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■時代のしるし 半藤一利「日本のいちばん長い日」

 文芸春秋に入り、伊藤正徳さんの担当になりました。伊藤さんは時事新報の社長を務め、『連合艦隊の最後』などを書いた方です。手伝いで、陸軍、海軍の大将などに話を聞き、リポートを作って渡していました。10人に2人くらいかな、伊藤さんが「この人はうそをついている」「当てにならない」という人がいました。「その場所にいたみたいに言っているけど、そんなわけがない」と。歴史を調べて書くためには、ある程度の知識が必要だなと感じました。

 伊藤さんは、1962年に亡くなります。亡くなる前に「あなたも今までたくさん昭和のことを取材したのだから、今後も続けた方がいい」と言われました。それが、今日まで続いているんです。

 過去の歴史を調べるための勉強として、自分なりに本を読む一方で、社内にも太平洋戦争を勉強する会を作りました。メンバーは10人くらいで、私がいちばん年上でした。ミッドウェー海戦などを戦い、まだ生きている人に、今のうちに話を聞いておこうと考えたのです。将来のために戦争の記録を残そう、ということではなく、ただ「もったいないじゃないか」という気持ちからでした。しかし、60年代は、平和主義の時代でもあって、社内でも「なんで戦争のことなんか勉強するんだ」と批判する人がいましたけどね。