2015年08月06日

インターンシップが最強の採用戦略なのか?

先日、LINEで法人営業担当の執行役員をしている田端さんと対談する機会を頂いた。きっかけは、僕がはじめて書いた恋愛小説『ぼくは愛を証明しようと思う。』で、LINEを使って会話するシーンがふんだんに出てくることだった。僕は、作中で、ことさらLINEのことを強調するつもりもなく、ただ、いまの世の中でふつうの男女が行っていることをそのまま描いただけなのだが、考えてみたら、男女のコミュニケーションがすっかり全部LINEになってしまったのは、けっこう最近の話である。僕はたまたまそうした時期に小説を書きはじめたので、結果的に、その点が新しい小説となり、LINEが流行る以前の全ての恋愛小説は、すっかり古びれることになった。好きな女の子に電話すると、彼女の親が電話に出て緊張してしまうというようなシーンが、何やら時代小説的なものになってしまったように、携帯に電話したり電子メールを送ったりすることも、すでに一昔前の風景なのだ。

さて、対談では、こうしたコミュニケーション手段の変化とメディアの関係、営業と恋愛の類似性などに関してディスカッションできて、とても面白かったのだが、これは近々、ダイヤモンド・オンラインの方で掲載される予定なので、楽しみにしていてほしい。

そこで、採用活動のことで、田端さんと話していて、これまで僕が疑問だったことがわかったので、そのことを備忘録的に書いておこうと思う。経団連加盟企業では、学生に学業に専念させるという趣旨で、今年から採用面接の解禁日が後ろにずれて、4年生の8月からになっている。まさに、いまが就職活動、そして、採用活動のピークのようだ。だから、採用戦略について書いておくのは、タイミング的にもいいだろう。

僕の持論は、面接だけで未経験者を採用するなど愚の骨頂、というものだ。たった、数回の面接で、仕事ができて、チームに貢献できるのかどうかを見極めることは不可能だ。面接でわかることは、初対面の人との会話が得意かどうかぐらいなものだ。それにもかかわらず、日本では、学生は必死こいて面接テクニックを学び、会社は必死こいて面接でいかに優秀な人材を見抜くか、ということをずっとやっている。これは壮大な喜劇だ。なかなか内定がもらえない学生にとってはただの悲劇だろう。

それでは企業はどのように採用すればいいのだろうか? 答えは極めて簡単だ。仕事ができるかどうかは、仕事をやらせてみればわかる、だ。つまり、インターンシップ、というか短期アルバイトをしてもらえばいい。僕がずっと疑問だったのは、なぜ全ての新卒の採用がインターン経由にならいのか、ということだ。

外資系投資銀行で働いていたとき、インターン経由で採用された新卒で、変な人はひとりもいなかった。しかし、面接だけで入って来た新卒の中には、たまにダメな人がいた。ダメな人を首にするのは大変だ。直接の出費だけで、基本給の半年分ぐらいのお金を退職金としてあげないといけない。さらに、また新しい人をリクルートしないといけないし、誰が採用したんだ、というような責任問題もある。とにかく、仕事ができない人が入ってきて、首にするのは、とても大変なコストがかかる。経験者の採用では、それまでの実績を見ればいいし、他の会社で働いている人を引き抜いてくるわけで、インターンなどはもちろんできないから、面接だけで高額なオファーを出すのだけれど、未経験者を面接だけで採用するなど、本当に馬鹿げている。

僕自身もインターン経由で採用された。当時、僕は海外に住んでいて、PhD取得後はそのまま奨学金の期間が残っていたのでポスドクをしていた。外資系の投資銀行の人事部のいくつかに履歴書を電子メールで送り、休暇で日本に2週間ほど帰ってきた時に、東京のいくつかの銀行で、集中的に面接をしてもらった。その内、一社が僕の採用に興味を示し、急遽、インターンをすることになった。まず、どんな課題なのか説明された。社内で開発された、ある金融工学のツールを理解して、その使い方をわかりやすく説明する資料を作り、プレゼンすることだった。プログラムは社外に持ち出せないが、理論の論文や説明書をいくつか渡され、持ち帰ることができた。1週間後に1日オフィスに来て、実際にツールをいじくりながら資料を作るというものだった。僕は、1週間の間に、他の銀行の面接にも行きつつ、必死で与えられた資料や関連分野の教科書を勉強して、インターンに臨んだ。結果的には、オファーをもらい、僕はその銀行に就職することになった。

そして、僕も採用に関わるようになると、当然のように、インターンをさせることにした。まず、大量の履歴書を見る。1000通以上あって電話帳より厚いのだけれど、条件を言って、人事部のお姉さんに頼むと、300通ぐらいになる。その中から10人ぐらい選んで、面接に呼ぶ。ちなみに、この300人から10人に絞るプロセスは、1時間ぐらいだ。つまり、履歴書を見る時間は、ひとり当たり12秒となる。しかし、実際のところは、3秒で弾かれる人がたくさんいて、ボーダー付近の履歴書をじっくり読むので、みんながみんな12秒というわけではない。そして、その中から3人ぐらいをインターンに呼ぶ、という感じだ。

インターンは、採用側にものすごいメリットがある。なぜなら、こっちはいつも人出不足で、めんどくさい仕事がたまっていたりするので、彼らは貴重な労働力になる。もちろん、採用を兼ねているからスキルや仕事への態度を見るための課題になるように工夫しないといけないけど。インターンの学生は採用がかかっている、つまり、人生がかかっているから、みんな死に物狂いで働いてくれる。実際には、1日のインターンでも、じゃあ、来週の木曜日にこれやるから、と言って、参考資料を親切に渡しておくと、大抵の学生は、インターンの日までに猛勉強してくる。しなかったら? そんな学生は用なし。ということで、とても僕の仕事が捗るのだ。学生にめんどくさい仕事を任せて、僕は夕方は、デートでも行けばいい。

そして、インターンでみっちり働いてもらった後に打ち上げと称して、ディナーでも行って、酒でも飲ませていろいろ話せば、いっしょに働きたい奴かどうかもわかるというものだ。ということで、いい人材を見抜くという意味でも、また、安い作業要員としても、インターンはとてもいい方法なのだ。さらに、学生も、本当にそこで働きたいのかどうかわかるだろう。

それで、僕がずっと疑問だったのは、なぜ、こんなにメリットだらけなら、全ての新卒採用がインターン経由にならないのか、ということだ。しかし、その疑問が、田端さんと話していてわかったのだ。

まず、田端さんは、インターン経由で採用する別のメリットを指摘した。インターンに応募してくる学生のほうが、基準が何なのかさっぱりわからない一発勝負の面接なんかよりも、実際に働いて、本当の実力を見て欲しいと思っているだろうから、より優秀である確率が高いだろう。ああ、なるほど。インターンは、ますます、いいじゃないか。

しかし、デメリットもある。つまり、インターンをすると、こちらが学生の能力がわかるように、学生も会社の実態がわかってしまう。それは、当初のキラキラしたイメージ(これは学生の勝手な思い込みだけど)よりは、悪くなるだろう(どんな会社だってそうだ)。そうやって夢がなくなった状態で、ブランド力がある企業が、面接だけでポンと内定を出すと、そっちに行ってしまうことがある。なぜなら、まだキラキラしたイメージのままだからだ。ああ、なるほど。恋愛でも、それってよくあるよね。誠実に何でも話す男より、ネガティブなことは何も言わず、ちょっとミステリアスなやつのほうがモテたりするものだ。

それで、学生のイメージを良くしようと思うと、インターンもお客さん対応になってしまい、労働力としても使えなくなり、単にコストでしかなくなる。外資系投資銀行みたいに、5人のチームに、新卒をひとり雇うようなケースでは、確かにインターンはいいことばかりだけれど、まとまった人数を採用しなければならず、他の企業と学生を取り合うような状況では、インターンにはデメリットもある。メリットも、もちろん大きいけど。少なくとも、いまのLINEのような人気企業だったら、やっぱりインターン経由で採用するメリットのほうがはるかに大きいんじゃないかな、と思う。
(勝手な僕の意見で、田端さんがどう思っているのか、もちろん知りません)

以上を踏まえても、僕の結論は、やはりインターンを学生にさせるメリットが圧倒的に大きい、ということだ。少なくとも会社にとっては。最後に、ちょっと大切なこと言うと、インターンを成功させる一番のポイントは、社員がいい課題を用意できるかどうかだ。それは、社員の仕事にプラスであり、かつ応募者のスキルを見るためのテストにもなり、それでいて知的にチャレンジングでやりがいのあるものではなくてはならないのだ。ということで、ちゃんと学生が短期間でこなせて、会社の利益にもなるいい課題を設定するために、もっと頭を使った方がいい。インターンはやはり最強の採用戦略だ。

今回は、恋愛から就職活動を考えてみた。言うまでもなく、人気企業と応募者の関係が、美女と彼女を狙っている男たちの関係のメタファーである。次は、また逆に、企業側の採用戦略から、女子のための恋愛工学を考えてみたい。僕は、女子もインターンシップで採用するべきだと思う。さて、この続きは、今週のメルマガに書くことにしよう。

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kazu_fujisawa at 10:20│Comments(0)TrackBack(0)│ │ファイナンス原論 | 恋愛工学

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