2015-08-07
劇場アニメオーディオコメンタリー傑作選
アニメのオーディオコメンタリーが好きだ。とりわけ、スタッフコメンタリーと呼ばれる演出家やアニメーターなど、制作スタッフによる裏話を聴けるものがいい。今回は劇場公開されたアニメ映画のコメンタリーの中から、聴き応えのある傑作をチョイスして紹介したい。あくまで自分の聴いた範囲の作品になってしまうが――、一度まとめておくにも良い機会だった。また、レンタル版にコメンタリーが収録されているかどうかも合わせて記しておこうと思う。参考までに。
■関連サイト:アニメDVD・BDのオーディオコメンタリー出演者一覧
まずはアニメ映画コメンタリーの「マストアイテム」と呼べる3本。
■風の谷のナウシカ (レンタル版収録有り)
これが日本一有名なアニメコメンタリーではないか。当時一原画マンとして参加し、巨神兵のパートなどを担当した庵野秀明と演出助手だった片山一良による実況解説。話の中心はあの「ナウシカの胸の大きさについて」や監督の宮崎駿にまつわる事柄だが、各アニメーターの仕事ぶりや撮影処理のテクニックをプロの視点から語るパートもあり、興味をそそられる。宮崎駿論として、あるいはアニメの技術論としてぜひ聴いておきたいコメンタリーだ。
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■うる星やつら ビューティフルドリーマー (レンタル版収録有り)
『ナウシカ』と同じく、アニメ史の節目となった1984年のアニメ映画『ビューティフルドリーマー』。コメンタリーも負けず劣らず、歴史的価値の高い内容となっている。押井守による当該作の解説は各媒体で手広く行われているが、このコメンタリーは演出・西村純二の存在が大きい。何故なら当時の現場の状況や記憶をたどれる押井守以外の人間、という稀有な立場なのだ。押井組の常連・千葉繁と手馴れた舵取りの中、鋭い洞察をみせる司会の池田憲章というふたりの豪腕も実に頼もしい。
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■劇場版 エースをねらえ!
出崎統監督の話はダンディズムに溢れ、陽気で洒落ている。この『エースをねらえ!』はそんな出崎統の洒落っ気を味わえると同時に、画面構成の技術や演出の何たるかを徹底的に聴くことのできる極めつけの一品だ。聞き手にアニメスタイル編集長という人選もすばらしい。出崎統監督は『ブラック・ジャック 劇場版』『劇場版 AIR』『ゴルゴ13 劇場版』『家なき子 劇場版』らのコメンタリーにも出演しており、合わせて聴くと一層出崎ワールドを堪能できる。
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続いて、作画やアニメーターに興味があるのなら、抑えておきたい作品群。
■アフロサムライ (レンタル版収録有り)
出演者/岡崎能士、木崎文智、飯島弘也、笠間寿高
■時をかける少女
■DEAD LEAVES (レンタル版収録有り)
出演者/今石洋之、今井トゥ−ンズ、森下勝司
■ストレンヂア 無皇刃譚
出演者/安藤真裕、伊藤秀次、富岡隆司、中村豊、渡辺マコト、木村淳一
■鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星
出演者/小西賢一、夏目真悟、押山清高、永野優希、村田和也、宮昌太郎
■ももへの手紙
共通しているのは各パート(カット)の担当原画に関する情報や作監修正の有無、その芝居がいかに巧いものであるか、といった作画にまつわる話題を中心に語っていること。参加アニメーターの裏話・作画関連のTIPSを聞きたいのなら、最高の素材。何しろ文章ではなかなか伝わりにくい現場の雰囲気やニュアンスを肉声で聞けるのだ。固有名詞がバンバン飛び交うマニアックさはあるが、画面を観ながら話してくれるので自然と覚えられてしまう。しかも仲間内で話しているからか、興が乗ってくるとまさかの話題に飛ぶこともある。たとえば、『ももへの手紙』のコメンタリーで『ボトムズ』の名前が出てくるくだりがそれだ。沖浦啓之監督のアニメアール時代を知るファンならニヤリとすること請け合い。横道に逸れてしまっても楽しい。それが作画コメンタリーの特徴かもしれない。
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さて、次は一粒で二度美味しいものを紹介しよう。スタッフコメンタリーがふたつ付いているタイプだ。
■マイマイ新子と千年の魔法 (レンタル版収録有り)
2.出演者/片渕須直、室井ふみえ、木村佳史子、白飯ひとみ、岩瀬智彦、松尾亮一郎、山本和宏
■WXIII 機動警察パトレイバー (レンタル版収録有り)
ただでさえ詳しい制作者の話を違う角度から二度聴けてしまう。それはつまり微に入り細を穿つが如く、しゃぶり尽くせるということだ。都合3回以上同じ映画を観て、大事小事を隅々まで知る。そこまで行けば立派な“通”だろう。また、知識が頭に入って初めて見えてくる世界もある。作品解釈はさまざま、されど作り手の意図という見えざる手が見えている状態では、その手の上に解釈を重ねたくなる。あるひとつの「正解」を知ってなお、深めたい部分が出てくるのだ。その欲求と刺激の体験がスタッフコメンタリーを二度聴く行為の醍醐味ではないか。まことに美味しく、知的好奇心をくすぐられるコメンタリーだ。
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最後は唯一無二、とんでもないものを残していったコメンタリーで締めたい。
■映画 けいおん!
出演者/山田尚子、堀口悠紀子、内海紘子、門脇未来、石原立也、池田和美
山田尚子・堀口悠紀子のコンビは業界屈指である。クリエイティビティは言うに及ばず、コメンタリーの面白さにバロメータがあれば、かるく上限値に達しているだろうと思わせられる。放っておくと何時間でも喋り続けていそうな“いつもの感じ”が心地よく、しかしプロの所以たるこだわりの眼差しにドキリ。趣味性の高さを驚くべき細部へと仕立てているのは、こういう視線があるからかと得心する。キャラクターへの惜しみない愛情を披露するのもこの二人ならではかもしれない。照れがないのだ。「可愛い」をあんなに連呼できるのは、作品同様“お茶会”の特権だろう。ただちょっと、堀口さんは木上さんの名前を呼びすぎである。もっとやろう。
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自分にとってオーディオコメンタリーの有無は、ビデオグラムを購入する大きな指針だ。封入特典やブックレットも気になるが、それ以上にコメンタリーは付いているのか、だれが出演しているのかということを重要視する。今は共有の時代だと思う。リアルタイムで感想を共有し、関わったスタッフのコメントすら、日常的に流れてくる時代。コメンタリーは公共的でありながら、私的なものだ。だれでも聴くことができるものにもかかわらず、それが共有されているかといえば、そうでもない。その秘した気分が好きだ。
あと注意して欲しいのは便宜上「スタッフコメンタリー」と書いているけれども、たとえば監督とキャストが出演し、濃い制作裏話を展開している作品も存在する。『言の葉の庭』や『イヴの時間』が代表例。中には演じているからこそ飛び出すキャストならではの快刀乱麻な意見だってある。スタッフにしてもプロデューサー職がその実、種類豊富であるように「スタッフ」と一概に考えず、その役割と立場を留意しておきたい。酒類が用意されている収録現場だってあるのだから、「勢い」にも注意は必要だ。
他、推薦タイトルを挙げるなら、『鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』『Genius Party』『パーフェクトブルー』『サマーウォーズ』など。高畑勲・才田俊次が出演したことで注目の『セロ弾きゴーシュ』も聴いておきたいタイトル。まさかまさかの高畑勲コメンタリー出演。ならば宮崎駿コメンタリーもいつか、なんて考えたくなるのだけど……どうですか、鈴木さん。
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