広島原爆の日:首相「非核三原則」に触れず 平和記念式典

毎日新聞 2015年08月06日 08時55分(最終更新 08月06日 11時41分)

平和宣言をする松井一実・広島市長=広島市中区の平和記念公園で2015年8月6日午前8時20分、川平愛撮影
平和宣言をする松井一実・広島市長=広島市中区の平和記念公園で2015年8月6日午前8時20分、川平愛撮影

 ◇平和記念式典 松井市長が平和宣言

 広島は6日、米国による原爆投下から70回目の「原爆の日」を迎えた。松井一実・広島市長は平和宣言で、いまだに遠い核兵器廃絶に対し「そのための行動を始めるのは今だ」と呼びかけ、平均年齢が80歳を超えた被爆者の支援策充実も求めた。国会で議論が進む安全保障関連法案には直接の言及はしなかった。また、安倍晋三首相はあいさつで「核兵器のない世界を実現する重要な使命がある」と述べた一方、歴代首相が触れてきた「非核三原則」の文言は盛り込まなかった。

 広島市中区の平和記念公園には夜明け前から多くの人が訪れ、「過ちは繰(くり)返しませぬから」と刻まれた原爆慰霊碑などの前で手を合わせた。午前8時から始まった平和記念式典には被爆者や遺族ら約5万5000人が参列し、海外からも過去最多の100カ国と欧州連合(EU)代表部が参列した。核保有5大国では米英仏露の代表が出席。米政府高官として初めてガテマラー国務次官が参列した。中国は欠席した。

 原爆投下時刻の午前8時15分、参列者は1分間の黙とうをささげた。松井市長は平和宣言で、改めて「全てが1発の原子爆弾で破壊された」と強調し、故郷や家族を奪われた被爆者の悲痛な叫びを「戻してくれ」を意味する広島の言葉「まどうてくれ」で表現した。原爆で奪われた命は、日本人だけでなく、朝鮮半島や中国、米軍捕虜の人もいたと述べた。

 また、人類の未来のためには、非人道の極みである核兵器の廃絶を目指さなければならないと訴え、被爆者のメッセージとして「人類愛」と「寛容」を世界の政治指導者に提示。核兵器廃絶のための行動を促した。来年日本で開催される主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)も取り上げ、オバマ米大統領らに被爆地訪問を呼びかけると共に、核兵器禁止条約などの法的枠組みの議論の開始を求めた。日本政府には議論を主導するよう期待を込めた。武力に依存しない安全保障の仕組みを創出するよう世界の政治指導者に訴え、「日本国憲法の平和主義が示す真の平和への道筋を世界へ広めることが求められる」と述べた。

 3年連続の出席となる安倍首相は「核兵器のない世界の実現に向けて、一層の努力を積み重ねていく決意」を表明。今秋の国連総会で新たな核兵器廃絶決議案を提出すると述べた。原爆症認定については審査の迅速化を表明した。

 式典では、松井市長と遺族代表の2人が、この1年に亡くなった5359人の名前を記した原爆死没者名簿2冊を原爆慰霊碑下の奉安箱に収めた。名簿に記された人数は29万7684人、名簿は計109冊になった。

 「こども代表」で「平和への誓い」を読んだ桑原悠露(ゆうろ)君(12)と細川友花(ゆか)さん(11)は昨年8月に広島市北部で75人の犠牲者を出した土砂災害に触れ、「大切な人を失う悲しみは、想像することができる」と思いをはせ、自分たちのできることから始めようと呼びかけた。

 また、海外に住む被爆者と遺族計10人が、被爆70年事業で招待された。会場は高齢化した被爆者に配慮し、ほぼ全面が大型テントで覆われた。【高橋咲子】

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