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迷宮の王 作者:支援BIS

第1部 ミノタウロス

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第10話 五十階層





 ミノタウロスは、五十階層のボス部屋にいた。
 最上階層にたどりつき、そこから下層への移動を開始して六日目である。
 敵が弱いと感じたら、とにかく階段を探して下に降りてきた。
 いくつかの階ではボス部屋に足を踏み入れたが、ミノタウロスの飢えを癒す強敵はいなかった。
 細剣使いに続いて魔法使いを倒し、一気にレベルアップしたため、浅い階層では物足りなかったのである。

 この階層に来て、やっと手応えを感じた。

 この階のボスは、巨大なリザードマンだった。
 両手に曲刀を持ち、威力と速度と技巧のある連続攻撃を仕掛けてきた。
 隙あらば足蹴りや頭突きも飛び出すし、尻尾は恐るべき威力を秘めていた。
 ミノタウロスは、ひどくこの敵が気に入った。

 長時間の闘いを楽しむうち、長剣が折れたので、三十階層のボスから得た巨大な棍棒で、とどめを刺した。
 棍棒も悪くない。
 しかし、ミノタウロスの興味は、刀に向いていた。
 大きく、重く、頑丈で、思いっきり振り回して相手を叩き切ることのできる刀が欲しいと思った。

 リザードマンが消えたとき、持っていた二本の曲刀も一緒に消えたが、あとに、より大きく、より美しい曲刀が現れた。
 ミノタウロスは、座り込んで、しげしげと戦利品を眺めた。

 もう少し大きく、もう少し重ければなあ。
 だが、美しい刀だ。
 強い力を感じる。

 ミノタウロスは、その曲刀を、当面の武器にすることに決めた。
 少し考えたあと、右手に曲刀を持ったまま、地面に置いていた棍棒を、左手に取った。
 右手に、刀。
 左手に、棍棒。
 ミノタウロスは、リザードマンの二刀流の剣技を思い出しながら、この二つの武器を両手に持って敵と闘うおのれの姿を、思い描いてみた。

 何物かが近づく気配を感じて、入り口のほうに向き直った。
 六人組の冒険者が、部屋に入ってきた。
 盗賊剣士、剣士、魔法使い、アーチャー、神官戦士、魔法戦士という組み合わせである。
 油断なく戦闘隊形を取りながら、言葉を交わしている。

 「おい。
 あの転送屋、五十階層と十階層を、間違えやがった」

 「いや、そんなはずないって。
 部屋の外は、確かに五十階層だったよ」

 「じゃ、なんで、牛頭(うしあたま)がいるんだよっ」

 「うーん。
 持ち場を交換したのかなあ」

「お、なるほど。
 モンスターだって、同じ部屋で同じように殺され続けたら飽きるもんなあ。
 たまには、違う部屋で、違うレベルの冒険者に殺されたいよなあ。
 って、あほかっ」

 「どうでもいいけど、こいつ、ミノタウロスと思えない強さだわ」

 「そうだねえ。
 それに、くれる物くれるんなら、牛頭だろうがトカゲ野郎だろうが、どっちでもいいさね」

 「いや、ミノは、ドロップしょぼいですから」

 「ほっほっほ。
 そうでもないようじゃ。
 見なされや。
 右手には、鮮血のシミター、左手には、タートルクラッシャーを、すでに持っておる」

 「恩寵品が二つですか。
 しかも、片方は、レアドロップ。
 なかなか、もてなしの心を知ったミノタウロスですね。
 アースバインド」

 冒険者たちは、無駄口をたたきながら、じりじりとミノタウロスとの距離を詰め、最適な距離に入った瞬間、いきなり戦闘を開始した。
 指示も打ち合わせもなく、こうした行動が可能であるのは、このパーティーの連携が練り上げられていることを示している。

 ミノタウロスは、足止めの魔法が発動する瞬間に、ごく小さく跳躍し、発動を不発に終わらせる。
 魔法使いは、短く詠唱して、まず自分に、次いで前衛から順番に、ヘイストをかける。
 攻撃速度と移動速度上昇の付与魔法である。

 盗賊剣士は、ミノタウロスの左側に回り込むと、左手でフラッシュ・パンチを投げ付け、右手で脇腹めがけてサーベルの小刻みな突きを仕掛ける。

 神官戦士は、奉ずる神に祈りを捧げつつ、剣士に息を吹きかけた。
 わずかな時間であるが、魔法防御と物理防御を大きく上昇させる魔法である。

 ぱぱぱぱぱぱっ。

 ミノタウロスの、顔のすぐそばで、続けざまに破裂音を発しつつ小さな閃光がはじける。
 ただそれだけのアイテムであるが、動物系のモンスターは、これを嫌がる。
 ところが、このミノタウロスは、閃光にも破裂音にもまったく頓着せず、左手の棍棒を振って、盗賊戦士を牽制する。
 同時に右手の曲刀を斜めに振り下ろし、剣士の首を斬り飛ばす。
 曲刀の軌道が、直角に曲がり、神官戦士の左肩を切り裂く。
 ミノタウロスが頭をかがめ、その頭上を魔法矢が通り過ぎる。

 しゃがんだ反動で前方に飛び出す。
 魔法戦士の放ったファイアー・ダガーが顔と胸に突き立つが、かわしも防ぎもせず、これを受け止める。
 あまりダメージも受けていない。
 ずっと後方で、魔法矢が泉に着弾し、巨大な水柱が上がり、大量の蒸気を生み出す。
 棍棒が石ころをはね飛ばす。
 低く突進する二本の角で、魔法戦士の体をとらえる。
 石ころの弾丸が、青ポーションを補給しようとしていた魔法使いの腹を直撃する。

 魔法戦士を頭に縫い止めたまま、なおも前に突進する。
 追いついた盗賊戦士のダガーが背中に刺さるが、すぐに抜け落ちる。
 ミノタウロスは、ポーションを取り落とした魔法使いにシミターを向ける。
 アーチャーが二本目の魔法矢の魔力を発動させ終わる。
 ミノタウロスが、直進から右前方へと、進行方向を急転換する。
 ミノタウロスの真ん前の魔法使いと、頭にかつがれた魔法剣士がじゃまで、アーチャーは、矢を発射できない。
 シミターが魔法使いの胴体を、上下に切り分ける。
 棍棒がうなりを上げて、アーチャー目指して投擲される。

 「コール!」

 後ろで、神官戦士が唱える。
 すると、アーチャー、魔法戦士、盗賊戦士が、神官戦士の元に瞬間移動する。
 近距離限定のパーティーメンバー召喚スキルである。

 あっという間に二人を失ったパーティーは、この敵には勝てないと判断する。
 手持ちの目くらましアイテムとスキルを総動員して、戦線を離脱して逃げたのであった。




 「何言ってるんだい!
 こっちは二人も仲間を殺されたんだよ!
 あんな危険なやつがボスになってるんなら、なんで五十階層への転送を頼んだときに、教えてくれなかったんだ」

 「まことにお気の毒です。
 あらかじめ迷宮全般の情報を買っていただければ、当然、最近話題になっているミノタウロスのことは、お教えしました。
 もっとも、今、このミケーヌの街では、子どもでもミノタウロスのことは知っております。
 まして冒険者となれば、どんな駆け出しでも情報を持っております。
 あのミノタウロスは、こちらから攻撃しない限り襲ってくることはないというのは、すでに常識となっております。
 五十階層に達しているとは、当ギルドでも把握しておりませんでしたが、それもおそらく一時的なことで、順次下の階層に移動していくものと思われます。
 たまたま、あのミノタウロスが五十階層のボス部屋にいたときに、そこに突入なさったのは、不幸なことでした」

 「そのせいで、こちらは、強敵と知らずに突っかかっていったんだよ!
 どうしてくれるのさっ」

 「では、はっきり申し上げます。
 これは、久しぶりにこの街に来たのに、何の下調べもせず、いきなり五十階層に挑んだ、あなたがたの油断による失敗です。
 ボス部屋にいたのがリザードマンではないと気付いた時点で、引き返すこともできたはずです。
 あなたがたが攻撃するまで、ミノタウロスからは仕掛けてこなかったでしょう?
 これは、あなたがたが、ご自分で選び取った危険です。
 迷宮への挑戦は、自己責任で行うものなのです」

 そう言われれば、アーチャーには、事務長に言い返す言葉がなかった。
 このパーティーは、もともと、この街で腕を上げ、五十階層のボスを倒したのを機に、他の迷宮を探索しに旅に出たのだ。
 迷宮探索のほか、さまざまなクエストもこなした。
 経験を積み、クラスを上げ、よい装備も手に入れた。
 久々にこの街に帰って来て、帰還の景気づけにと、ギルドを訪ねるなり、いきなり五十階層への転送サービスを頼んだのだ。

 負けるはずがないと思い込んでいた。
 自分たちは強くなったと信じていた。
 だから、どこに行っても最初に行う情報収集を、今回だけ、まったく行わなかった。
 五十階層のボスのことは、よく知っているから。

 油断であった。
 慢心があった。
 そのせいで、ずっと一緒に冒険をしてきた二人の友が死んだ。

 アーチャーは、抗議と非難の言葉を失い、じっとこぶしを握り締めながら、悔しさをかみしめるほかなかった。





 そのころ、ミノタウロスはといえば、まだ、五十階層のボス部屋にいた。
 リザードマンとの闘いが気に入ったのと、もう一本シミターが欲しかったので、リポップを待っているのである。
 岩壁にもたれて、先ほど闘ったパーティーのことを思い出していた。

 やつらは、油断していた。
 こちらの力を、低く考えていた。
 だから、闘いを有利に進められた。
 しかし、油断していなかったら、どうだったろう。
 一人一人は、それほどの強さでもなかったが、あの連携というものは、まことに大したものだ。
 技の種類も多い。
 新しい技を、いろいろ見せてもらった。
 やはり、人間は、面白い敵だ。

 ミノタウロスは、次の人間との対戦を、楽しみに待つことにした。
 相変わらず飢えは感じていたが、その飢えすらも、楽しみの一部となっていた。





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