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僕が「こう見た」ということより世界が「こうあった」というのを撮りたい

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鈴木理策に学ぶ、安心できないくらい「美しい」写真を撮る方法

インタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:高見知香(2015/08/07)

大判カメラで鮮やかに撮影、現像された、聖地・熊野の山河や、咲き誇る桜、一面の銀世界。レンズを通して生まれる鮮明さとボケの織りなす妙も、観る者をその世界に引き込む――。しかし、鈴木理策の写真は、同じような「わかりやすい」対象を写した優等生的な「美しい写真」とは異質の何かを、常にこちらに投げかけてきた。そこで、東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の大規模個展『鈴木理策写真展 意識の流れ』を訪ね、「『見るということ』そのものを提示したい」という写真家の真意、またそこへ辿り着くまでの軌跡をじっくり聞いた。その異質な「美しさ」の秘密を、ぜひ知ってほしい。

PROFILE

鈴木理策(すずき りさく)
1963年和歌山県生まれ。1980年代後半から写真を媒体に創作活動を始める。1998年に故郷の熊野をテーマに初の写真集『KUMANO』を、翌年には恐山を撮った『PILES OF TIME』を発表。聖地へ向かう道程がロードムービーのような連続写真の手法で収められる、物語性をはらんだ新たな表現が評価され、2000年に『第25回木村伊兵衛写真賞』を受賞。2006年にニューヨーク、2011年にチューリッヒで個展を開催するなど、国際的に活動の場を広げている。
鈴木理策|Risaku Suzuki

写真を見ることって、今いるのとは違う場所・時間を見ることだから、基本的に落ち着かない気分になるはず。

―今回の個展は、鈴木さんのライフワークと言える熊野の自然をとらえた『海と山のあいだ』、雪景色の『White』、咲き誇る『SAKURA』などの代表的シリーズに、最新作が加わるものです。約100点の作品はどれも美しい一方、たとえば同じような対象を撮った観光・広告写真がもたらす「安心できる感動」とは異質なものを感じます。

鈴木:ええ、そうですね。

『鈴木理策写真展 意識の流れ』展示風景

『鈴木理策写真展 意識の流れ』展示風景
『鈴木理策写真展 意識の流れ』展示風景

―鈴木さんは、いわゆる「絵作り」をしないそうですね。風景を前に、ここかなという場にパッと三脚を立て、自分が最初に気になった部分にピントを合わせ、後は周囲の風や光をきっかけにシャッターを押す。そんな撮り方をしていると聞きました。

鈴木:言葉にすると「ホントですか?」って話ですよね。でも、じっくり構図を決めて、シャッターチャンスを待って……だと、写真は「整って」きちゃう。写真を見てくれる人とのコミュニケーションも、その部分に終始してしまいます。見どころが決まってしまう、というのかな。僕の写真はむしろ、特定の見どころはなくしたいという気持ちがあります。

―そのせいか、美しさに見入ると同時に「なぜここでシャッターを押したのか?」「なぜここにピントを合わせたのか?」という謎が自然と湧いてきます。「この写真は、どこをどう見たら良いのだろう」という感じもあって。

鈴木:それは、写真を見ることを豊富に体験しているからですよね。でも写真を見ることって、今いるのとは違う場所・時間を見ることだから、基本的に落ち着かない気分になるはず。特に今回の展示のように、大きなサイズに一定以上のクオリティーでプリントして、空間を作り込んで観せる環境だとそうでしょう。観る側は自然といろんな意味を見出そうと、彷徨うような経験・時間・記憶が生まれる。それは単に何か写っている、メッセージを発する、というのとも違うものになると考えています。

鈴木理策
鈴木理策


僕が「こう見た」ということより、世界が「こうあった」というのを撮りたい。

―展覧会タイトル『意識の流れ』もそことつながるのでしょうか?(「意識の流れ」は心理学で「人の意識は静的な配列で成り立つのではなく、動的なイメージや観念が流れるように連なったもの」とする考え方にも使われる)

鈴木:僕が「こう見た」ということより、世界が「こうあった」というのを撮りたい。それによって、「俺はこう撮りました!」という「写真のための写真」とは違う、むしろ自分が見損ねた世界を感じ取れるんじゃないか、そんな風に思っています。だから自分がそこにいた証とかではなく、むしろ今もこの風景はあそこにあるのだろうな……と思いを馳せることもあります。

―撮ったフィルムを現像したとき、自分が見たつもりのイメージとも差異がある、そのことにも関心があるそうですね。

鈴木:写真には撮る行為と、後にそこから選んでプリントする作業があって、両者の間にもズレが生じます。僕は撮った写真を選ぶときも、実際の風景を前にしたような「初めて見る感じ」があって。そんなバカな、と言われそうですけど、実際そういうことは起こります。撮ることとその後の作業は、身体的にもかなり違う行為だし、それをふまえることで、でき上がる写真も変わってくると思うんですね。

『SAKURA 10, 4-45』 2010年 ©Risaku Suzuki / Courtesy of Gallery Koyanagi
『SAKURA 10, 4-45』 2010年 ©Risaku Suzuki / Courtesy of Gallery Koyanagi

『海と山のあいだ14, DK-335』 2014年 ©Risaku Suzuki / Courtesy of Gallery Koyanagi
『海と山のあいだ14, DK-335』 2014年 ©Risaku Suzuki / Courtesy of Gallery Koyanagi

―逆に、構図を決め込んで、狙って撮るようなやり方だと……。

鈴木:写真家はそのときの記憶が頭にあるから、写真の中からお目当てのイメージを「探す」ことになるでしょう。それで写真家の考える見どころを中心に伝えるのも良いとは思う。でも、作為を消して撮った結果「写ってしまう」ことを引き受けた写真は、どこを見ていいかわからないからこそ、じっくり見られることにもなると考えています。

―お話を伺うと、そうした考えの上であえてなのか、過去にも多くの人が撮ってきたようなモチーフを選んでいるようでもあり、興味深いです。2000年に『木村伊兵衛写真賞』を受賞した『PILES OF TIME』シリーズでは恐山も撮っていますが、それまでの写真家がとらえたのとは違う、光の豊かな光景でした。

鈴木:たしかに僕がモチーフにしてきたのは、過去に固定化されたイメージがあるものが多い。「桜とは、雪とはこういうもの」というイメージがあり、そこから「桜の写真って、雪の写真ってこういうイメージだ」となっていく。でも、僕のような方法で写真を撮るときは、そんな対象のほうが、かえって見る側に新鮮に感じてもらえるかなというのはあります。


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