
15年7月6日付・夕刊
(6)プレーヤーズ・ファースト 野球と全く違う発想
高知県内の少年サッカーチームは、部員数60〜80の所帯が珍しくない。その話をすると、野球指導者は「そんなにいたら、子どもが試合に出られんろう」とあきれる。実はそこが大きな勘違いだった。
野球では、「試合」といえば高学年。4年生以下もまれに試合があるが、大半は応援かボールボーイで野球を勉強する。あるいは学校に残って簡単な練習。最近までは1、2年生を受け入れる所は少なかった。
だが、サッカーは、そんなもったいないことはしない。学年ごとに分かれて、大会出場や練習試合、練習をし、それぞれでレベルアップを図っているのだ。低学年の試合も積極的。1・2年生は10分ハーフ、3・4年生は15分、5・6年生は20分と、体力に合わせた試合時間だった。根底にあるのは「実戦経験が少ないと上達の機会を失う」という考え方だ。それを野球関係者に伝えると、「へー!?」となる。
驚きはまだ続く。サッカーは子どものプレー機会を増やすために工夫をしていた。小学生の試合は4年前から全国的に8人制に切り替わった。ピッチのサイズを大人用のほぼ半分にし、狭くした分、人数も減らすが、従来の1面分で2試合できるので、ピッチ上にいる合計人数は「22」から「32」へと10人増えた。
しかも、選手の交代はフリー。退いても再出場できる。試合の予選は3、4チームによるリーグ戦。トーナメント戦が大半の野球より、はるかに球に触る機会が多い。
さらに驚いたのは、子どもの体力に配慮した運営方針だ。大会によっては開会式を開かなかったり、抽選時にキャプテンだけで行う場合もある。日本サッカー協会では、子どもが家から試合会場まで、1時間以内に着けるようなブロック別のリーグ戦普及を提唱しているという。野球は大半の大会が全チーム、開会式に参加。会場集合は午前7時半前後。郡部のチームは大変だ。
合理性の追求は、まだある。チームの部員数が多ければ、同じ大会に高学年だけで4組出す場合もある。参加チーム数に制限がないのだ。参加数が増えすぎて日程消化がきつければ、試合時間を短縮する。夏場で暑すぎる場合は、途中で試合を止めて給水時間も入れる。融通が利くのだ。
さらに書くと、審判は県大会は3人制だが、それ以外は「1人審判制」が推奨される。目が届きにくくなるのは了解済み。審判にクレームをつけてはならないし、選手の自己申告でフェアプレー精神を養うのだという。
こうした話は、県内大会の会場を訪ねた際に運営者から聞いたのだが、日本サッカー協会の冊子にも出ていた。野球とは異次元の「プレーヤーズ・ファースト」だ。目を丸くしていると彼は言った。
「かといって、いいことばかりでもないですよ。サッカーの悪いところは、何でも自由ということ。礼儀作法は野球や剣道に負けます。野球は子どもの聞き分けがいい。サッカーはよく言えば『多様性』、悪く言えば、『いろんな人間ができる』んです」
【写真】サッカーの練習は服装も、持参のボールも自由(高知市の大津少年サッカースクール、大津小学校)
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