私は基本インドア派なのですが、夏ということもあり最近はサーフィンをするようになったんです。徐々についていく筋肉や黒くなっていく肌に、我ながら健やかさを感じたものです。
その日もサーフィンは満喫できたのですが、帰路の途中に雲行きが怪しくなってきました。天気予報を見逃したことを後悔しながら、私は自転車を漕ぐスピードを少しだけ速めます。しかし、その甲斐も空しく、家まであと半分くらいの距離まで到達した頃に、雨は降り出してしまいました。
雨は徐々に勢いを増し、着ていた服や荷物がびしょ濡れになるのも時間の問題でした。
諦めかけていたとき、建物が眼に映りました。公共施設でしょうか。そこに建物があるだなんて普段は気にも止めていませんでしたが、渡りの船とはこのこと。私はその建物に急いで近づくと、駐輪場らしき場所に自転車を停め、建物の中で雨宿りすることにしました。
中に入ると、玄関で私はその場で軽く手足を震わせ、体に付着した雨粒を落とします。服は若干濡れていて、ジメっとした感覚はお世辞にも心地よくありませんでした。雨風を凌げてふと安心すると、気持ちに余裕の出てきた私は建物内を見渡します。
何の気なしに入りましたが、ホールだと思われる場所は清潔感があり、人も結構いました。古い感じはせず、建てられてからおおよそ10年くらいだったと思います。
どういう施設なのだろうと近くにあった案内状を読んでみると、多目的な公共施設らしく様々なものがあるようでした。その中で目に留まったのが図書館ホールです。
「へぇー、こんなところに図書館があったのか。今まで見過ごしていたとはウカツ」
雨が止むまでの時間つぶしに丁度いいと、私は図書館のあるホールへと向かいました。
そのホールは中々に人気があるようで、色んな人たちが本を読んでいるようでした。私も早速、本を探そうと歩き出すと、近くにいた人に呼び止められたんです。
「本日はどのようなご用で?」
「えーと、適当に本を読んでみようかと……もしかして会員制とかでしたか」
「本を読むだけなら構いませんが、この図書館でのサービスを使いたい場合は会員になる必要がありますね」
サービスを恐らく貸し出しのことだろうと思った私は、少し考えたあと「気になる本をみつけたら」と返して物色を始めました。中々に本のバリエーションと量は多く、これは選ぶだけでも時間がかかりそうだと思いつつ、内心私の胸は躍っていました。
そうやって一通り本棚を見て回っていると、私はギョッとする光景を目にしたんです。そこにいる人は一心不乱に何かを書く動作をしていたんです。遠くから見ていたので正確に何をしているか分かりませんでしたが、異様な光景に近づく気にはなれませんでした。
あきらかに目立っていたため気づかないわけはないと思うのですが、私はそのことを先ほどの係の人に報告しに行きました。
「ああ、あなたは今日くるのが始めてなんですね。あれがこの図書館でのサービスなんです」
「どういうことですか?」
「ここでは、会員の方に粘着性のある栞を提供しておりまして、それを好きな本に挟んでもらうんです」
係の人の話を聞いても未だ解せません。それでは、あの書いている動作の説明がつかない。私の表情からそれを読み取ったのか、係の人は本が並べられた平棚を指差します。そこは人が多く、私が避けていたエリアでもありました。
「まあ、本を手にとっていただければ分かりますよ。あそこの本棚は、いま注目度の高い本を並べておりますので」
言われるまま、私はその本棚に向かいます。人だかりに萎縮しながら適当な本を手に取ると、その重量に思わず声を漏らしてしまいました。
「う……わ」
私が持ったその本はページ数の割に異常に重たかったのです。それもそのはず、その本には栞が数え切れないほど挟んでありました。ここまで栞を挟んでいるなんて、一体この本にはどんな内容が?
読もうと本を開くと、私の目にまず飛び込んだのは膨大な数の栞でした。そして、私は先ほどの人のやっていた行為の意味を知ったんです。
栞には文章が書いてありました。書かれた内容は様々で、本への内容を言及したもの、果ては全く関係のないものまでありました。文章の書かれた栞がびっしりと本を埋め尽くしている光景に、私は異常を感じざるを得ませんでした。
係の人に再び尋ねます。
「これ、本を読む際に邪魔だと思うんですけれど、クレームはこないんですか?」
「いえ、むしろ好評ですよ。多くは、栞に文章を書くのが目的になっている人たちですから」
あっけらかんと答える係の人を見て、私は血の気が引くのを感じました。
おかしい、この図書館も、それを利用する人たちも。ヤバイところにきてしまった。
雨で体が冷えていたのもありましたが、そのとき私の体は震えていました。その振動で、持っていた本から栞が一枚落ちてしまいます。私は平静を装いながら、その栞を拾うため屈みました。
この本を戻して、早くここから出よう。雨など知ったことか、ここにいるよりはマシだ。
そうして栞を拾ったとき、そこに書かれた文章に感じた恐怖は筆舌に尽くしがたいです。
その栞を書いたのは私でした。文体、内容、見間違うはずがありません。私は、この図書館を利用していたんです。
思わず悲鳴をあげ、持っていた本すら投げ出して、逃げるようにその施設から出ました。必死だったこともあり、どうやって帰ったかは覚えていません。ただ、それからの私は従来のルートで海に行くことはやめ、天気予報は絶対に見逃さないようになりました。
「でも、本当にあったんだよ」
「はて……なんだっけ。あれ?」
「ほらな、どうせ夢だったんだよ」
その施設での体験を鮮明に覚えているのに、施設の名前だけは出てこないんです。友達の言うとおり、あれは夢だったのでしょうか。しかし、確認するためにまたあの道を通る勇気はどうしても湧いてきません。
はいはい創作創作 じゃなきゃ、県名と道路の名前はよ あと粘着性のある栞って、普通ポストイットって言うんじゃない?
おまえも本にしてやろうか!
創作に対して創作創作って斜に構えるスタンス好き
http://anond.hatelabo.jp/20150805230112 マジレス、と解釈してよろしいですかね。 まあ、読み手が悪いとかいうのは書き手の傲慢ですし、自分でも正直ネタが分かりにくかったと反省しているの...
「確認するためにまたあの道を通る勇気はどうしても湧いてきません。」じゃなかったの?
http://anond.hatelabo.jp/20150805233345 まあ、もうヒントも書いちゃいましたし、こうなったら書きましょう。 書き手の意図まで書くと正直サムいとは自分でも思いますが。 「怖い体験をした...
伝わらない皮肉を書いて悦に入る人って…… 伝わらなかったなら伝わらなかったなりに諦めればいいのに、わざわざ丁寧に解説までする始末。 よほど自信があったんですかね? 当該図...
http://anond.hatelabo.jp/20150806000514 ですねー、もう注目エントリには入らないだろうからぶっちゃけたというのもあります。 自信があったかといわれると、書いた後の達成感もあって、あり...