訃報:阿川弘之さん94歳=作家、「山本五十六」

毎日新聞 2015年08月05日 21時32分(最終更新 08月05日 22時34分)

阿川弘之さん=横浜市青葉区で2007年、石井諭撮影
阿川弘之さん=横浜市青葉区で2007年、石井諭撮影

 海軍体験を通して戦争を描いた「暗い波濤」や「山本五十六」などの作品で知られる作家の阿川弘之(あがわ・ひろゆき)さんが3日、老衰のため東京都内の病院で死去した。94歳。葬儀は近親者のみで営む。しのぶ会は後日開く予定。

 広島市生まれ。東大国文科を繰り上げ卒業後、予備学生として海軍入隊。士官として通信・諜報(ちょうほう)の任務につき、敗戦を中国・漢口で迎えた。復員した1946年、第1作「年年歳歳」を発表。以後、3年半の海軍体験をもとにした52年「春の城」(読売文学賞)や56年「雲の墓標」で頭角を現した。

 海軍予備学生を描いた74年「暗い波濤」や75年「軍艦長門の生涯」で注目される一方、65年「山本五十六」、78年「米内光政」、86年「井上成美」など従来の評伝とは一線を画す等身大の提督像をつくりあげて、伝記小説に新境地を開いた。

 また、旧制高校時代から志賀直哉に傾倒。復員後すぐに門下に入った。1700枚の評伝「志賀直哉」(94年、毎日出版文化賞・野間文芸賞)では師の肖像を慈しむように浮き彫りにした。

 旅の醍醐味(だいごみ)をつづった77年「南蛮阿房列車」など随筆も定評がある。2001年「食味風々録」(読売文学賞)は食への探求心と人生の考察が溶け合った秀作。また、保守派の論客として知られ、97年からは雑誌「文芸春秋」の巻頭随筆を担当していた。05〜07年に「阿川弘之全集」(全20巻、新潮社)を刊行。絵本「きかんしゃ やえもん」(59年)の文も手がけ、ロングセラーとなった。

 エッセイストで小説家の阿川佐和子さんは長女。長男は元駐米公使で慶応大教授の尚之(なおゆき)さん。79年日本芸術院会員。99年に文化勲章を受けた。

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