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15年7月9日付・夕刊
(9)体質古い野球社会 足並みの乱れ、大丈夫?
「サッカーを甘く見過ぎていました。これほど差があったとは。井の中の蛙(かわず)でしたね」。取材終盤、高知県小学生野球連盟の高橋昭憲理事長(67)に話を聞くと、表情は険しかった。
5カ月前に取材を始めた時、高橋理事長は「このままだと数年内に50チーム台になるかも」と不安を口にしていたが、今は確信に変わりつつある。自分で本を読み、サッカー関係者の話を聞くにつれ、「ええ!?」となった。「組織としてきちんとしたルールができ、それにのっとってやっている。それを野球に持ち込んだら、組織が分裂するかもしれない。反発がないんですかねえ?」と不思議がる。
例えば、野球の場合、監督は原則的に5年以上の指導者キャリアが必要だが、なくても救済措置として、半日の特別講習を受ければ許される。それを認めないと、チームが成立せず、子どもにしわ寄せが行くからだ。何となくうやむやのままで来ている。指導者の罵声に対しても理事長が「太い声で言うな」と個人的に注意はできても、「今度やったらペナルティー」といった強い姿勢には出られない。野球の社会は体質が古い。
◇ ◇
高知県内の少年野球大会の始まりは1962年だ。参加は32チーム。しばらく横ばいで、1974年に「48」、1979年に「100」とふくれ上がった直後の1980年末、「少年連盟」と「学童連盟」に分裂。95年秋、一本化し今の「小学生連盟」となった。
息子の野球部入りで少年野球に関わった高橋さんは、チーム責任者から連盟理事を経て15年前、理事長になった。組織の融和と指導者のモラル向上などに取り組み、4年前からは「龍馬旗争奪西日本大会」(64チーム)を開催。運営の質が高く、さらに敗者復活の別大会も構えるもてなしが好評で、「高知の大会は素晴らしい!」。北海道からも参加が始まった。
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「少年野球の組織としては他県に比べて頑張っているつもりだったんです」と振り返る。だが、気付かぬうちにサッカーに足をすくわれ、深刻な事態になっていた。小学生の野球人口激減は、そのまま中・高校にもつながるだけに大問題。本来なら県内の野球団体が一丸となるべきところだが、現実は逆だ。6月末には高知県小中高野球連絡協議会が解散した。
そしてもう一つ、新たな「分裂」が今年、起きた。高知県小学生野球連盟主催の春の大会「鯉(こい)のぼり大会」は、昨年まで小学生の甲子園「全日本学童軟式大会(通称マクドナルド杯)の高知県予選」を兼ねてきたが、今年からマクド杯が別開催となったのだ。主催の高知県軟式野球連盟、安岡豊実理事長(70)が「自分らの大会は自分らでやるのが筋」と学童部会を設け、来年以降、さらに組織固めをしていくという。
キッズからプロまでが一枚岩で世界の頂点を目指すサッカーに対し、高知県内野球団体は足並みがそろわない。藤川球児投手の高知ファイティングドッグス参加で「追い風」を期待する声が強いが、現実は厳しい。
【写真】「高知の子に夢を」という藤川球児投手の思いに、故郷の野球界は応えられるのか(6月20日、高知球場の高知ファイティングドッグスオープン戦)
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