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15年7月4日付・夕刊
(5)サッカー少年 2000人 理念、組織がけた違い
「プレーヤーズ・ファースト」「リスペクト宣言」。少年野球の世界では聞いたこともない合言葉が、サッカー界では当たり前に使われていた。
「選手のことを第一に考える」「周囲に敬意を払う」。野球には、そういう全国一律の指針がない。高知県小学生野球連盟の規約には「小学生の健全育成に寄与することを目的とする」とあるが、それ以上は書いてない。基本的にはチームの指導者任せだ。
サッカーはこうした標語以外にも、指導者と審判にはライセンス制度(2〜4年で更新)があり、常に研修が課される。少年野球は1日か2日の講習を1度受ければおしまいだ。また、日本サッカー協会は「暴力・暴言追放ポスター」を作り、「サッカーは子どもが主役」「わが子への過度の期待は禁物」と印刷物で呼び掛ける。
◇ ◇
高知県サッカー協会の事務所はJR高知駅前のビルにあった。建物は古いが立地は抜群。その3階のフロア約80平方メートルに、事務局長と女性スタッフの計4人が常駐する。将来のJリーグ入りを目指す「社会人」から「シニア」「女子」「キッズ」まで全世代の世話役だ。
高知県内の少年人口を尋ねると、協会登録数は6月時点で55チーム、1557人。野球を500人近く上回っていたが今後、さらに100人以上増えるらしい。それだけでも驚きだが、もっと驚いたのは、過去20年間分のデータを一瞬に打ち出したことだ=グラフ参照。
小学生野球連盟にはそんなデータはない。この連載で最初に紹介した過去10年間の選手数は、記者が夏の選手権大会プログラムに載っている選手名簿を手作業で足し算したものだ。
少年野球は何もかもがボランティア。理事長も理事も本業の合間に手弁当で事務処理や連絡、大会運営。事務所は理事長の会社の社員寮の一室だ。一方、サッカーは、日本協会から高知県協会へ「基盤強化費」として年間1千万円の事務局運営資金が下りていた。組織面でもけた違いだ。
それにしても、野球のほぼ1・5倍の人口。差は大きいと思っていたら、さらに“隠れ人口”があった。小学3年以下はほとんどカウントしておらず、実質は2千人という。「すごい…」とうなると、国沢卓(たく)事務局長(61)は、「すごくないんです。高知は全国で断トツの最下位。遅れてます」。46位の山梨県とは約380人も差があった。
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少年野球の衰退の要因について野球関係者は、「少子化」「親の負担の大きさ」「サッカー人気と手軽さ」といった漠然としたイメージで語っていたが、サッカーを取材するとそんなものではなかった。
日本サッカー協会は1996年に「Jリーグ百年構想」という長期ビジョンを打ち出し、その9年後には「2050年までにW杯優勝」という目標を宣言。全国が一枚岩となって普及と強化に取り組んでいた。片や野球は各世代がバラバラ。まとめ役はいそうでいないという。
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