入念なリサーチと突出した技術力で実現した『Forza Motorsport 6』の雨と夜
今年で10周年を迎える人気レーシング・シミュの最新作『Forza Motorsport 6』では、際立って要望の多かった2つの新フィーチャー、ウェット・コンディションと夜間レースが初めて実装される。
Turn 10のクリエイティブ・ディレクターDan Greenawalt氏がIGNの取材に応じ、2つの新フィーチャーについて語っている。
Dan Greenawalt
ファンからの要望が多かった理由の一つは、Turn 10と『Forza』が、シミュレーション空間で雨と夜とどのように再現するのか、という期待があったからだと考えたい。我々は目指したのは、ドライバーが体験する雨を提供することだ。ドライバーが雨をどう考えているか。具体的には、摩擦力が小さくなるとか、フロント・ガラスに水が飛び散るとかだけではない。それはそれで最高のエフェクトだし、楽しんでもらえると思うが、コース上の水溜りや制限された視界がもたらす緊張感やカオスこそが重要なんだ。
我々は雨で実現したことは、恐らくゲーム史上初だろう。我々はコース上で水溜りを完全シミュレートしており、タイヤ・サイズや突入角度によっては、タイヤがハイドロプレーン現象を起こし、プレーヤーは身を任せなければならないんだ。
それに当然、霧もある。タイヤから発生するものだけでなく、大気中のものもね。我々はこれまでにも、次世代ゲーミングと次世代ビジュアルの鍵は光と大気だと発言してきた。そこで『Forza Motorsport 6』では、3Dの水溜りとシミュレーションされた雨だけでなく、現実の大気中の微粒子に基いた視界も再現しているんだよ。
Greenawalt氏によると、Turn 10は路面の空隙率をシミュレートすることで、雨で濡れた路面における摩擦力の低下を忠実に再現しようとしているという。
Dan Greenawalt
実際には水がどれくらい溜まり、どの程度摩擦力に影響するのかは、空隙率の影響を受ける。『Forza Motorsport 6』には、ウェット・コンディションで走行可能な148種類を超える路面タイプがあり、プレーヤーは実際に我々がリサーチした数字の上を走ることになるんだ。つまり、ただ摩擦力が小さくなるだけでなく、プレーヤーがTurn 10に期待するような、現実の科学に基いて小さくなるんだよ。
実は、『Forza 5』『Forza 6』『Horizon 2』における物理ベースの素材システムと同じなんだ。物理ベースの素材はゲームの見た目に影響するが、同時にドライビングの特色にも影響する。つまり、普通に見える道路を走っている時、道路の真ん中を直進していたとしても、実際はコンクリートからタールマック、そしてシーラントへとシフトしているんだ。影と熱を出入りすることになる。変動が激しいので、タイヤに正確な影響を及ぼすよう、リサーチを重ねたんだよ。
E3で公開された予告編では、ブランズ・ハッチのコーナーに大きな水溜りが一瞬登場していたが、これも当然ながらハンドリングなどに直接影響するとGreenawalt氏。
Dan Greenawalt
開発チームはまず、歴史上の映像に目を通した。現地に飛んでドライバーに話を聞き、コースのどこに水溜りができるのか調査したりもしたんだ。ランダム生成ではなく、リサーチに基いているということだね。ブランズ・ハッチで時折発生する、局地的な集中豪雨の再現も試みた。豪雨が降ると、窪みに大きな水溜りができる。ブランズ・ハッチは実際にかなり高低差があるからね。
予告編に登場した水溜りに関して言うと、あれは基本的に走行ライン上にある。かなり大きくて、車幅のゆうに3倍はあるし、芝生から縁石にまで達している。STiのようなコンパクトな全輪駆動車の場合、あのコーナーでは恐らく時速50マイルほどしか出ていないはずだ。だがそれでも、広大な水溜りに突っ込んだ時に前輪を路面から浮かせるには十分なんだよ。
タイヤ幅の広いFord GTやCorvetteのような速度が出る車の場合は、フロント・タイヤの幅が広いこともあり、低速で水に入るとハイドロプレーニング現象を起こし易い。しかし、ウェットであっても、あの手の車はそれよりもはるかに高速でコーナーを抜けるので、恐らくはより高速で水に突入することになるはずだ。つまり、タイヤがより高く浮いてしまうということだね。
こうなると、シミュレーションによって自然と転がり抵抗が大きくなるので、速度は落ちることになる。大きな水飛沫が上がるが、これも当然プログラムされたエフェクトではなく、シミュレーションなんだ。速度とタイヤ幅によって、こうなるであろうというシミュレーションを行っているんだよ。
前作から導入された学習するAI、Drivatarもウェット・コンディションの導入に適応している。
Dan Greenawalt
ドライなコースばかりを走ると、Drivatarはプレーヤーが好むラインを学習する。ブレーキを遅らせたり、アペックスを後ろにして、出口で加速したりね。ウェット・コンディションで走ったことがないと仮定しよう。すると君のDrivatarは、ウェット・コンディションの場合でもドライの時のように走ろうとするんだ。そこに水溜りがあったら、外滑りを起こして飛んでしまうよ。そこでしばらくは、ウェット・コンディションでプレーしてみるとする。特定の水溜りや、全ての水溜りを避けながらね。するとDrivatarは、ドライではブレーキを遅らせてアペックスを後ろにするが、ウェットでは水溜りを避けてみよう、と学習する。だからプレーヤーの訓練次第なんだ。仮にウェット・コンディションのみで練習しても、ドライの時にウェット時のラインを走ろうとはしない。プレーヤーが水溜りを回避しようとしていたのだと、Drivatarは知っているからね。水溜りを考慮に入れることができるんだ。
Drivatarも既に色々とクレージーなことをしているよ。水溜りの間を走ったり、水溜りを避けようとしたり。それに、直進すべき水溜りも存在する。コースを横断している場合は当然だが、減速するほどではないし、コース・アウトもしないので、直進するのが最善な水溜りもあるんだよ。抜ける前に直線を取るだけで良く、Drivatarはそうした振る舞いも学習するんだ。
夜間レースに関しても、Turn 10は同様のアプローチで正確性を追求している。
Dan Greenawalt
多くのゲーム――これはあらゆるゲームを非難するわけではないが、多くのゲームでは、夜間はただ薄暗いだけだったりする。夜に真っ暗な道を走っているという感じがしないんだ。夜間走行、特にサーキットでの夜間走行で恐ろしいと感じること、これはル・マンやスパで夜間走った経験を持つレーサーと話しても同じだが、ヘッドライトを頼りに走っていると、息が詰まりそうになるんだよ。ヘッドライト以外の全てが真っ黒になってしまう。ヘッドライトが目を拡張するので、完全な黒に包まれるんだ。目に入るのはヘッドライトの円錐形だけで、ヘッドライトの照射範囲で生死が決まってしまう。
それは、これまでのゲームで再現されたことがない。大抵は空が薄暗いだけで、道路脇の木々や人々がうっすら見える。我々が目指したのは、迫ってくるような夜なんだ。自分に襲い掛かってくるようなね。
それは、スタジアムのライティングとは対照的だ。デイトナやヤス・マリーナといったサーキットは、夜間でもまるで日中のように明るい。投光照明でインフィールドが照らされている状態だ。非常に独特のライティング条件で、日光のように明るいが、複数の影ができ、白色光のような感じだ。日光には見えない。正にスペクタクルだよ。
『Forza Horizon 2』の雨天や夜間と異なり、『Forza Motorsport 6』のそれらはダイナミックではない。これは、Turn 10の正確性と忠実度へのこだわりの結果だという。
Dan Greenawalt
『Forza Motorsport』での我々の作り方だよ。行き着く先は必ず正確性と忠実度だ。我々が新作を作る時はまず、どんな感情を捉えたいのか考える。そこで、レーサーに話を聞いて同じように車を走らせることで、実際の感情への見解を発展させていく。だが、様々な種類の路面の摩擦力など、実際のリサーチを始めるのはそこからだ。
我々の目標は、リサーチ結果と、その感情を再現することにある。リサーチを実施したコース上で、当時そのままを再現することによって、その体験を作り出していると確信できるんだ。その感情を作り出しているとね。
それに加えて、『Forza Motorsport』は60fpsで知られている。1080pの60fps、これを我々はシミュレーション速度と呼んでいる。シミュレーション・プレーヤーが我々に期待するもので、極めて真剣に受け止めている。「大半は60」とか、「たまに60」、「60を目指す」ではなく、あらゆる条件化で、24台の車両がコース上にある状態で60なんだ。『Forza Motorsport 5』は16台だったが、今回はウェット・コンディションで24台を実現している。昼夜を問わずに24台であり、改善された物理エンジンと新しいコンディションも加わっているよ。とりわけシミュレーション・プレーヤーがどこに価値を見出すかという点に重点を置いている。それは、正確性とレース体験が生み出す感情なんだ。
Turn 10は、夜間レースと雨天レースに使用できるコースを、現実を基に選んでいる。
Dan Greenawalt
例えばラグナ・セカ。素晴らしいコースだが、夜間レースで有名というわけではない。実際、ここでは条例によって夜間のレースが禁止されているんだ。騒音条例のせいでね。ヤス・マリーナは、夜間レースで有名な素晴らしいコースだ。夜間レースといえばヤス・マリーナだよ。ウェット・コンディションで有名というわけではないね。あまり雨が降らない地域だ。ウェット・コンディションでF1テストができるようにスプリンクラー・システムがあるのは事実だが、レースはしない。そこで我々は、暑い時と涼しい夜間に測定を行い、夜間コースを再現したんだ。
それら全てを実現できたのは、「コンソール開発の真の魔法」であるとGreenawalt氏。
Dan Greenawalt
ゲームをたくさんプレーしても、自分でゲームを作らない人は、チップセットやRAM速度といった要素に囚われがちだと思う。だが実際はというと、特定ハードウェア向けに作られたカスタム・エンジンの存在と、完璧に安定したハードウェアこそが重要なんだ。最適化に全力を注ぐことができるからね。『Forza Motorsport 2』『Motosport 3』『Motorsport 4』と見て行くと、グラフィックが劇的に向上している。コースも増え、運転席視点も追加し、大幅に綺麗になっているね。
それは、本体にパワーを追加して実現したわけではなく、ただコードを最適化しただけなんだ。UnrealやCrytekの面々、343とノウハウを共有することで、我々のエンジンが改善され、彼らのエンジンも改善され、全体の底上げになった。そうやって実現したんだよ。我々が定期的にグラフィック・フィーチャーを追加できているのは、極めて安定したハードウェア上で動く1つのエンジンに、世界最高レベルの2チームが携わっているからなんだ。
ソース: IGN