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15年7月8日付・夕刊
(8)勉強まで見るサッカー 野球は「人材」生かせず
幼児にまで食い込みつつある高知県内サッカー。だが、さらにジュニアを育てる動きが昨年、県内で相次いで起きた。プロや社会人のチームが、サッカー教室の運営を始めたのだ。少年サッカーの練習は週2、3日。それで物足りない子はもちろん、初心者も受け入れる「塾」。それは、高知大学サッカー部が行っている少年少女教室の「ビジネス版」ともいえるものだった。
その一つは2014年4月、高知県サッカー協会の提案で始まったJリーグ・セレッソ大阪の高知教室。元Jリーガーが週末に高知県を訪問。金曜夜と土曜の午後に高知市内でレッスン(60〜80分間)する。月謝は月4回で5900円。練習を見守っていたある父親は「価値に見合う内容です」。
地元勢の「アイゴッソ高知」も昨年4月、教室を県内3カ所でスタートさせた。こちらは月4回で4300円。
同じく「高知Uトラスター」も昨秋、南国市で開校。今春からは高知市、7月からは土佐市で始めた。特色は、サッカー教室にプラスして約1時間、勉強の面倒を見て、家への送迎もする。月4回で月謝はサッカーだけなら3500円(送迎込み)、勉強付きなら千円アップ。指導者は高知大学サッカー部OBを中心に元Jリーガーもいる。教員免許取得者ならではの付加価値だ。
「家に帰ってからだと、疲れて勉強できませんからね。練習のすぐ後は脳が活性化していて、いいらしいんです」と高知市教室参加の父親は喜んでいた。
プロも交じって「裾野」を広げ、「質」を高める多様な普及システム。Jリーグ入りを目指すチームなら、こうしたジュニア育成、地域貢献事業は必要条件という。そして、それが雇用創出にもつながっていた。
◇ ◇
では、野球はどうかというと、そういうシステムはない。というか、それに挑んだ事例が昨秋、しぼんでしまった。それはプロ野球・ヤクルトの吉川昌宏・元投手(37)=香美市土佐山田町出身。2011年暮れに引退。2012年秋、里帰りして実家近くでスポーツアカデミーを立ち上げたが、2014年10月で閉校したのだ。
旧小学校の体育館を借り、月、木曜の夕方、学年別に50〜90分間、ボールを使った練習はもちろん、マットや平均台も使い、体幹強化にも取り組んだ。
既存チームに入っている上達希望児童の手伝いをする塾形式で、月謝は週1回だと4千円。場所が不便で、親の送迎も大変だったこともあり、人数は次第に減った。
「お金をもらって野球を教えるということがなかなか、理解してもらえなかったところもありますね。高知の野球に何も貢献できなかったという寂しさがあります」と吉川さん。今は中谷元・防衛大臣の高知事務所で私設秘書をしている。
吉川さんの計画に甘さがあったのかもしれないが、願ってもない人材を生かすことができない高知県内の野球界。片や、ジュニア普及にビジネスとしても広がりつつあるサッカー。文化、歴史の違いとはいえ、何とももったいない話だった。
【写真】練習後、勉強の面倒も見る高知Uトラスターのサッカーアカデミー高知校(高知市大原町の高知市総合体育館内)
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