アジア視点で考える『Oneteam』のスケールするエンジニアリングチームのあり方【連載:NEOジェネ!】
2015/08/06公開
恊働型コミュニケーションプラットフォーム『Oneteam』とは?

第1弾機能「Profile Book」を先行リリースしたコミュニケーションツール『Oneteam』
『Oneteam』は、今年2月に創業したスタートアップOneteamが開発中の、「手のひらにチームを持ち歩く」をコンセプトにした恊働型コミュニケーションプラットフォーム。
SlackやGitHubといったエンジニアにはおなじみのコミュニケーションツールを非テック系企業にも提供しようというもので、iOS、Android、Webのマルチプラットフォームに対応しているのも特長だ。
今夏には第1弾として、チームメンバーの相互理解を助ける自己紹介機能「Profile Book」をリリース。年内にはイシューベースのコミュニケーションが可能な第2弾機能「Communication Platform」のリリースを予定している。
同社CEOの佐々木陽氏は、リクルートで『じゃらん』や『SUUMO』などのサービス開発に携わり、アジア6カ国をまたいだマネジメントを経験してきた人物だ。サービスは当初からアジア展開を前提としており、英語はもちろん、アジア各国のローカル言語にも対応していく。
8月4日現在で社員数は9人。リクルート、サイバーエージェント、DeNAなど、トップ企業の最前線で活躍してきた経験豊富な顔ぶれがそろい、平均年齢も31歳と、創業間もないスタートアップとしては高い。
Oneteamにこうした優秀な人材が集う背景には、エンジニアの共感を生み出す「プロダクトファースト」の思想と開発環境があるという。さらに将来的には開発拠点をベトナムに移す計画もあるという彼らの、チーム運営術に迫った。
アイデアの出発点:コミュニケーションの壁が企業の成長を妨げている
チーム内コミュニケーションに関する2つの原体験が佐々木氏を起業に駆り立てた
佐々木氏をOneteam創業に駆り立てた、チーム内コミュニケーションに関する2つの原体験があった。
1つは、タイ、シンガポール、ベトナムなど、アジア6カ国のマネジメントを担当していたリクルート時代に目にした、現地企業が抱える従業員管理の問題だ。
「離職率の高い東南アジアの企業では、従業員管理が徹底されていないという現実がありました。ある人はGmail、ある人はヤフーメールを使っているといった調子で、同じ企業に所属しながらバラバラのフリーメールを使っているというのは、その象徴でした」
こうした企業は一方では、国境を越えたスケールで事業を行っていた。同じ東南アジアとはいえ、国が違えば文化や慣習が違うし、日本や欧米を相手にするとなると時差の問題もある。コミュニケーションの難しさは、確実にビジネスのボトルネックになっていた。
2つ目の原体験は、日本に帰国し、Kaizen Platformへと転職した後に遭遇した。コミュニケーションの問題は同じ日本人同士であっても日常的に起こり得るということを、身をもって体感したのだ。
「主にオフィスや自宅で仕事をしており、PCの前にいる時間の長いエンジニア同士であれば、コミュニケーションは比較的うまくいくんです。でも、自分のようなビジネスサイドの人間が混じると、話は別。Slackのような同期型のツールでは、外出から戻るころにはものすごい量のコミュニケーションが進んでしまっていて、何がイシューなのかが分からないという事態が頻発していました」
『Oneteam』は、こうした同期/非同期のコミュニケーションの壁を乗り越えることを目的に発案された。クラウドベースのSaaS型で「再発明」することにより、フルスクラッチ型で割高だった従来のイントラネットを「ディスラプトすることが可能」と佐々木氏は意気込む。
さらに、コミュニケーションがうまくいかないそもそもの理由を突き詰めて考えると、チームのメンバーがお互いをよく知らないままに仕事をしているケースが多いと気がついた。第1弾機能として「Profile Book」をリリースしたのは、そのためだ。
「会社規模が大きくなって階層型の組織になっていくと、お互いを知らない傾向はより顕著になる。部署横断的なプロジェクトを進める上でも、メンバーの人となりを知ることは不可欠だと考えています」
開発のポイント:効率的でスケールしやすい開発環境へのこだわり
将来的なスケールを見越して開発の効率化には力を入れているという長瀬氏(手前)
『Oneteam』は製品の性質上、iOS、Android、Webの全てで使える必要がある。しかし、本格的な開発に着手できたのは4月以降のことであり、開発陣には、非常に短期間でマルチプラットフォームに対応しなければならないという制約があった。
こうした事情から、開発の進め方にはいくつかの工夫がなされている。ひと言で言えばそれは、徹底した自動化、効率化だ。
「デプロイや品質チェックの自動化には非常にこだわっていて、動作確認をしながら、プルリクエストを送って徐々にマージしていく仕組みを作ってやっています。インフラ構築に関しても、インフラエンジニアが正式にジョインする前からプルリクエストベースで行える仕組みづくりをすでに進めていたりもします」(リードエンジニア・長瀬敦史氏)
「JSON SchemaからAPI込みのコードを自動生成する仕組みも作っており、元のドキュメントを直せば、コードジェネレーターにより全てのモデルが自動的に修正されるようになっています。こうすることで、限られた人数でも素早くマルチプラットフォームに対応することができるようになります」(リードエンジニア・久保貴市氏)
こうした取り組みの数々は、創業初期にもかかわらず、かなり将来を見越して打たれている印象が強い。「開発メンバーが増える前の段階でこうした環境整備を行っておくことが、後々チームがスケールするためには不可欠なんです」と長瀬氏は強調する。
AppSocially、Kaizen Platformなど、数々のスタートアップで経験を積む中で学んだ「チームとしてうまくいく」ために重要なことが、現在のチームにもれなく持ち込まれているようだ。
自分たちがチームとしてうまく回れば、プロダクトもうまくいく
久保氏は社会実験のような側面をもつこのプロジェクトにエンジニアとして大きなやりがいを感じている
Oneteamには創業当時から、プロダクトサイドの人員の比率を常に6割以上にキープし、ビジネスサイドを極小化するという採用ルールがある。実際、現在9人いる社員のうち、6人をエンジニアが占めている。
「自分たちが扱っているのは、チーム内のコミュニケーションをうまく回すためのプロダクト。当然、作り手である自分たちもユーザー対象に含まれるわけです。だから、自分たちが使ってみて気持ちの良いものでなければ、そもそも意味がないんです」(佐々木氏)
ビジネスサイドを極小化しなければならない理由はもう1つある。それは、『Oneteam』がグローバル展開を前提にしたプロダクトであるということだ。
「特定の国の顧客の声を聞き過ぎると、その声に引っ張られて普遍性を失いかねません。せっかくSaaS型として作っているわけですから、誤解を恐れずに言えば、あまり顧客の声を聞き過ぎないことが大事だと考えています」
絶対的な“正解”のないビジネスの世界において、唯一確かなのは具体的な形を持ったプロダクト。そう考えるからこそ、作り手であるエンジニアの働きやすさにも徹底してこだわっている。リモートワークを奨励したり、ビジネスサイドと完全に分けたエンジニア用の給与テーブルを設けたりしているのは、その表れだ。
エンジニアの側もその期待に応えるように、必要と思った機能は誰の許可を待つでもなく、自ら考え、即座に手を動かして実装する。
「自分たちがチームとしてうまくいくことが、チーム内のコミュニケーションを助ける『Oneteam』というプロダクトの優秀性の、何よりの証明になる。そう考えると、今回のプロジェクトは壮大な社会実験をやっているようなもの。かつてないスケール感ですし、作り手として非常にやりがいを感じています」(久保氏)
日本で限られたパイを奪いあうより、開発拠点をベトナムに
精鋭ぞろいのOneteamのエンジニアチーム。だが来年にはベトナムに開発拠点を移す予定でいるという
創業以来、順調にエンジニアの獲得に成功してきたOneteam。だが今後、国内で多くのエンジニアを採用し続けていく考えはないという。
同社には来年にも、開発拠点をベトナムへと移す計画がある。
「ベトナムは国策としてエンジニアリングの強化を進めている国で、エンジニアのスキルレベルが本当に高い。優秀層を国費でサンフランシスコに大量に送り込み、現地のスタートアップで学んだ後、帰国してオフショアの開発会社を起業するという流れができている。本場とのコネクションを使ってどんどん仕事を請け負うことができているようです」(佐々木氏)
日本では限られた優秀なWebエンジニアというパイの奪い合いになっていて、採用コストがどんどん高騰している。どの企業もそろって直面しているこの問題に対するOneteamの答えが、ベトナム進出ということになる。
先日別の記事で取り上げたベーシックという会社でも、ベトナム人エンジニアのスキルを高く評価し、採用を強化する方針を打ち出していた。こうした流れは今後のトレンドになっていくのかもしれない。
Oneteamが現時点で抱えるエンジニアは全て日本人だが、これは、「ゼロイチ」のフェーズにおいては経験に勝る日本人エンジニアに一日の長があると考えているため。スキルはあっても「打席に立った回数がまだ少ない」ベトナムのチームには最初は「イチジュウ」のフェーズを任せ、将来的に両チームをマージすることにより、多様性のある真に強いチームを作るというのが、描いているロードマップだ。
もちろん、日本とベトナムとの間では言語の壁もあるだろうし、習慣や文化も違う。しかし、『Oneteam』というプロダクトが“ホンモノ”であれば、その点も当然のようにクリアされることになるというわけだ。
アジアを搾取するのではなく、アジアに溶け込む商品を
「2015年は、ASEAN経済共同体(AEC)が発足する象徴的な年。これから10年、20年は、アジアが経済の中心になっていくでしょう」と佐々木氏は言う。『Oneteam』は当然、マーケットとしてのアジアの可能性を見据えたビジネスだ。
ただし、「アジアをマーケットに」とひと口に言っても、そのスタンスは従来の日本企業が採ってきたそれとは大きく異なる。
「日本の総人口が減ってきたから新たな市場を取りに行くといった、搾取の考え方では道を誤ると思っています。そうではなく、現地の人の役に立つものを作る、現地の生活に溶け込む製品を作るというのが、僕らの考えです。それがたまたま、日本発のプロダクトだっただけ、となるのが理想です」(佐々木氏)
こうした構想の下に将来、『Oneteam』が目論見どおりに「アジアのインフラ」になったとすれば、その時はほかならぬ彼ら自身が、世界の企業の模範となるような、国境を越えた理想的なチームへと育っていることだろう。
取材・文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴
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