「山本五十六」など文学性に満ちた戦争小説で知られる作家で、文化勲章受章者の阿川弘之(あがわ・ひろゆき)さんが3日午後10時33分、老衰のため都内の病院で死去した。94歳だった。偲ぶ会を行うが日取りなどは未定。
広島市生まれ。1942年に東京帝大(現東大)国文科を繰り上げ卒業後、予備学生として海軍に入隊。士官として通信諜報(ちょうほう)の任務につく。中国・漢口で終戦を迎え、帰国後は志賀直哉に師事して小説を執筆。自らの体験をもとに、海軍予備学生たちの青春を端正な筆致でつづった「春の城」(52年、読売文学賞)で作家としての地位を確立した。
「山本五十六」(65年)「米内光政」(78年)「井上成美」(86年)の海軍提督三部作でも注目を集める。海軍の歴史を踏まえながら、体験者の談話を盛り込む手法で、人物像を魅力的に描き、戦争小説の新境地を切り開いた。事実を積み重ねることで師の生涯を書いた評伝「志賀直哉」(94年)では、野間文芸賞と毎日出版文化賞を受賞している。
79年日本芸術院会員、99年文化勲章。慶応大教授の阿川尚之氏は長男、エッセイストの阿川佐和子さんは長女。87年12月、日本経済新聞に「私の履歴書」を連載した。
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