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 3年前に急死した東京・神田神保町の古書店創業者の80代の妻が、東京国税局の税務調査を受け、相続した約3億円の財産について遺産隠しを指摘された。創業者は生前、仏壇など見つかりにくい場所に割引債や現金を置いていたが、妻はそれを知らなかったという。夫の死後、偶然見つけたが申告していなかった。

 追徴税額は重加算税を含め1億数千万円。妻は納付を済ませたが、「隠すつもりはなかった。夫がひとこと言っておいてくれれば」と話している。

 創業者は別の老舗古書店で修業を積み、約60年前に独立した。店は史料的価値の高い書籍を取りそろえ、作家の松本清張や著名な歴史学者も生前よく利用したという。しかし、3年前に急に体調を崩して入院し、まもなく亡くなった。遺言は書いていなかった。

 代理人弁護士らによると、妻は夫の死後、預貯金などの相続財産を整理して申告。ところがある日、自宅で仏壇と天井の隙間の拭き掃除をしていて、計約1億8千万円の無記名の割引債を見つけたという。夫と付き合いのあった証券会社に相談し、発行元の金融機関で現金化した後、大半は証券会社に預けた。「夫を亡くして頭が真っ白で……」。申告することまで気が回らなかったという。

 しばらくして、東京国税局の調査官が自宅にやってきた。割引債のことを知っている様子で「他にも現金化したものがあるのでは」と聞かれた。妻は親族と一緒に家中を探し回り、クローゼットと壁の隙間から紙袋に入った約1億2千万円の現金を発見。割引債と合わせ計約3億円が重加算税の対象となったという。

 親族らは取材に「(創業者は)たたき上げで、何でも1人でやってしまうタイプ。割引債や現金のことも家族に伝えていなかった」と話した。(水沢健一、磯部征紀)