する人格特性をまさに備えています。
特にサイコパスに魅了された人々が熱望するものです。
彼らは最も深刻な危険の中でさえも見事な冷静さを備え鼓動が高まる事はほとんどありません。
魅力とカリスマ性にあふれ自信家で無慈悲で自責の念に悩みません。
どうぞ。
先生が調査してきた歴史的著名人を見て男女で違いはありますか?はい。
リストにはほとんど女性は入っていません。
エリザベス1世が入っていますがかなり得点は低くマーガレット・サッチャーは少し上でした。
先ほどマーガレット・サッチャーは低いと言いましたけどね。
よく見ていくと確かに性別によって違いがあります。
実際にはサッチャーは女性にしては高得点です。
実は男性は一般的に女性よりスコアの点が高く男女のサイコパス性の発生率には大きな違いがあります。
全人口での平均的な発生率は大体1%から1.5%ですが男性の方が女性よりも発生率が高いのです。
なぜかは分かっていませんが仮説は3つほどあります。
一つは発育上の仮説でこれは人生の発達段階の初期で男子は女子とは異なった育てられ方をする事に起因するとしています。
男子は一般的により攻撃的で野心的になるように育てられます。
また女子は言語と感情を男子より早い年齢で発達させる傾向にあります。
言語と感情の面では男子はより遅い段階で追いつく傾向にありそれで女性は早くからより優れたいわゆる行動抑制能力を身につける可能性があるのです。
これが発育上の仮説です。
神経心理学面からの仮説は脳に本来備わっている男女間の違いによるものです。
もし私が大勢の女性参加者を研究室に呼んで例えばノイズ音のような嫌な刺激を与えたとしたら典型的な反応は不安や逃避などネガティブな行動の活性化でしょう。
もし同じ事を男性参加者のグループに行いやはりノイズ音で嫌な刺激を与えたとしたら典型的な反応は怒りや攻撃などのいわゆるポジティブな行動の活性化でしょう。
嫌な刺激に対する反応が男性と女性の脳では異なっていてそれが男性の方がサイコパスが多いもう一つの要因である可能性があります。
3つ目の要因は私が最も興味深いと思うもので社会学的要因です。
サイコパスというレッテルが否定的な意味合いを持つため臨床医は女性の患者を「サイコパス」と診断したがらない可能性があるという事です。
逆に言えば診断を受けている女性患者もその汚名レッテルから逃れたいがために質問に対して必ずしも正直に答えたがらない事も考えられます。
本当の理由は分かりませんがこれらの説全ての組み合わせである可能性が高いです。
発育上神経心理学的そして社会学的な3つの説です。
ではこの中にサイコパスがいるかどうかちょっとしたテストをしましょう。
これであなたのサイコパス性をはかってみましょう。
全部で11の質問があります。
それぞれ点数をつけて合計を出して下さい。
さて目の前の用紙に11の項目のスコアがあるはずです。
足して下さい。
合計した総合点を出して下さい。
では皆さん正直に答えて下さいね。
得点が0から11の方は?全体の8分の1程度ですね。
これは低いスコアです。
12から17の方は?会場の半数ですね。
平均点以下です。
意外でしたか?18から22の方は?これが平均枠です。
いよいよ緊張が高まってきましたね。
23から28の方は?あそこのお一人ですか?皆さん振り返って見てますね。
23から28というのは高い点です。
では29から33は何人いますか?皆さん辺りを見回していますね。
これは高得点で極めてまれです。
お断りしておきますがこれは診断ではありません。
皆さんのサイコパス度がどの程度かごく一般的に表してみただけです。
次に進む前に何か質問は?ご自身のサイコパス度の値はどのくらいですか?
(笑い)はい後ろの人質問は?冗談です。
私自身の値ですか。
そうですね。
実は…。
カメラの前で話していい事なのか…私のサイコパス値はかなり高めです。
私は心配したり神経質になったりするような事はありません。
すごく勝ち気にもなれます。
何か目標を定めたら他の事は忘れて集中しますし競争する場では人に同情する事はありませんね。
ルールは守りますけどかなり無慈悲にもなれますよ正直なところ。
私がサイコパスについて本を書いた理由の一つは父親を理解したかったからです。
私の父はまさにサイコパスでした。
父はロンドンの青空市場で商いをしていました。
株式市場ではなく青空市場です。
あらゆる種類のガラクタを売っていました。
どんな人物だったか例を挙げましょう。
私が9歳か10歳の頃私は父の仕事を手伝っていました。
夕方に父は「御飯に連れていってやろう」と言い安いインド料理屋に行きました。
初めて行く店でそこで夕飯を食べました。
食事が終わり会計をしようとした時父は突然立ち上がってスプーンでコップをチンチンと鳴らしスピーチを始めたのです。
レストラン全体が静まり返りました。
父は言いました。
「皆さんお越し頂きありがとうございます。
お近くの方も遠路はるばるお越し下さった方も皆さん全員に歓迎の気持ちを表したいと思います。
すぐ向かいにパブがありますがそこでささやかな二次会が開かれますので是非いらして下さい」。
父はこう言い終えると拍手をし始めたのでレストラン全体にも拍手が起こりました。
レストランの客は私たちとは全く面識がないのになぜこうなったか分かりますか?パーティーの招かれざる客と見られたくなかったのです。
天才的なトリックでした。
父にこう聞いたのを覚えています。
「本当はパブには行かないんでしょ?」。
父は言いました。
「もちろん。
でもレストランにいる連中は行くよ。
友達のマルコムがあのパブの経営を引き継いだばかりだが今夜は相当儲かるぞ!」。
(笑い)父はこういった事を考えもせずにやってのけてしまう人でした。
父と同じ事をやってくれと頼むなら一体いくらお金を積まなきゃならないでしょう。
しかし父は恥知らずで大胆不敵でした。
暴力的ではありませんでしたが今日お話ししたとおり暴力的な要素はサイコパスの条件ではありません。
遺伝子が全てではなくてラッキーだと思いませんか?後ろの人質問があるようですね。
遺伝について話がありましたがサイコパスになるかどうかといった点で遺伝的な傾向があると考えられますか?一般的に言って従来の「氏か育ちか」という議論は既に時代遅れであり現在では「エピジェネティクス」と呼ばれる分野が発達しています。
これは環境が遺伝子をどのように形成しどのように遺伝子のオン・オフを行っているのかを観察するものです。
ですから例えばあなたの遺伝子コードが古い図書館の本棚にある本の文章だと想像して下さい。
誰かがやって来て本を開くまでその文章が活用される事はありません。
ほこりをかぶった本の中にしまってあるままです。
さて誰かがやって来てその本を開けたとしましょう。
これが引き金となり初めてあなたのDNAが遺伝的特質が生きるのです。
大変シンプルな説明でしたがこれをサイコパスの話に当てはめましょう。
一般的な傾向として連続殺人犯や強姦犯になるような人物はサイコパス的な遺伝的性質を持っている事があります。
それが人生の初期段階で例えば子供の頃に受けた虐待や暴力といったトラウマによってスイッチがオンになるのです。
人格形成期のネガティブな体験も引き金となります。
いわゆる「邪悪なサイコパス」と呼ばれる人たちはほぼこのようなケースに当てはまります。
講義の最初の方で触れた表のようにもしあなたが遺伝的にサイコパス性を持っているけれども育った家庭環境が良く良い教育を受けて知的だとしたら…。
世の中には知的な連続殺人犯もいますけどね。
良い環境で育ったとしたら例えばビジネスの世界などで活躍するかもしれません。
つまりサイコパスは犯罪者になる条件ではないのです。
サイコパスが全ての問題の根源なわけではありません。
この世の問題に責任を持つべきはサイコパスではなく我々です。
離婚専門の弁護士に聞いてごらんなさい。
我々一般人がいかに互いに残酷な事をやっている事か。
サイコパスはかなり少数です。
悪い事の全てを彼らのせいにすべきではありません。
企業の重役たちのサイコパス度についてはカナダの心理学者ボブ・ヘアの研究でも裏付けられています。
先ほど名前を挙げた学者ですね。
ヘアはアメリカのトップ企業の重役200人以上の調査をしビジネスの世界と社会一般とでサイコパス性がどれほど違って見られるかを比較しました。
その結果をあまり誇張しない方がよいのですが驚くような発見がありました。
カリスマ性や創造的なプレゼン能力優れた戦略的思考コミュニケーション能力といった特性とサイコパス性との間には相関関係があったのです。
株のブローカーとして特に成功を収めている人たちというのはあるいは「高機能のサイコパス」と呼べるのかもしれません。
自分の感情を抑制する事にたけた人たちあるいは強力に感情を感じない人たちですね。
多くの企業幹部や一流の弁護士たちにもこの特徴があるのかもしれないというのです。
皆さんサイコパスは市場で貪欲に勝ちを収めるだけではなく他の意味でも貪欲な事はご存じですね。
殺人鬼テッド・バンディはフロリダ州の刑務所で処刑されましたが2009年カナダの研究者チームがこの連続殺人鬼の発言を分析する事にしました。
バンディは1970年代半ばの4年間にわたって35人の女性の頭蓋骨をたたき割った男です。
彼は警察の取り調べの中で標的にしやすい女性は歩き方を見れば分かると話していました。
「俺は最も冷酷な男だ」と言っていました。
これは確かにそうでしょう。
しかし研究者たちは彼の洞察力が特に秀でていたのではとにらんだのです。
私も調べてみる事にしました。
サイコパスたちが本当に他人の弱みを見つけるのにたけているのならその能力を社会の役に立てる方法があるはずです。
空港で友達と会っていた時ひらめきが訪れました。
誰でも税関を通る時には何も隠し持っていなくても不安になるものです。
でも何かを隠していたとしたらどんな気持ちになるのでしょう?ダットン博士が考案したこの実験ではまず30人の学生をサイコパス度の高いグループとそうでないグループに分けました。
そして両グループの前を5人の人たちに歩かせそのうち赤いハンカチを隠し持つ人物を言い当てさせる実験です。
サイコパスの観察能力の高さを試すのが目的でした。
簡単な実験です。
教室に座って5人が教室に入って出ていくのを観察するだけです。
実はこの調査には更に少し仕掛けがあります。
5人のうち「有罪」なのはつまり赤いハンカチを隠し持っているのは誰か?5人は緊張しながら部屋を歩きました。
税関の役人として適任なのはどちらのグループだったのでしょうか?サイコパス度が高い学生たちの野生の勘は信頼できるのか?それとも当てにならないのか?実験の結果は想像以上でした。
サイコパス度が高かった学生の70%以上がハンカチを隠し持っていた人を正しく当てたのに対して低かった学生たちは僅か30%だったのです。
他人の弱みを見いだすのは連続殺人鬼の特技ですが空港では実に役に立つのですよ。
実のところボディーランゲージの微妙な部分を読み取るという点でもサイコパス性の強い人たちは秀でているのかもしれません。
例えば表情で本当なのかうそを言っているのかを区別するという点で。
それを示す証拠があるのです。
少しだけ紹介しましょう。
皆さんがどのくらい表情を解読できるのか。
ケンブリッジ大学の心理学者サイモン・バロン=コーエンが考案した「目を見て心を読むテスト」を使います。
画面に映される目の表情からその人物の感情を読み当てるテストです。
観察力洞察力をはかるのが目的です。
何をするかというとこれから何枚か画像を映しますが目の辺りだけを見せます。
皆さんにはその人物がどんな気持ちなのかを推察してもらいます。
複数の選択肢の中から選んで下さい。
果たしてこの人は「楽しそう」なのか「いらだっている」のか「慰めている」のか「退屈」なのか?皆さん手を挙げて下さいね。
画像は5枚あります。
5点満点というのは極めてまれですが満点を取れる人がいるかどうか見てみましょう。
この女性が楽しそうに見える人は何人いますか?かなり多いですね。
退屈していると思う人は?1人。
正解は…「楽しそう」です。
正解者は何人ですか?2枚目の画像に行きましょう。
この女性がイライラしていると思う人は何人いますか?驚いていると思う人は?夢想していると思う人は?夢想しているんですね。
正解を言う前に手を挙げて下さいね。
言ったあとじゃなくて。
(笑い)では2問とも正解の人は何人いますか?それでは3枚目。
男性の表情が反抗的だと思う人は?強い好奇心を抱いているあるいはすまなそうだと思う人は?いないんですね?正解は「反抗的」。
3問とも正解だった人?どんどん減ってきてますね。
4枚目です。
この男性が浮ついていると思う人は?恐れていると思う人?面白がっている。
後悔している。
正解は「後悔している」。
4枚とも正解の人は?さっきより増えてるじゃないですか!結構ですね。
では最後の5枚目です。
何かに固執していると見える人は?ふざけていると思う人は?リラックスしている?正解は…「固執している」。
5枚とも正解だった人は?結構いますね。
よくできました!さて先ほどサイコパスが人の弱みに対していかに繊細なアンテナを持っているかそしてどれだけ殺人者としての本能が鋭いかについて触れましたが実は救命の場面でもたけていると言ったら驚かれるでしょうか?一体どういう事なのか例を挙げましょう。
これは「事例1」と呼びましょう。
列車が線路を猛スピードで走ってきます。
線路の上には5人の人が身動きとれない状態でいます。
幸運にもあなたは線路の軌道を変えるスイッチを見つけました。
スイッチを入れれば列車は5人がいる方向には行きません。
しかし軌道を変えた先には身動きとれない人が1人いる。
その人が死んでしまうでしょう。
ここで問題です。
あなたはスイッチを入れますか?これは「トロッコのジレンマ」という有名な哲学的設問です。
何人の人がスイッチを入れますか?じゃあスイッチを入れない人は?大多数がスイッチを入れると答えましたね。
ほとんどの人はこういう状況では少ししか悩みません。
必ずしも良い選択肢ではないとはいえ5人の代わりに1人を殺すという考えはこの中では一番マシな選択肢だと思いませんか?それでは「事例2」です。
同じように列車がコントロールを失って5人の方に猛スピードで突っ込んでいきますが今回あなたは線路の上の歩道橋にいて目の前に巨漢の見知らぬ人が立っている。
5人を助ける唯一の方法はこの巨漢を線路の上に突き落とす事です。
この人は確実に死にますが列車の進路の障害物となり5人の命を助ける事ができる。
さて問題です。
あなたはこの人を突き落としますか?手を挙げて下さい。
前回よりも少ないですね。
それでは突き落とさないという人は?ほとんどの人ですね。
さてこれは強いジレンマです。
「事例1」と同じように命を5か1かで比較する事に違いはありませんがこちらはかなり難しく感じられるでしょう。
しかしなぜそうなってしまうのか。
これはつまり一種の「温度差」の問題なのです。
「事例1」は「非個人的ジレンマ」と呼ばれるものです。
これらは我々が「冷淡な共感」と呼ぶすなわち合理的思考と関わっています。
一方「事例2」は「個人的ジレンマ」と我々が呼ぶものです。
これには脳の感情領域である桃体が関与し我々が「温情の共感」と呼ぶものつまり他人の感情を自分のもののように感じる事が関わってきます。
さてサイコパスはというと「事例1」ではほとんどの人と同様に軌道スイッチを切り替えて5人の代わりに1人を犠牲にしようと行動します。
しかし次が重要な点です。
ほとんどの人と違ってサイコパスは「事例2」の行動にほとんどジレンマを感じないのです。
サイコパスは線路の上に巨漢の人を突き落とした方がよいという場面では一瞬のためらいもなくそう行動します。
またこの違いには異なる神経的な特徴が見られます。
サイコパスと普通の人の脳の動きは非個人的ジレンマにおいては同一のパターンを示しますがより個人的な問題になると根本的に異なるのです。
想像してみましょう。
例えば私があなたに2つのジレンマを与えてあなたの脳のスキャンをとります。
恐らくあなたがこれらのジレンマを解決しようとする様子が映るでしょう。
つまり思考が非個人的なものから個人的なものへと移行する瞬間脳の感情領域である桃体とそれに関わる脳回路がピンボールマシンのように光るのが確認できます。
しかしサイコパスではそのような事は起こりません。
巨大な神経回路は光りもせず非個人的なジレンマから個人的なジレンマへの移行は闇の中で行われるのです。
特性を録音装置に例えてさまざまな組み合わせを調整できるつまみだと見なすと3つの結論にたどりつきます。
結論の1つ目はサイコパスである事は0か1か白か黒かという問題ではなくむしろ身長や体重のようなものにより近いのです。
我々は皆1本の線上のどこかにいます。
結論の2つ目はつまみには決定的に正しい設定などは存在せずむしろ自分が置かれる特定の状況の中でそれに応じて変化するという事です。
そして結論の3つ目はつまみを自分のふだんの平均値より少し上げる事が求められる職種があるという事です。
そんな時は緻密にサイコパスの特性を整える事が求められます。
驚くに値しない事でしょうがもしあなたが自分の職業に必要な能力を持ち合わせていないとしてもごり押しとハッタリでのし上がっていく事は可能です。
これは利口で悪質なサイコパスの多くが実際にやっている事です。
しかし更に面白いのはもしあなたが仕事に必要な能力を持っておりなおかつある種のサイコパス的特性を持ち合わせていればそういう特性を持っていない場合と比べて仕事の成果が上がるだろうという事です。
皆さん覚えておいて下さい。
何かをうまくやろうとするためには2つの事が必要です。
能力と同時にその能力を最大限活用できる人格が求められます。
例えばある人に悪いニュースを伝えるあるいは難航しそうな電話をかけなければならないとします。
先延ばしにする人グズグズする人はすぐに受話器を取って電話をかける人と比べて実際にかなり多くの苦痛を経験します。
なぜなら行動に移す事を想像して感じる苦痛は実際の行動によって起きる苦痛よりもひどいからです。
先延ばしにする人は行動に伴う苦痛だけでなく想像を巡らす事で起こるあらゆる苦痛も経験しなければならないのです。
今度もしやりたくない事をしなければならない状況に直面したら自分に問いかけて下さい。
「一体いつから自分の気持ちが乗らなければ何もできなくなってしまったのだろう」と。
つまり感情と行動を切り離す。
まさにサイコパスがしている事です。
あなたのサイコパス度をやや高める事によって学べるものがあります。
そうする事で少し自信がついたり成功に近づいたりするかもしれません。
(拍手)2015/08/07(金) 23:00〜23:55
NHKEテレ1大阪
心と脳の白熱教室 第3回「あなたの中のサイコパス」[二][字]
自分はなぜこんなに後ろ向きなのか。あいつはなぜあんなに前向きなのだろう。最新科学で性格の悩みを解き明かすとともに、実践的な性格改造に挑む特別講義を紹介する。
詳細情報
番組内容
この回はフォックス教授のパートナーである、ケヴィン・ダットン博士の講義。博士の専門はサイコパス(精神病質者)。よく猟奇犯罪と結び付けられるがダットン博士によると誰しもがサイコパス的気質をもつといい、実際博士の研究では大企業のCEOなど社会的に成功している人たちのサイコパス度が高いという。困難な状況下でも冷静に物事に対応するサイコパス的特性をうまく活用する事で人生に役立てることもできるという。
出演者
【出演】オックスフォード大学教授…エレーヌ・フォックス,心理学者…ケヴィン・ダットン
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
趣味/教育 – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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英語
サンプリングレート : 48kHz
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