小学生のころ、一度だけうんこを漏らしたことがあるんだよ。うちの小学校って敷地が広くてさ、高台に校舎ふたつと小グラウンドがあって、さらに100段以上の階段を下った先にめちゃめちゃ大きいメインの校庭があるのよ。アスレチックとかちょっとした池とかもあってさ、当時はわからなかったけど、いま振り返ると理想的な子供時代を過ごしていたんだなと思う。
その日はいまみたいに暑い季節でさ、大グラウンドで運動会の練習があったわけ。学校があったのは茨城県の水戸市で、運動会では毎年全校生徒で黄門音頭ってのを踊ることになってて、その練習が毎日のようにあったのよ。で、その最中に猛烈な便意がもよおしてきてさ。いまだったら便所に駆け込むんだけど、小学校五年生くらいのころって友達の前でうんこに行くのって恥ずかしいじゃん? それで我慢して黄門音頭を踊ってたら、限界に達して黄門様から印籠が出ちゃったわけ。当時は黄門音頭との関係に気づかなかったけど、いま振り返るとすごいドラマチックだと思う。
当然トイレに行くのが恥ずかしいとか言ってる場合じゃなくなってさ、トイレで簡単な処理をして先生に具合が悪いといって早退したの。みんなにバレないように急いでグラウンドを後にしたんだけど、高台に行く長い階段の上から当時好きだった女の子が遅れてグラウンドにやってきたんだよ。一度漏らしちゃうと歯止めがきかなくて、半ズボンの体操着の後ろはパンパンなわけ。でも帰るのにはその階段をのぼるしかなくてさ。それでその子とすれ違うとき、パンパンの体操着が見られないようにさっと後ろを向いて残りの階段を後ろ向きで歩いたんだよ。50段以上。うんこを漏らした恥ずかしさと好きな子に気づかれたかもしれない悲しさが入り混じって辛くてさ。号泣しながら帰ったよ。
それで、昨日20数年ぶりにうんこを漏らしたんだよ。出勤前に軽くおならしたら、温かい感触があってさ。でも何の感情もないわけ。あぁやっちゃったとは思ったけど、すぐにトイレに入って、パンツを捨てて、バスの時間に間に合うように家を出て、一日働いて。うんこを漏らしたことは誰にも話すことなく夜寝るころにはすっかり忘れててさ。さっきふと思い出して、何か寂しいなと感じたわけ。
お前、風呂に入らずにそのまま寝たのかよ