卵子提供:ボランティアから採卵、夫の精子と体外受精

毎日新聞 2015年07月27日 11時52分(最終更新 07月27日 12時51分)

卵子提供の流れ
卵子提供の流れ

 病気で卵子のない女性患者を支援するため、無償ボランティアからの卵子提供をあっせんする神戸市のNPO法人「卵子提供登録支援団体(OD−NET)」は27日、2人の30代のボランティア女性から採卵し、それぞれ提供を希望する患者の夫の精子と体外受精させて受精卵を作製したと発表した。年内にも患者の子宮に移植する。親族や知人以外の見ず知らずの第三者から卵子提供を募り、実施する不妊治療は国内初。

 同団体の岸本佐智子理事長らが、厚生労働省で記者会見した。岸本理事長は「夫婦間以外の体外受精には賛否両論あるが、望む夫婦はたくさんいる。無償で卵子提供するボランティアのためにも早急な法整備を求めたい」と話した。

 卵子提供者は、匿名や無償を条件に応募した子どものいる女性2人。提供を受ける患者2人はともに30代の既婚者で、早期閉経で卵子がないと診断された。

 小児科医や弁護士で構成される「マッチング委員会」で、患者の年齢や血液型などを参考に提供を希望する患者と提供者を組み合わせ、臨床心理士によるカウンセリングなどを経て、倫理委員会が提供を承認した。治療施設、居住地域などは「当事者の特定につながる」として公表しなかった。

 同団体は2013年1月に提供者募集を開始。同年5月、ボランティア女性3人からの提供相手が決まったと発表したが、提供者の意思撤回により提供には至らなかった。【阿部周一】

 ◇卵子提供者が母か、産んだ女性が母か…議論も

 神戸市のNPO法人「卵子提供登録支援団体」(OD−NET)が取り組む第三者の無償ボランティアから卵子提供を募る事業で、初めてボランティア女性から卵子が提供され、匿名の第三者の提供卵子を用いた妊娠、出産が近付いた。病気で卵子のない患者の期待を集める一方、「法整備がないままの実施は問題」と指摘する専門家も多い。

 国内での卵子提供は、1998年に諏訪マタニティークリニック(長野県)が妹からの提供を受けた女性の出産を発表して以降、一部の医療機関が姉妹や知人を提供者に実施してきた。だが、国内の法整備は進まず、米国やタイ、台湾など海外へ渡航して有償で卵子提供を受ける女性も多い。

 一方、卵子提供には課題も多い。遺伝的につながりのある卵子提供者が母か、産んだ女性が母かについて、現在の民法には規定がない。自民党のプロジェクトチームが「産んだ女性を母」と親子関係を定める民法特例法案の今国会提出を目指すが、成立の見通しは立っていない。提供者に排卵誘発剤の副作用など健康リスクが起きる恐れもある。

 また同団体の卵子提供では、生まれた子が15歳になり、希望すれば提供者の氏名などの情報が開示される「出自を知る権利」を認める。だが、親が子に治療についてどう伝えるか▽子が事実をどう受け止めるか▽子が卵子提供者と会うことを希望した場合にどう対応するか−−など長期にわたる課題が想定される。【阿部周一】

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