(英エコノミスト誌 2015年8月1号)
モルドバの首都キシニョフ市街にある国内銀行バンカ・デ・エコノミはお金が盗まれた大手3行の1つ〔AFPBB News〕
モルドバの学生のアリーナさんが先日、キャッシュカードの利用をATMに拒絶された時、最初に思ったことは、銀行が知らない間に破綻したのだろうかということだった。幸い、原因はほんの束の間の技術的障害だった――だが、彼女の反応はとっぴなものではなかった。
この国の金融システムは、ひどく揺らいでいる。昨年11月、複数の窃盗犯が一連の不正融資や送金によってモルドバの3大銀行から10億ドルを盗み取ったからだ。
ルーマニアとウクライナに挟まれたモルドバは、欧州で最も貧しい国だ。今回盗まれた金額は、モルドバの国内総生産(GDP)の8分の1を超えている。
最近辞任した財務相によると、この事件は一連の出来事の発端となり、政府は夏の終わりまでに給与が払えなくなるという。
インフレ高進と通貨安、金利高騰・・・
詐欺事件の結果、3大銀行が支払い不能状態に陥ったため、中央銀行であるモルドバ国立銀行が新規資本として125億モルドバレイ(6億6000万ドル)を注入し、これらの銀行を管理下に置いた。
だが、中央銀行にはそんな額の資金がなく、マネーを作り出すしかなかった。マネーサプライの急拡大は、インフレ率を8%まで2倍に上昇させ、通貨を下落させた。モルドバの通貨は今年、対ドルで20%下落している。
インフレの急騰に対応し、中央銀行は基準金利を一気に引き上げ始めた。金利は1月の8.5%から現在15.5%に上昇している。金利高騰が銀行の混乱状態と相まって、企業に投資を抑制させている。