5月9日、新聞各紙に次のような見出しが躍った。
《日雇い労働者 宮城の運転手募集で福島原発に 大阪・西成》
大阪市の60代男性が、同市西成区にある「西成労働福祉センター」(通称“センター”)に掲示されていた宮城県女川町でのダンプカー運転手の求人募集に応募したところ、実際は福島第一原子力発電所内で給水作業員として働かされたというのだ。
西成の労働者のための労働組合「自由労働者連合」評議会議長の松原秀晃氏が語る。
「この男性がセンターで見た求人票は、就労時間は8時から17時で日当1万2千円。そのうち宿代と食事代として一日2千円が引かれるというもので、原発での仕事とは一切書かれていなかった」
この募集を出した岐阜県の下請け会社は、この件について「被災地の作業依頼が殺到したことによる単純ミス」と回答している。
この一件は仕事先が福島第一原発と知らされず、半ばダマす形で人を募集していたが、ひょっとすると西成には原発労働の求人がほかにもあるのかもしれない。
そこで日雇い労働者が多く集まるセンターへ向かったところ、いきなり衝撃的な光景に出くわした! なんと、ある労働者が、別の労働者に「原発の仕事、20日で100万円でどや?」と声をかけていたのだ。当然、センターを通さない非公認(闇)の求人である。声をかけていた男性に話を聞いた。
「神戸の業者が4月半ばに来て、原発の仕事があるから人を集めてくれへんかと頼まれた。一日4時間労働で日当5万円。20日間やから計100万円や。声をかけると、行きたいという者もおれば、怖くてとんでもないというのもおる。みんな揺れてるわ(笑)」
ほかにも、西成のあるNPO法人の玄関先に「日当1万9千円、福島での作業員募集」という掲示が出たこともあったという。
ある年配の労働者からは、こんな話を聞くことができた。
「名古屋におる(ホームレスの)知人も原発に誘われたらしいで。4時間働いて日当5万円。西成と同じや。そいつは70歳を超えてるんやが、人集めの男からは『年齢が高ければ高いほどええ』『ホームレスなら、それはなおのこと都合ええわ』と言われたそうな」
放射能の恐怖はあるものの、労働者の気持ちは揺れているという。センターで仕事を探していた70代のおっちゃんがこうボヤく。
「去年までは掲示されている仕事から選ぶことができたが、今年になってからは、仕事があったら内容なんて関係なしに行くしかない。わしは40年ここにおるけど、いまほどの不景気は初めてや」
実際、この日のセンターの掲示板には、日当1万円の土木作業員と日当4869円のガードマン募集の2枚しか求人票はなかった。
求人が少ないなか、通常の日当の倍以上が提示される原発作業。30代のある若い労働者は「行きたい」と語っていたが、その一方で「もう少し様子見をしたい」と話す労働者はこう続けた。
「問題は、もし何かあったときに訴えることができる業者かどうか、それを見極めたい。いまは、どこの業者が募集してるのか、相手の顔がわからんからなあ」
いまだ見えない原発事故の収束。現場の人手不足は深刻になっているのかもしれない……。
(取材/ボールルーム)