社説:有識者報告書 「和解」に資する談話を
毎日新聞 2015年08月07日 02時31分
安倍晋三首相の戦後70年談話について討議を重ねてきた有識者会議が報告書をまとめた。首相はこれを踏まえ、終戦記念日の前日に「安倍談話」を公表する予定だという。
報告書の構成は大きく「20世紀の教訓」「戦後日本の歩み」「欧米やアジアとの和解」「21世紀のビジョン」の4分野に分かれている。
このうち20世紀の教訓は、首相談話の歴史認識に直結する部分だ。その内容は、おおむねバランスの取れた妥当なものだと評価できる。
報告書は、産業革命で先んじた西欧が19世紀に世界の植民地化を進めたものの、20世紀初めに「ブレーキがかかった」と指摘している。
さらに第一次大戦後に中国をめぐる9カ国条約(1922年)や不戦条約(28年)が成立していたにもかかわらず、日本は「満州事変(31年)以後、大陸への侵略を拡大」し、「世界の大勢を見失い、無謀な戦争でアジアを中心とする諸国に多くの被害を与えた」と表記した。
日本の植民地政策については「民族自決の大勢に逆行し、特に30年代後半から植民地支配が過酷化した」と書き込んだ。
つまり戦後50年の村山富市首相談話にあった「国策の誤り」「植民地支配と侵略」「多大の損害と苦痛」「痛切な反省」などのキーワードをほぼ踏襲する認識が示されている。
有識者会議の16人は、安倍首相の私的な選任だ。歴史認識の確定を委ねられたわけではない。「侵略」の表記については、同意しない少数意見があったことも明記された。
とはいえ、首相が自らの談話のために集めた会議で、村山談話と同趣旨の内容が歴史認識の主旋律になった意味は小さくない。
もしも首相がこの部分を談話に反映させなかった場合、内外に極めて不自然な印象を与えるだろう。
報告書には穏当ではない表現もある。各国との和解の歩みを描いたパートの韓国に関する記述だ。
日本側が努力しても、韓国政府が「ゴールポスト」を動かしてきたと報告書は指摘した。韓国側の「心情」的な外交姿勢を批判するのに、日本も感情的な表現を用いるのは決して得策ではなかろう。
ただ、本質はあくまで首相談話の内容である。
70年談話に取り組む安倍首相の動機が、村山談話への不満であったことは過去の言動から疑いの余地がない。「全体として引き継ぐ」と述べながら、自ら「侵略」と明言するのを意識的に避けてきた。
70年談話は安倍氏が個人の歴史観を披歴する場ではない。日本を代表する責任者の言葉だ。その性質を自覚し、近隣国との「和解」に資するものに仕上げるべきである。